出会い
セナとスーパーカーはエルフの森のはずれでひっくり返っていた。
「ぐふっ、スーパーカーは無傷だが身体はボロボロだ…。エアバックと風魔法である程度衝撃は軽減できてよかった。危うく異世界でもスーパーカーデビュー日に逝くところだった。」
セナはエアバックにつぶされながら九死に一生を得たことに安堵した。セナは痛む身体を無理やり動かしもぞもぞと外へ出る。
すると何故か飛び出たエアバックが元に戻っていく。あまりにも便利すぎやしないだろうかとセナは思った。
「うぅクソ、頭痛いし気持ち悪い…。さっさと治そう。」
セナは両手を自分にかざすと、白い光に包まれていく。すると身体中にできた打ち身や擦り傷が消えていき、頭痛や吐き気も収まっていった。これは光属性の治癒魔法だ。セナは光の適正がBなのでそれなりの治療が出来る。
「でももう魔力がすっからかんだ。これからどうしたものか…。」
治癒魔法は凄く便利だが最大の欠点は魔力消費量が尋常ではないということだ。魔力量は個人差があるが、基本高い適正を持っている者は大体魔力量が多い。セナはA適正持ちで魔法が得意なエルフ族の為魔力量はかなり多いのだが、スーパーカーの燃料と峠づくり、大クラッシュの際につかった風魔法などで大半を使っており治癒魔法で残りを根こそぎ持っていかれたのだ。
「まずいな、どうやって帰ろう。家の方角は爺ちゃんの山(今は峠と化した)が見えるからわかるけど何せ距離が遠い。愛しの相棒も燃料切れだし…。仮に今魔物に遭遇したら雑魚でも勝てる気がしないぞ。」
今のセナは正真正銘ただの5~6歳程度の子供である。エルフは身体能力が低い代わりに魔法の適正が高い為戦闘はいつも魔法で行うのが基本だ。そのエルフが魔力切れを起こすのはいくら里が近くてもかなり危険であった。今はひっくり返ってるスーパーカーによりかかるので精一杯なくらい消耗していてなかなかに詰んでる状況である。
「何よりこんな事になったのを母さんにバレたら一生外出禁止にされそうだ。あの人の過保護さはかなりぶっ飛んでるからな~。俺が初めて里の市場に一人で買い物に行くときも爺ちゃんの家から勝手に持ち出した宝剣を持たせようとしてたし。」
などと呟いていると、近くの茂みからガサガサと音がした。
「っ!??まさか魔物か?よりにもよってこんな時に!」
セナはビクリと体を震わせた。里の近くには凶悪な魔物はほぼいないが今のセナは雑魚魔物にもやられる可能性がある。
しかし、茂みから出てきたのは魔物ではなかった。
「ボク、大丈夫?ケガしてるの?」
「え?」
見た目は16歳ほどのセミロングヘアのエルフの少女だった。しかしいつもセナが見ているエルフの里の住人とは違うところが2つあった。
1つは漆黒の髪。エルフの里には金髪か銀髪か白髪の住人しか存在していなかった。
2つ目は瞳の色がルビーのように紅い。セナは金髪碧眼で、里にも碧眼か蒼眼しかいない。
セナが不思議そうに見ていると少女は再び口を開いた。
「怖がらないで平気だよ、傷つけたりしないから。どこが痛いのか教えてくれる?」
「あ、いや。ケガは治癒魔法で治したんだけどそれで魔力が空っぽになっちゃって…。」
「そうだったんだ。でもここにずっと居ても危ないから一度私の家においで。嫌かもしれないけどここよりはずっと安全だから。」
「あ、ありがとう。」
セナがお礼を言うと黒髪の少女は優しく微笑んだ。