安全運転を心がけましょう。
走り出したスーパーカーの中でセナは凄まじく振動していた。
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」
調子に乗ってアクセルを全開にして山を爆走した結果、スーパーカーが削岩機もびっくりの揺れを実現させた。当たり前である。整地されていない地面を車、それもスーパーカーが走ればえげつなくガタガタするのだ。本来ならどこかしらが故障しそうだがこのスーパーカーは無敵なので無傷である。
「何のために土魔法をA適正にしてもらったんだか」
停車させ、車を降りて一人呟く。そう、セナが転生の際に風と土の魔法をA適正にしたのはスーパーカーを乗り回すのに最適だと判断したためである。音関係に影響を与えられる風魔法、車両用の道路など存在しない異世界で整地をするための土魔法を選んだ。スーパーカーに乗れた喜びで整地の事をすっかり忘れていたのだ。
「よし、いきなりだがこの山を峠風に改造だ。」
セナが両手を地面に置くと、見る見るうちに山が変化していく。荒れた地面は平たんになり、山の倉庫から麓までを一本道にした。前世の知識の応用で道の材質をアスファルトに変化させる。
土魔法がA適正であることもそうだが、闇以外の属性が全て使えるエルフの特権だと思う。
この変わり果てた山の説明は未来のセナに託し、再び乗車して走り出した。
「うーん快適!やはり道路あってこそのスーパーカーよ。おまけに無人の峠とか飛ばすしかないっしょ!!!」
セナは再び舞い上がりアクセルを全開にする。この広大な峠(仮)を他人を気にせずに走れるとか最高の極みだ。コーナーに差し掛かかると、あざやかにカーブを決める。
「ブレーキングも完璧だ。このスピードを制御出来るのだからブレーキの性能もスーパーだな。しかしこれだけ走ってもまだ半分もきていないとはでかすぎだろこの山。」
直進できる場所も多くカーブも比較的緩やかなのでかなりの距離を走ったはずだが未だ窓から見える景色は圧巻の一言。高速走行の中でもまどろむ余裕がある。そもそもこの世界自体が広く、その中でもエルフの里があるこの森は1番広いのである。だから現段階でもこの森の全貌は明らかになっていないのだそうだ。
以前セリーヌからエルフの里から離れすぎてはいけないと何度も注意されたことがあるが納得だ。親族の敷地内でもこの広さなので森の全貌といったら計り知れない。どんな魔物が潜んでいてもおかしくはないから今後も注意しよう…
――と考えていると突然前方に何かが飛び出してきた。
「!!!!??」
見落としていた。人はいなくてもここは自然の中なのだ。動物がいてもおかしくない。どうやら兎のようだ。
セナはタキサイキア現象が起こり、どうするかを瞬時に考えたがブレーキは間に合わない。だから兎を轢かないように咄嗟にハンドルを大きくきった。
するとセナを乗せたスーパーカーは300キロを超える速度で絶景の中に放り出された。
「あっぴゃぁぁァァァァァァァァァァ~~~!!!!!」
間抜けな悲鳴と共にセナを乗せたスーパーカーは広大な森の中に投げ出され、空中で大回転からの特大クラッシュをかますことになった。