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彼の地のアスタ  作者: 真代たると
6/9

No,5 chance meeting

────────────────────邂逅


「君たち、それ知ってるのかい」


生活スペースらしき部屋の角、隠されるように配置されていた暖簾の奥から声が聞こえ、かき分けるようにして女が顔を出す。目が痛くなるほどに特徴的な赤い髪を結い、整った顔立ちをしている。少し鋭く、どこか柔和なその瞳は暖色を灯しており、それを覆う縁ナシの眼鏡は凛々しさを引き立たせ、細く伸びた眉の上にはぽつんと一つ小さな黒子。クールそうなその顔に残るあどけなさの正体はまさしくソレだ。


「人…!」

「生身じゃん」


盛り上がる2人を他所に気怠そうに頭を掻きながら、


「あー、あのー盛り上がってるとこ悪いんだけど、君ら、誰?てかここロックかかってたよね。なんでここいんの?あとその散らかしたやつ、ちゃんと片付けて」


と、出会ってそうそうにお説教を食らうのだった。


「…すみません」


そんなこんなで文字通り、刺された水によって高揚した頭は完全に冷めてしまった。


「…で、なんでここまで来れたのか、聞いてもいいかい」


沈黙した空気の中、間髪入れずに次の質問を投げかけてくる赤髪の女。

依然距離感は変わらず、暖簾をわけてだるそうに覗き込んでいる。


「えーっと…」


「別に横道手順は踏んでない。私達はきちんと鍵を持っているからここまで来ただけ」


嘘は言っていない。

この2人が放った言い分は至極真面目な真実の話であった。

ただ、その鍵は持ち合わせていたものではなくて拾ったものではあるのだが。


「…ふーん。ま、いいわ。君達が悪漢でないことは見たらわかるし。そもそも無警戒でワイワイしてんのが子供っぽくてなんともね。それでも場所は選ぶべきだけど」


経緯を話すと今までの態度が一変。

なぜだか急にフランクな態度をとるようになった。


「…それだけ?なんか…ないの?」


「何かって何さ」


いや、普通こういう場合は無警告で頭蓋骨ぶち抜かれておミソを撒いたって何らおかしくは無い状況のはずだ。

こんな一瞬でこうも砕けた態度を取られると此方としても緊張が崩れるし、何より信用できない。

勝手に侵入した立場で言う事では無いのだが、もう少し威厳というか、危機感を持った方がいいと思う。


「…まあ、何も無いならないでいいかな。こっちとしてもありがたいし。ね、リア」


「私は別にどっちでも。あの人がやるならやるし」


「物騒な子供だ事」


「なにか文句でも?」


和解しかけた空気はまた冷えつき、次の言葉をどう紡ぐべきかを頭の中で模索する。

目前の女は動かず、リアはそっぽを向いていた。

どう考えても悪化の原因を作ったのはこの隣の少女なのだが、彼女はこれでいい。

過度に喧嘩腰では無いが、常に警戒は怠らない。

現に今もすぐ対応できるよう、精神を張りつめているのがよく分かる。


「…いつまで止まってんの。もういいから、ちょっとこっち来て」


誰も口を出さなければ延々と続きそうなこの静寂を断ち切ったのは、意外なことに赤髪の女だった。


手招きのままに暖簾をかき分け、彼女のいる部屋へと足を踏み入れる。

そこは先ほどよりも広く、さらに多様な機械があるべき場所へと収まっていた。

大体15畳くらいだろうか。L字の形をした部屋のくぼみには机と椅子。

そこに女は座った。





「リア、もういい加減よして。あの人は何もしてこないよ」


「…そ。」


ようやっと緊張を解いた彼女は疲れたのか、少し身体を預けながら楽にして立つ。

…いつかの時もそうだったか。

この少女は初対面の相手に対して極度の警戒心を持っている。勿論、私の時だって最初は有り得ないほど警戒されていた。



「そーいや、ここに来た目的を聞いてなかったね。目的はあるんだろう?」



「…!」


そういえば、そうだ。

ここに来た本来の目的を忘れるところだった。


「これなんですけど…」


そう言って件の頁を開き、彼女に見せると


「…本当に君はこれを頼りにここまで来たのかい?」


第一声がそれだった。

まあ、言わんとすることは大いに理解出来る。

普通の地図というものは、幾つかの地点をおさえて道筋を教える役目を持つものだ。

なのにこれと来たら、北へ進めと一言、落書きのような道順と申し訳程度の外観が添えられているだけのものだった。

もし、この地を知り尽くしている人だったら苦労はしまい。

つまりそういうことだ。


「まー…、運、?ですかねぇ…」


「その終わってる地図描いたの、あんた?」


「バカを言うな!こーんな巫山戯たような地図、私が描くと思うか!?」


激昂も激昂、私はこんなにナンセンスじゃない!

なんて青筋を立てながらまさに怒っている。

先程よりも凄い剣幕で。

勝手に入られて怒らないくせに、こういうので激怒するというのはなんというか、すごく変わった人だ。


「はぁ…疲れた」


結局、あれからしばらく文句を言い続けた。

その中で、何度か耳をかすめた言葉が気になる。


「あのー」


「何」


「さっきからちょいちょい言ってる、“オキタ”って誰のことなんですか?」


そう。先ほどから何度か女が口にした“オキタ”という名前らしき言葉。

なんだか遠い昔に聞いた覚えがある。

いつ、どこで、はすでに霞の空だが、その名前だけは頭にこびり付いていたみたいだ。


「オキタ?ああ。その地図を描いた人間さ。今日日聞かないだろ?」


「友人…なんですか?」


「友人なんてもんじゃないさ。ただ、」


「ただ?」


「…ただの知り合いだ。きっと、今もこの空の続く場所にいるさ」


女は全体重を椅子に預け、何かを惜しむように天を仰ぐ。

その眼はきっと過去を見つめていた。


「さて、私の話はここまでだ。そういえば、君の名前を聞いてなかったね。私はヨナ・ウィーネ。気軽にヨナと呼んでくれ」


先程とは打って変わって、毅然とした態度で挨拶を求めてくるヨナという女。

向こうが名乗ったからには、こちらも返すのが礼儀というものだろう。


「私はエネ。こっちの猫耳はリア。よろしく」

「よろしく」


「ああ、よろしく頼む」


互いに挨拶を交わしたところで、早速本題へと入る。

この地図の”何か”を確かめなくてはならない。


「で、ヨナ、結局この何かってのは何?」


なんとも身も蓋もない質問だが、そう聞くしかないのだ。

事実、”何か”としか書いていないのだから。


「さあ?私には分かりかねる。そもそも、ここにはその”何か”に該当するであろうものが幾つかある。勿論、君らの言うその匣だって私の発明品だ。因みに、正式名称は元素匣。純粋な火、水のみを保管できる、今となっちゃ必需品だ。」


確かに、これを手に入れるまではしんどい思いばかりしていたが、手に入れてからは生活が一変した。毎日手の皮剥いて日を起こす必要も無し、大きいタンクに水を保管して引きずる必要も無くなった。まさに大発明と呼ぶべき代物だろう。


「他には何があるんです?」


「あと…は、そうだな」


そう言って取り出したのは、手首につけるであろう少し小さめのバングルと、イヤリング。


「…?別に今そういうのは必要じゃないと思うんだけど…」


「まあつけてみなよ。ほれ」


ぽーんと放られる2つのアクセサリー。

渋々言われるがままに右手首と左耳に付ける。


「…、?えと、何が変わったの?」


「早い早い。これからだって。ほら、右腕を胸の位置まで上げてみな」


「…………???」


訳の分からぬまま、右腕を胸の位置まで上げる。


「だからこれで何が─────」


何も変わらぬではないかと苦言を申し立てようとしたその時、青白い光がバングルから漏れだし、ドーム型のホログラムが展開された。


「な」


「「なにこれーーー!!!!」」


流石にリアも面食らったようで、2人揃って仰天。

今までに見た事も聞いたこともないようなそれは、今までの道程が全て分かるほどに、正確な地図を描いていた。


「凄いだろ?これが喪失文明の真骨頂、”星詠み(ほしうたみ)の地図”。

限りなく精巧に再現されたその地図は星の活動を元に毎秒更新される。君たちが何処をどう動いていても、自分だけは見失わない」


前々から侮れぬとは思っていたが、まさかここまで異次元らしきものだとは思ってもいなかった。

コンパス程度があればいいな、なんて考えていたら、思わぬ物に出会ってしまったもんだ。


「で、このイヤリングは何?これも何かしら権能があるんでしょ?」


星詩みの地図を同様に覗き込んでいたリアは、先ほど渡されたイヤリングを弾きながら問う。 


「あぁ。勿論だとも。」


そう言って彼女は指を弾き、鳴らした。

と同時に、


「─────っ!?」


耳朶に一瞬、尚且つとんでもない熱が走ったかと思うと、ぽたぽたと温い液体が滴った。


「─────エネ!?大丈夫!?」


「…いっっ…たい」


耳朶を抑える彼女の手からは、僅かながら血が零れている。


「ごめんね、こうしなきゃ使えないんだ、それ。」


「怪我させなきゃ使えない道具って何!?このままエネに悪影響が出たら、直ぐにあんたを殺すから!」


鬼の形相、と言うには甘すぎる表情で詰め寄るリア。

それを目の前にして一切たじろぐことなく、


「あいあい。ま、見てなって」


なんて軽く受け流すヨナ。


「─────っ、お前!」


その態度に煽られ、胸ぐらを掴んで壁に押してしまうリア。

このままでは本当に殺してしまうかもしれない。


「待って、リア。大丈夫、もう痛くないから。落ち着いて」


「…エネ」


わざわざそんな物騒なことをする必要も無いだろう。

彼女は傷つけたくてやってる訳じゃない。

ヨナにとっても、リアにとっても、ここは落ち着くべきだ。


「彼女の方が随分と大人だな。見習えよ、リア」


「─────。」


言い返す言葉がないのか、黙って俯くリア。

彼女だって、悪気は無い。

ただ心配してくれただけだ。

だから


「リア、ありがとうね」


「…うん」


精一杯労ってあげるのだ。


「さて!ここからが本題だ。エネ、さっきの出血で、そのイヤリングには君の生体情報が登録された。これからは、それが君の生命の指標となる。君が命を落とした際には、そのイヤリングは輝きを放ち、砕ける。そうなる前にそれは自動で薬剤を注入してくれる。ただ、一回きりだ。その後は命の危機が迫るとただただ光だけのものになる。だからこれ」


そう言って差し出されたのは、5本のアンプル。


「限りなく危なくなった時には、このアンプルを刺すんだ。そうすれば自動で注入され、命は保証される。見たところ、君ら何度も戦っているようだから、これらは役に立つと思うよ?」


生命の指標。それが意味すべきは、このイヤリングが砕ける時が、命の終わり。

精々死なないように生きろよ、と言うちょっとした意味を持つ、忠告の輪。

その名は、響鈴環。

警鐘の意味合いを持つ。


そして渡された5本のアンプル。


「vita secure」


瀕死の重症でも、これを一本使えば命の保証はされるらしい。それでも欠損部位は戻らないし、その後の対応により死に至ることもある。

ただ、生命活動の最低保証をするだけだ。

だがこれも、死ぬよりマシだろ?と言うことらしい。

つくづくむかっ腹が立つ説明だったが、これもあると助かるのには違いないだろう。


「じゃあ、その2つは君らにあげるよ」


「え、いいんですか」


「あぁ。どうせ私はここから出ない。君たちに使ってもらった方が、それらも本望だろう」


驚いた。普通、こういうのは対価を求められたって仕方の無い代物の筈だ。それを訳もなしに手放すなんて、考えられない。


「よし、一旦この話は終わりだ。取り敢えず飯にしよう。私と言えど空腹には勝てなくってね。君らも食うだろ?ちょっと手伝ってくれやしないか」


「…」


飯、飯と聞いて思い浮かべるのは鮮血滴るあの生肉と、缶詰め。

多少気乗りはしないが、食べさせてくれると言うならば甘んじるとしよう。


「んじゃ、ついてきて」


ヨナはそう言うと、背後にある本棚の一冊の薄っぺらい本の頭を引くとその直後、その本棚は淡く光りだしたかと思うと、小さな光の粒子となって霧散していった。


「「あ…え」」


まさに“非”現実的なその光景に口を大きくぱっかり開けてしまう二人。

来た時からあり得ないの連続だったが、これだけはどうも頭が理解を諦めてしまった模様。

そのまま阿保面さらして5秒ほど。


「く──ふ───、あ、ははははは!!!」


二人の表情を黙って眺めていたヨナはあろうことか、耐えきれずに笑いだしてしまった。

それもひどく豪快に。

実のところ、最初から内心緩み切ってしまっていたのだ。

何年振りかもわからない生身の人間との邂逅、しかも可愛いお客さんが二人、楽しそうに戯れているその様は外界とのつながりが断ち切られた生活をしていた彼女にはひどく新鮮でどこか懐かしく、例えようのない温もりに包まれたような気分だった。

それからというものの、一応体裁を保とうと思ったために常に笑いをこらえていたのだが、ついに限界を迎えてしまったというワケである。


「あーーー、はーーー、っ─────!」


今生一番の笑いだったのだろう。

女の様子は今までとは明らかに違った。

普段使うことのなかった腹筋は突然の爆笑に対応出来ず限界とばかりに痙攣を起こし、その影響で敏感になった肌に纏わる衣類が実にこそばゆそうで、想像しただけで体がむず痒い。激しい呼吸を繰り返すその肺は体力の限界をこれでもかと言うほど伝えて、これ以上の身体の行使を止めんとするがどうしたものか、人間とは1度限界を超えると行くとこまで行ってしまうようで、しかもこの女の場合、今まで抑圧してきた感情、及び笑いが爆発したのだろうか、どれほど身体が悲鳴をあげようとも留まることを知らぬようで。

しまいには力なくその場になだれ込んでしまった。


「えぇ…と、大丈夫ですか?」


「無理、死ぬ。笑いすぎて死ぬ」


入口の淵によたれかかったまま、深呼吸を繰り返し行っている。

もともと気だるそうな感じの人だったが、このままほっとけばマジで死んでしまうかもしれない。


「じゃあ死ぬ?いいよ、その首掻っ捌いて殺してあげる」


ヨナのことを嫌っていた彼女は、これを好機と捉えたのか若干テンション上がった口調でとんでもないことを口にしだした。流石に冗談だろうが、結構彼女は言ったことをそのまま行う節があるので一応静止しておこう。


「だーめ。ヨナはこんなだけど一応恩人なんだから。せめてちょっとはたく位にしておきなさい」


「暴力自体を止めろよ…ったく。ホラ来い」


五分近く座り込んでいた彼女は、漸く重い腰を上げて歩みを再開しだした。

進めばどんどん寒くなってゆき、次第に明かりの数も少なくなってきた。


「ねえ暗い。明かりとか持ってないわけ」


「君は猫因子を持っているんじゃないのか…?」

「うっさい。夜目は利かないの」


「はあ?とんだ欠陥構造じゃないか」


「この女ッ…!」


リアが口を開けば呼応するようにヨナの憎まれ口が飛び出る。

一見合わないように見える二人だが、実は遺伝子レベルで相性よかったりするのではなかろうか。

ほら、なんだっけ。喧嘩するほどなんとやらってやつ。


「エネ?さっきから黙ってるけど…、なんかいらんこと考えてない?」


「ん?え?違う違う。ぜんっぜん考えてなんかない」


「ふーん…」


疑い深いなこの子。

別に変なことじゃないですよーだ。


「さ、ついた」


しばらく歩いて、ダイヤル錠のある小さな扉が現れた。

それはほんの一部でしかなく、見上げてみると薄闇の中に信じられないような大きさの鉄の壁が目前に広がっていた。

カリカリと回すダイヤルの音がした後、四つ鍵の南京錠の付いた扉が出てくる。

先ほどより二回りほど大きいだろうか。それでもまだまだ人一人通れる大きさではない。

その四つ鍵を外した後に出てきたものは、見覚えのある鍵穴と、やっとこさ人が通れるほどの扉だった。

ヨナは首にかけているタグを外して、鍵穴へと挿入する。

モーターの回転するような音が小さく鳴り、扉の模様に沿って青白い光が走った。

そして、中央から開かれる扉から可視化された真っ白な冷気が静かに漏れてゆく。


「冷えてるね」


「当たり前だ。食品を保存するんだぞ?これだけ冷たくなきゃ終わりだろ」


先に入って中の電灯をつけるヨナ。

時代錯誤な蛍光灯が手前からリズミカルに点灯してゆき、白い光で照らされたそこは今まだ見たこともないような異様な光景をしていた。

鉄骨で組まれた棚には冷却されたであろう水滴が形を残したまま凍っており、その中がどれほど異様な寒さをしているのか一目でわかるほどだ。

それに積まれているのは缶詰と、…見たこともないようなものばかりだった。


「ヨナ、これ何ですか」


指をさした先にある色とりどりの造形物が気になって、彼女に問うてみる。

基本は緑ばかりなのだが、丸みを帯びている赤色とか、黄色の両端がツンと飛び出たやつとか。

知らないものが多すぎて頭が痛くなりそうだ。


「あ?野菜だよ野菜。…知らないのか」


「…野菜。これが」


いつかの文献で見た食べられる植物、野菜。

昔の人は健康のためにこれを貪り食っていたらしい。

一見すると、外に生えているやつにそっくりなのだがヨナ曰く「あれは全くと言っていいほどの別物さ。何なら食べてみるといい。速攻でこの世とおさらばさ」とのこと。


「エネ!これ!!」


いつになくテンションの昂ったリアの呼び声が聞こえる。

彼女のもとへ行って、リアの指さしたものに目をやると、それは…


「何これ。肉?」


見知った冷凍肉が積まれているだけだった。

ただ、明らかに手やら脚やら判別できる個所は無い。


「いや肉だけど」


見守っていたヨナが横から口を挟む。

なんだか小さく震えていて、文句がありそうな顔をしている。


「何で君らそんな平気そうなわけ?私は寒くてたまらないのだが」


合点がいった。震えているのは寒いからで、しかめっ面は我慢していたというわけだ。

震えるほどの温度では無いと思うのだが、この人は寒がりなのだろうか。

どちらにせよ、さっさと持ってゆくものを決めろとお達しが出たので、早急に選び取り出す。


「き・み・た・ち…!」


先に保存庫から出たヨナが震えている。

まだ寒いのだろうか。


「そんなにいらないだろう!一体どれ程食うだ!」


お互いを見ると、物珍しさからか腕いっぱいに食材を抱え込んでいた。


「アハハ…つい」


「…」


「いいから、戻してこい。それと。今からいう食材を取ってきて。名前はものの下にプレートで書いてあるから。読めるだろ」


要求されたのは、“じゃがいも”と“にんじん”、そして“ぎゅうにく”、“たまねぎ”。

どれもこれも聞いたことがないものばかりだ。

因みにリアは読めないので私が一人で集める羽目になった。


「これでいい?」


持ってきたのは、凍った泥の塊とオレンジ色の長い棒。根っこの生えた茶色い球に先ほどの肉塊。

文字が読めたとてこれが何であるかは想像がつかない。


「うん。上出来。ルーは…これだ」


入ってすぐ横にある木箱を漁り、袋に入った茶色の物体を取り出した。


「え…糞?」

「違う。というかちょっと待て。さっきからその反応はなんだ」


謎の物体をもつヨナは怪訝そうな顔で問うてきた。

本当に知らないのか、と。

その反応は演技じゃないんだな、と。

その回答は勿論是。

そんなもの見たこともないし聞いたこともない。

ましてや食料にこんなに種類があったのかと逆に聞き返したいくらいだ。


「まあいい。話は飯を食いながらだ。さ、さっさと上がろう。これは時間がかかるんだ」


三重の扉を閉め、来た道をさっさと引き返し、本棚のあった扉を潜り抜ける。

するとヨナが最後に通った瞬間、実体を持って再びその通路を塞いだのだった。


「ちょっと聞いていい?」


「ん、どうした」


先ほどから気になっていたこの肉。

たしかぎゅうにくと言ったか。


「これって何の肉?」


質問を投げかけると、あり得ないことを聞かれたような表情をするヨナ。


「…牛肉って書いてあっただろ⁉そのままの意味だ!牛の肉!」


「「──────────えええええええええええええええええええええええええええ‼‼‼‼‼‼‼‼」」


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