夢
昔5歳頃、よく持ち歩いてたクマのぬいぐるみがあった。
ただ歳をとる度にそのぬいぐるみは使わなくなり次第に存在すらも忘れていった。
時は経ち現在。
部屋の片付けをしていたところそのぬいぐるみを見つけた。
最初は普通にゴミ袋に入れ何事も無かったが、異変が起きたのは次の日だった。
なんと片付けでゴミに出したはずのぬいぐるみが棚の上に飾られているではないか。
おかしいとは思ったものの、誰かのイタズラと思いもう一度クマのぬいぐるみを捨てた。
だが翌日もそのまた次の日もクマは同じ位置に現れた。
怖くなった俺はクマを直接焼却炉に持っていった。
燃えるゴミの袋をクマの上から2重にして被せて焼却炉まで歩く。
異変が起きたのはこの時だった。
ゴミ袋の中が僅かに動いた気がしたのだ。
瞬間、背筋に寒気が通る。
その手は無意識にゴミ袋を地面に投げつけていた。
袋の方を見るとクマのぬいぐるみと目があった気がする。
というよりもクマがこちらを覗いている感じがした。
ぬいぐるみの愛嬌のある目が今は狂気で満ちた快楽殺人鬼のように感じた。
怖くなった俺は慌ててクマのぬいぐるみが俺の方を向かないようにゴミ袋を動かした。
その時だ。
クマのぬいぐるみは明らかな敵意を向けて俺の方に振り向いた。
ボタンの目は生気を感じ無いはずなのに見れば見るほど憎しみと狂気の感情が俺の恐怖心を煽ってくる。
思わず俺はゴミ袋を投げ捨て、それを踏みつけた。
いつか袋が破けて空気が漏れる音がしたが、なりふり構わず踏み続けた。
気がつくとクマのぬいぐるみは中の綿が見えており、原型を留めていなかった。
俺は一時その場から動くことが出来なかった。
息が荒いことに気づく。
結局燃えるゴミの袋をもう1枚持ってきて、クマだったものを袋に詰めて、焼却炉で燃やした。
燃えるところを見届けて、俺はやっと肩の力を抜いた。
だが、夕飯は少しも喉を通らず、体調不良を訴えてすぐに床に就いた。
その日、夢を見た。
夢の内容は黒猫と戯れる俺を背後から見ている夢だった。
いくら時間が経っただろう、黒猫と戯れた俺はスっと立ち上がると振り返り能面のような顔でこちらを見た。
少しづつこちらへと近づいてくる。
俺との距離がおよそ半分になったくらいだろうか、その俺はノイズが走ったかと思うとクマの容姿をしていた。
体が動かない中、そのクマの容姿をした俺(?)
は俺に言う。
「どうやって殺そうか?」
目が覚めた。
そうここで目が覚めたのだ。
気がつくと何故か部屋の端にあるベットのその壁際に向かうようにして寝ていたのが分かる。
そこまで寝相が悪い訳では無いはずだ、と思いながら夢の内容が鮮明に頭の中に反芻していることに気づく。
そして後ろから感じる、悪意とも害意とも言える視線に戦慄した。
部屋は暗い。
目が覚めたのは体感6時くらいだと思った。
ここで背後からスマートフォンのアラームが鳴る。
5時半を告げるアラームだ。
俺は恐怖のあまり振り返りアラームを止めることすら出来なかった。
何回だろうか、アラームが鳴り止んだころ俺の心臓は音が聞こえるほど鳴っていた。
目を閉じ、壁に頭を寄せる。
バクバクという音を立てながら動く心臓をなんとか収めようと必死に深呼吸した。
いくら時間が経っただろうか。
気がつくと目の端にうつる窓の外は青く光っており、アラームから相当数の時間が経っていることが伺える。
気がつくと鳴りを潜めた心臓にやや澄んだ頭が夢の内容を否定してくれる。
身体中汗だくになっており、夢を見たというのはより明瞭に、だが朧気になった。
ものすごく気だるく重たい体を起こす。
ふとスマートフォンの所在が気になり振り返るとそこには、クマのぬいぐるみが刃渡り30の包丁を持ってスマートフォンの上に立っていた。
そして問う。
「お前のことをどうやって殺そうか。」
と。