念願の。
転生して物心がつき始めた頃、俺は家の裏にある広場で待ち望んだその時を迎えた。
「ついに、我が愛する相棒の到着の時だ。まさか異世界でスーパーカーに乗ることになるとは夢にも思わなかったぞ。」
すると目の前が大きな光に包まれその中から姿を現したのは――
「ああ、やっと出会えた。愛しのスーパーカーよ…」
これでもかと主張する赤い塗装に流麗なフォルム、通りがかった人が誰でも目を引くような圧倒的存在感。そしてこのスーパーカーのシンボルとなっている跳ね馬のエンブレム。完璧だ。紛う事なき俺が生前購入したスーパーカーだ。
「よ~し早速乗るか!!!」
ドアを開けて運転席に乗る。車高が低く、乗り心地は良いとは言えないがそこがまたいい!
「そしてエンジンをかけてっと」
スタートのボタンを押すと、たちまち振動とともにブゥオオオン!!という神サウンドが耳を幸せにする。
「これだよ。これこそスーパーカーの醍醐味!一般人には決して理解されないこの究極のメロディ!」
まるでまどろみの中にいるような感覚を覚えているが、この爆音は周りの人々の迷惑になることが多々ある。乗っている方は心地いいがスーパーカーに興味のない人から見ればただのキチガイであるからだ。
「とりあえず走らせよう」
そう思ってブレーキに足をのばして気付いてしまった。
「足が届かねぇーーーーーーーーーー!!!!?」
よくよく考えてみればそうである。記憶は前世の大人の頃の記憶を引き継いでいるが、今の自分は物心がついたばかりの見た目5歳~6歳の子供の見た目なのだ。
どんな車でもある程度の身長までは対応しているがさすがに小さい子供が運転出来るようには作られていない。
セナが落胆していたその時外から声が聞こえた。
「セナ?凄い音がしてるけどどうしたの―― って何これ!?」
俺の転生後の母―― セリーヌだ。
ちなみに俺の名前は前世と同じセナである。理由は不明だが神様が何かしたのだろうか?
セリーヌはスーパーカーとそれに乗ってる俺を見て
「え!?これ、何かの魔道具?セナ、どこから持ってきたの!?」
しまった。両親や同族のみんなにスーパーカーの説明をどうするか全く考えていなかった。
頭が真っ白になってしまったセナは
「庭であそんでたらいきなりめのまえが光ってそしたらこのカッコいいモノが出てきて、なんかよくわからないけどかっこよかったからのってみてボタンみたいなの押したらぶおおおおんてなって足が届かなくてくぁwせdrftgyふじこlp」
「ちょっ、ちょっと落ち着きなさいセナ!わかったからとりあえず降りてきなさい!」
そう言われてスーパーカーを降りるとセリーヌに抱きかかえられる。
「ケガは無い?…大丈夫そうね。それにしてもこれ、一体なんなのかしら?」
「さ、さぁ?なんだろうね?でもすごくかっこよくない?」
「かっこいいかは置いといてこれどうしましょう…。お父さんにも聞いてみないと」
そういうとセリーヌは手に風を纏い耳にあてて話し始めた。
簡単に言うと魔法の電話みたいな感じだね。
セリーヌは会話を終えてから言った。
「今からお父さんにも来てもらうからお母さんと家の中で待っていましょうね」
「う、うん」
さて、スーパーカーが無事に届いたまではいいが両親になんと説得しよう。
セナは母の腕の中でガックリと項垂れながら家に入った。