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2-怒ってるの?




「幸太」

「遊びにきたよ」


 講堂での始業式が済み、担任が戻ってくるのを教室で待機している間、隣のクラスから大和と真希生がやってきた。


「ひっ……イケメンコンビきた……っ」

「隣のクラス、うらやましすぎ」

「クラス替え、今すぐやり直してほしい」


 多くの女子が色めき立つ。確かに容姿端麗な二人が並んでいると、ぱっと場が華やぐ、これでもかと人目を惹きつける。


 単身でも、大和の場合はバスケの試合前後に差し入れが相次ぐ。真希生に至っては街中で盗撮被害に遭うこともしばしば、SNSで見知らぬアカウントに写真が無断で投稿されていたこともあった。


「おー、大和、真希生ー」


 そんな二人に幸太が加わると……さらに二人のイケメンっぷりが引き立つというか……平々凡々な幸太のフツメンっぷりが際立つというか……。


「私もコータくんのポジションになりたい」

「そこ代われ、コータん」


 一部の女子がギラつく中、幸太は幼馴染み二人を笑顔で出迎えた。


「俺、こっちのクラスがよかったな」


 ネイビーのセーターを腕捲りした大和は幸太の真横にすっと立つ。


「うん、僕も。こっちのクラスになりたかった」


 キャメル色のカーディガンが似合う真希生は幸太の机に浅く腰掛けた。


「なに、あのゾーン、楽園?」

「天国だ、天国」


 話しかけたいが、イケメンパワーに気後れし、女子は遠巻きに彼らの見守りに徹していた。


「ね、幸太。このコって転校生だよね?」


 始業式が行われた講堂では外していたが、またフードをかぶって前席で頬杖を突いている朔也の存在に真希生が触れる。


「あ、うん。中邑朔也くん」

「ふぅん。中邑くん、ね」

「あ」


 朔也がやおら振り返り、幸太はちょっと慌てた。


「朔也くんの悪口言ってたわけじゃないよ!?」

「後ろで自分の(はなし)されたら、当然、気になるよね」

「すまない、悪気はないんだ」


 あたふたしている幸太の肩に腕を回し、真希生は転校生に微笑みかける。

 大和はベージュのセーターを着用している幸太の頭を大きな手で撫でた。


「僕はね、幸太の幼馴染みの小野塚真希生。そして彼は峯大和。同じく幼馴染みでバスケ部エース」

「別にエースってわけじゃない。中邑、何か興味ある運動部があるなら紹介する」


 幼馴染み三人の普段通りのスキンシップに、見守りに徹する女子一同は毎度ながらテンションをあげていた。


「う゛~ッ、コータん、う゛らやましすぎッ」

「いやいや、二人からあんな同時接近されたら失神モンだって」


(さっきから全部聞こえてるんだよなー……たはは)


「あれっ?」


 朔也が何も言わずに席を立つ。そのまま俯きがちに彼は教室を出ていってしまった。


「なにあれ、かんじわる」

「峯くんと小野塚くんのこと無視したよ、信じらんない」

「てかさ、あの転校生、なんか怖くない?」

「前の学校で事件起こして転校してきたとかじゃ?」


 丸聞こえの会話に、さすがにそれは飛躍しすぎでは、と幸太はつい苦笑する。


「どうしたんだ?」

「何か気に障ったのかな」


 大和と真希生は幸太に親しげに触れたまま、廊下へ去っていった朔也を見送っていた。


「二人とも、そろそろ教室戻んないと、先生来るよ?」


 幸太に言われて、名残惜しそうにしながらも二人は隣の教室へ移動していった。


(真後ろで自分の話されて怒っちゃったんだろうか、朔也くん)


 ていうか、戻ってこないんですけど。

 お世話係に任命された手前、放っておけないよな……。


 幸太は急ぎ足で教室を出た。まだ生徒の行き来がある廊下を進み、朔也を探す。


「転校生だからって、その髪の色はないでしょ」

「目立ちたがりクンなのかなー?」


(げ!!)


 視界に飛び込んできた光景に幸太は目をヒン剥かせる。

 

(朔也くん、三年に思いっきり絡まれてる!!)


 階段の手前で上級生に絡まれている朔也を見つけ、幸太は大慌てで駆け寄った。


「すみません! ごめんなさい! 先生が呼んでるので連れていきまーす!」


 見るからにヤンチャそうな三年生二人に必死こいて言い訳し、朔也の腕を掴んで、その場から連れ出すのに何とか成功した。


(あー、怖かった……! 胸倉とか掴まれたらどーしよーかと思った……!)


「今の、三年の中でもヤンチャな人達なんだ。前に大和と真希生にも文句言ってきたことがあって……」


 朔也に乱暴に手を振り払われて幸太はハッとする。


 さっきの上級生に外されたのか、フードをかぶっていない、サラサラしたパツキン頭を曝して立ち止まった転校生に戸惑った。


(……朔也くんの地雷がどこにあるのか、おれには、わからない……)


「ごめん、余計なことしたかな」

「……」

「とりあえず、ほら、教室戻ろう」

「……」

「……どうかした?」


 朔也は一向に動き出そうとしない。最早お手上げであり、肩を竦めた幸太は一人で教室へ戻ろうとした。


「……、……」


 かろうじて彼の声をキャッチした耳。幸太は足を止め、改めて転校生と向かい合った。


「え? なに?」

「……れ……」


(声ちっさ!!)


「朔也くん、なんて? まさか具合悪いとか?」


 猫背で顔を伏せがちな朔也を覗き込んでみれば、長めの前髪越しに、切れ長な一重の双眸と出会って幸太は微かに息を呑む。


(……すごくきれいな目だぁ……)


「……もれそう……」

「え?」 

「……トイレ、どこ……」

「あ! こっち! 男子トイレはこっちです!」


 思わず敬語になって、実はトイレに行きたくて迷子になっていた転校生を目的地へと案内してやるのだった。




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