1-幼馴染みと転校生
仲山幸太には仲のいい幼馴染みが二人いる。
「幸太、またノラネコに引っかかれたのか? だいじょうぶか?」
クラスのリーダー的存在で、どんなときでも頼りになる峯大和。
「ばんそーこ、はってあげるね」
ときどき女の子に間違われることもある、可愛らしい顔立ちをした小野塚真希生。
幼稚園も小学校も同じで、登下校は一緒の班だった。親同士もご近所付き合いで顔馴染みの仲にある。大和の妹、真希生の姉のことも幸太はよく見知っていた。
「幸太、ほっぺたに海苔ついてるぞ」
「好きなオカズあったらあげる、幸太、どれがいい?」
遠足や運動会でも必ず一緒にお弁当を食べたり。
「寒くないか? 俺のジャージ貸そうか?」
「あ、ほら、また流れ星、きれいだね」
なんとか流星群のときには誰かの家にお邪魔して、ベランダや部屋の窓から一緒に夜空を観察したり。
「バスケの試合、見にきてくれるよな?」
「今度の土曜日だって、一緒に行こうよ。ね、幸太?」
中学も三人一緒のところへ。
「三人とも同じクラスだ」
「本当? よかった、三人一緒だと心強いよね。ね、幸太?」
高校まで一緒に……。
「三人、同じクラスになれるなんて奇跡的だよなー、すごいすごい」
桜の花弁舞う校庭。新入生で溢れ返る生徒用玄関。多くの視線を惹きつける大和と真希生。
そんな二人の視線を独占している、可もなく不可もなし、極々普通の見た目をした幸太。
(おれの幼馴染みの大和と真希生)
ずっと三人一緒に過ごしてきたけど、またこれからも一緒に高校生活を送れるなんて、嬉しい。
それにしても。
二人とも、高校生になって、またさらに……。
「あの背が高い黒髪の人、かっこよくない?」
「あのコ、××中のバスケ部にいたよ、同じ高校とか嬉しすぎる……」
(高校でもバスケ部に入るつもりの大和は「あと2センチほしい」って嘆いてるけど、嘆く必要ない、178センチで十分だよ、168センチのおれからしたら立派な高身長だけどなー)
「え~、私は隣のコがいいなぁ、顔きれい~」
「一般男子とオーラが違う……キラキラしてる……」
(わかる、昔は女の子みたいに可愛かった真希生だけど、今じゃあすくすく育って身長174センチ、芸能人みたいにオーラがあって目立つ、とにかくキラキラ度が半端ない)
「一緒にいるコは……なんか……普通?」
「モブっぽい」
(で、体型も成績も平均値ぶっちぎり、ザ・普通なおれ)
「これから身長伸びるかなぁ」
「まだまだ伸びるだろ、なぁ、真希生?」
「うん。でも、今のままでも幸太は問題ないと思うよ」
二人から頭をポンポンされた。明らかなお子様扱いを特に嫌がるでもなく、幸太は呑気に考える。
(伸びるかなぁ、実はこれからグングン伸びて二人を追い越しちゃったりするかも……?)
そんなこんなで一年が経過した。
幸太の身長は相も変わらず平均値ぶっちぎりの169センチに、ちなみに成績は平均点をちょっとだけ下回る結果に……テスト勉強の際、眠気に全敗したのがいけなかった。
「今年は幸太だけ違うクラス、か」
二年生になった大和は念願の2センチUPを果たして180センチに、部活動や自主トレに励んで筋肉がつき、体つきもぐっと男らしくなっていた。
「せっかくなら三年間、卒業するまで一緒のクラスがよかったな」
短めの黒髪、精悍な顔立ち、バスケットボールを巧みに操る大きな手。試合では常に歓声を浴び、大きな大会ともなれば一般客からも注目されるほどに華があった。
「僕と大和は一緒で隣のクラスだし、幸太、いつでも遊びにおいで?」
真希生は美形ぶりに恐ろしく磨きがかかった、この一年間で学校一の女子人気を獲得するほどに見目麗しく成長した、ちなみにこちらは身長が3センチ伸びて177になっていた。
「教科書、忘れたら貸してあげる。だから僕がもし体操着を忘れたら、幸太の、貸してね」
滑らかな桜色の肌、水底のビー玉のように淡く煌めく双眸、生まれつきの天然茶髪。春風にじゃれつかれるその姿は、春の申し子さながらに今にも甘く香りそうだった。
「いやいや、真希生がおれのジャージ着たらお腹とか足とか出ちゃうって!」
整髪料をつけていない黒髪、ちんまりした奥二重の瞳、集合写真では自ずと後ろに下がる幸太は非凡な二人を前にして思う。
(せめて! せめてもう1センチほしい! 170になりたい!)
ちなみに幸太のクラスには転校生がいた。
「……、……」
教室にいた生徒全員、ごくりと息を呑んだ。
黒板の前に立った転校生男子。
チャコールグレーのセーター上にカーキ色のパーカーを羽織っている。フードを目深にかぶっているが、パツキン……のようだ。担任が「中邑朔也くん」と紹介していたから、外国人ではなさそうだ、パツキンに染めているのだろう。
フードのせいで、どんな顔をしているのかイマイチわからない。猫背で身長もわかりづらく、小声の挨拶は最前列の生徒でも聞き取れなかった。ただ色白で細身であるのは何となく把握できた。
「席はあそこね。ああ、後ろの仲山くん、中邑くんに学校のこと色々教えてあげてね」
幸太はお世話係にちゃっかり任命されてしまった。
(ぱっと見、不良っぽい)
前の席に転校生の朔也がやってくる。とりあえず幸太は笑顔を浮かべて出迎えた。
「はじめまして、どうもよろしく、朔也くん」
返事はなし。フードの下からチラリと目線だけはもらえたようだが……。
(……朔也くん、人見知りの猫みたいだ……)