Let's wash ourselves and rest.
はんなりまったりいきましょう
ぺちぺちと顔を叩かれる感触で感覚が戻る。
目を開くと、満足気に鼻を鳴らすリアの姿があった。
しかも、目前。
かわいい。
とりあえず、起き上がって挨拶をば。
「おはようリア、よく寝れた?」
「…うん。ひさびさ」
「そうだよね、ごめんよぉ」
実際、こうしてゆっくり就寝できたのは本当に久々である。この数日、まともな場所で睡眠を取れることが少なかったからだ。
昨日も話したと思うが、大体の建物は倒壊して蔦が生えてたり風化して倒壊寸前になってたりする。
だから、野宿になるかそもそも寝ないかのどっちかになっていた。
しかも周りには理性蒸発した壊れかけのホムンクルスが彷徨いていた為、安心して休息など取れやしなかった。
なんなら最後の天葬作業までもを行ったのだ。
そんなの限界が来て当然だと思う。
むしろよく耐えた方だ。
こんな小さな体で無理をさせてしまったと思うと、少々の責任を感じる。
とりあえず、今から出発準備を始めよう。
まず、気持ちよさそうにベッドでごろついてるリアに声をかける。
「リアー」
「なあにいー」
彼女らしからぬ朗らかな返事。
明らかに気を抜いているのが丸わかりである。
…それほどリラックスしてくれてるならそれはそれでありがたいことではあるのだが。
「出発準備しようかー」
「え」
その単語を口にした瞬間、イカ耳になって硬直するリア。
こういう時は、決まって嫌がっている。
その理由はまあよく分かるのだが。
「えじゃなーい。さ、こっちおいで」
身につけているものを全部脱ぎ、彼女の服を剥いでバスルームへ入る。
当然、水道は既に枯れている為、貯水匣に溜めた水をぶちまけた。
この匣はとある場所からかっぱらって─────、いや、拾ったもので、見た目の割に大量の物質を入れることが出来る。
因みに、食料とかは無理。衣類も一緒。
この匣に保存できるものは、水とか火とか、まあその辺。
この匣1個につき四日分の水が入る。
形は黒色の四角形で手のひらサイズ。
こんな小さなものに、よくそんなに保存することができるんだなと、感動したのはいい思い出だ。
しみじみとしつつ、浴槽に水を貯める。
中身を出す時は、欲しい箇所に投げ入れるだけでいい。
そうすれば、必要な分だけ出してくれるのだ。
「失われたとはいえ、科学って凄かったのね…」
戦争から既に多大な年月が経っている今、大半の現代文明は霧散してしまったものの、こういう便利なものが残っているとやはり多大な恩恵を賜わることが出来る。
火起こしなんて面倒だったし、大きいタンクに水を入れて代車を引っ張ってくる必要も無くなった。
こうして小さな匣2つだけで済むのは本当に助かるのだ。
侮れぬ。喪失文明。
さて、浴槽に水が溜まったのでまず身体を洗おうと思う。
ということで。
「はーい、おいでー」
小さな身体を抱えてシャワーチェアに腰をかけ、
近くにあった桶で水を掬い、頭からざばー、と流す。
「んやぁぁ…」
冷水が頭からかかる度、嫌がってもがくリア。
分かる。私だって嫌だし。
この水は飲用でもあるため想像以上にひえっひえなのだ。
ほんと、氷水レベル。
どうにかして湯を手に入れねばなるまい。
ただ、こうして身体を洗うことが出来るのは何日かに1回のみだ。
冷たいのは嫌だが、身体が綺麗になるのは嬉しい。
だから、冷たかろうがなんだろうが念入りに洗う。
特に、耳は大切なので丁寧に、繊細に、撫でるように。
「あぁぁ〜…」
今度はそれが心地よいのか、完全リラックスモードのリア。
全体重を私に預けてくるため、ちょっと重い。
落ち着いてくれるのはいい事なのだが、もうちょっと耐えてくれるとありがたかった。
「はいじゃあ次ー」
髪の毛を洗っていた手を、小さな身体に回す。
最初に胴、次に胸、腕と順番に撫でてゆく。
敏感な部位を洗う度、こそばゆそうに小さく震える。
足先まで洗い終わり、身体に付着している泡をまたもや冷水で流す。
と、なんだか様子がおかしい。
ちょっと呼吸が荒くなって、
顔が何処と無く蕩けて───────────
「ん─────む」
流し終わるなり、こちらに顔を近づける。
そして、私の唇との接触を行うのだった。
朝もやけに近いと思ったら、そういう事か。
今、というか今日、この子は発情しているのだ。しかも凄く。
リアはベースは人間なのだが、猫の遺伝子も多少なり混ざっている。
だから、月に何度かこういう時期が来るのだ。
しかしなんだ、ちょっと、早すぎやしないだろうか。
前回発散させたのはつい3日前のことである。
そんな連日でなることってあるのだろうか?
もしくは、単純に彼女がハマって─────?
「ぷぁ、は─────ぁ」
約30秒にも及ぶ、深く長い口付けが終わる。
離れた顔は依然恍惚としており、口で言うより物足りなさを表していた。
キスだけで済むのなら楽でよかったのに。
と、もう1度、彼女の柔らかい唇が私の唇を塞ぐ。
しかも今度は、舌を挿入してきた。
熱を帯び、私の中で小さく泳ぐその舌は、何度も、何度も、足りないものを補うように絡ませてくる。
なので、負けじと私も舌を動かす。
最初の方は抵抗があったのだが、回数を重ねる度に自然と求め合うようになってしまった。
心地よい、というより、気持ちいい。
親愛な人に対する情欲のキスは、身も心も蕩けさせてくれる。
───暫くして、離れる唇。
濃密に混ざり合い、既にどちらのものか分からなくなった粘液が艶やかに糸を引いていた。
深く、湿った呼吸をするリア。
ついには、私の腿の上へと跨ってくる。
「また、洗い直しだよ?」
いいの?と彼女へ問う。
だが。
後のことを気にする理性はどこへ行ったのか、リアは拒絶することもそれを容認することも無く、ただ、ひたすらに私を求めた。
てらてらと光る秘部の蜜は私の腿を濡らし、擦りる度に熱を増して垂れてくる。
まるで熟れた果実のように甘く爛れた匂いが満ち、その匂いにあてられて、私も身体が火照ってきているのが分かってしまう。
今度は私が辛抱たまらず、彼女の秘部に優しく触れる。
彼女はその感覚に小さく震え、耳元で囁くように細く甘い声で鳴いた。
耳にかかる吐息が、さらに欲情を掻き立てる。
彼女の体に更なる刺激を与えようと、指先を少し挿れたその時、彼女の手が私の腕を掴んだ。
「どうした、の─────」
あまりの興奮に、途切れ途切れになりながら言葉を紡ぐ。
呼吸もままならないまま、彼女に問いかける。
「わた、し…ばっ、かりじゃ、イヤ」
同様に、短く浅い呼吸を繰り返しながらどこか不満げに見上げていた。
「イヤって、言ったって…」
これは、彼女の欲求を発散させるための行為だ。
よってそれ以外の余計な事は必要ない。
私の快楽なんて以ての外だろう。
だから─────
────────────────────────────────────────後。
結局、あの後は散々だった。
話すような内容でもないが、心の中に留めておくような必要がある話でもない。
まあ、なんだ、…やられた。
うん。完膚なきまでに、抵抗も出来ぬままに。
どうも”ああなる”と止まらないタチなようで、彼女の気が済むまで大変な目にあったのだ。
別に嫌だったわけではないが、こうなってしまうと、出発が格段に遅れてしまう。
ちなみに、今日はもう出発どころじゃなかった。
際限を知らないのか、何度も─────…
…とりあえず、入浴は済んだので次は洗濯をしよう。
ここしばらく動きっぱなしなので、着用していた服もだいぶん汚れてしまっている。
大切な一張羅なので、丹精込めて、念入りに。
「リアー、洗濯するから手伝ってー」
発散出来て満足したのか、ただベッドにぼーっと座っているエロ猫に声をかけると、小さな耳がぴくっと動いてゆっくりと此方に顔を向けてくる。
長く、綺麗な睫毛と落ち着いた輝きを持つ瞳を静かに閉じ、一言。
「眠い」
「なっ─────」
まことに身勝手極める彼女ではあるが、それもまた猫の遺伝たるや。
仕方ないと思い、一人でざぶざぶと洗いだす。
私の服は黒色なのでそこまで汚れは目立たないからいいのだが、彼女の服はそうもいかない。
丁度いいサイズが白色だけしかなかった故、様々な汚れが目立つ目立つ。
ということで、彼女の服は余計に丁寧に洗う必要がある。
こないだの天葬のせいもあってか、なかなかに汚れがひどい。
主に返り血が。
これは多少ぶかくても黒色にすべきだったか...なんて思ってしまう。
しかも。彼女の行動、及び戦闘スタイルがとことん肉弾戦というか、自分の体を行使するために、どれだけ洗っても直ぐに汚れてしまうのだ。
誰に見せるわけでもないのだが、服が汚れたままでいるのは精神衛生上いい影響があるとは到底思えないので、逐一、こうして洗ってあげているわけなのだが。
当の本人はあまり気にしていない様子で、寧ろ洗濯を嫌がる。
なんでも、自分のにおいが消えるのが嫌とかなんとか。
何もそこまで猫っぽくなくても…なんて思ったり。
彼女曰く、人と猫の遺伝子情報は9:1らしいのだが、
ココ最近の彼女を見てると、7:3くらいなんじゃないか?なんて思うくらいに猫感が凄い。
しかも、歩いていると大体の確率で猫が着いてくる。
1匹だったり、多い時には7匹とか。
別に木天寥を持たせているわけじゃないんだけどなぁ。
ちなみに、彼女は別に猫と話せたりはしない。
どれだけ猫っぽいと言っても、結局は人間なのだ。
ただ、私は彼女のそういうところによく助けられている。
遺伝子由来の運動能力の高さにはついつい頼りっきりだ。
だから、こういうところで私が張り切らないと示しがつかない。
─────二人分の洗濯が終わって、屋上に上がって天日干しする。
残念なことに、彼女の白い服に付着した真っ赤な血は結局取れなかった。
服の裾から肩にかけてびっしりとついた血痕は、一つの模様として居残り続けるつもりのようだ。
「とりあえずは─────っんぅ…」
燦燦と照らす太陽の元、身体を通る風の心地良さから伸びをする。
丁度いい気温、暖かな日差し、心地の良い風。
この3つが揃うと、誰だって気が抜ける。
たとえ悪鬼羅刹の権化だとしても、今日くらいはきっと眠っている。
そう思えてしまうほどに心地よかった。
人間、伸ばせる時は体を伸ばすべきなのだと、私は思うのだ。
ある一定の体制をしばらくキープしてた際、体が軋んで動きが悪くなる。
そのとき、こうして手を組んで上に伸ばすと、こうぽきぽきと子気味良い音がなり、疲労や硬さを取り除いてくれるのだ。
腰を捻ったり、体を横に倒すとなお良い。
こんな些細なことで疲れが飛んでいってくれるのだから、ヒトの体ってのは不思議なもんである。
さて、洗濯も終わった。
体も綺麗だ。
そうなれば、次はどうするか。
「昼寝しか─────ないでしょう!」
意気揚々と高らかに宣言したぐーたらな意気込み。
別に彼女が特段そういう人間ってわけじゃない。
ただ人並みに、彼女だって休みたいのだ。
動けば疲れる。起きれば眠くなる。食べなければ腹は減る。
一般人と呼ばれる人間と、何ら遜色はない。
”基本は”の話ではあるが。
────────────────────────────────────────想。
─────さて、彼女の根底にある話をするが、こんな荒廃世界を一人で生き抜いた事のある人間が”普通”であると思うだろうか。
答えは勿論、否である。
今から6年程前、均衡が幾分も前から崩れて消え去ったこの世界では生き残った人間たちとホムンクルスによる争いが勃発していた。
大多数の人間たちは捻るように殺されて、今現在、生きている奴らがどれほどいるのか皆目見当もつかない。
10人か、100人か。
はたまた指折り数える必要も無いくらいか。
事実、人間の完全敗北なのである。
そんな最中に彼女もいた。
別に共に争ったりなんてしていないが、人間であるだけで彼女にも危険が及ぶことなど明白だろう。
例外は無い。
彼女も当然のように襲撃されたのだった。
10歩程度歩くだけで5人のホムンクルスとすれ違う程に奴等だらけとなった地上で、人間の女である彼女は最高の獲物であったことにこの上なかったのだろう。
目が合わなくったって四方八方から寄ってくるのだ。
この女を喰い殺しに。
だが、彼女もおいそれと喰われる気など毛頭なかった。
生きるために殺す必要があるのはお互い様。
ならば、やることはただ1つ。
”徹底抗戦。殺しにくるなら殺してやる。”
これが彼女の掲げた信条。生きるために、殺す。
死なない為に。生命を摘み取ると心に決めていた。
実際、ホムンクルスと対峙した時の彼女の集中力は人間のそれを遥かに上回る。
静かに、1mmたりともブレはなく。
銃口は、壊れた秒針の様に真っ直ぐと先を指し示して、
奴らの頭を穿つ。
抜群の安定性と彼女の眼を持ってさえすれば、どれだけ敵が強くても、獲物の命を刈り取ることなど造作もない。
呼吸をするように引き金を引き、撃鉄が落ちる音と共に頭が弾ける。
それと同時に走り出し、銃を逆さに"持ち手"で殴り、敵の頭を粉砕した。
目を見張るべきは集中力だけでは無い。
その身体能力の高さも、彼女が生存できた要因のひとつといえる。
離れていれば狙撃、近くにいるなら打撃。
その二パターンを主力に、囲んでいた9人のホムンクルスをあっという間に片付けて、その場を後にする。
そんな彼女の足跡は、常に血塗られていた。
─────こうして、これまで散々な日々を過ごしてきたのだから今日一日くらい自堕落に過ごしていたい。
そんな日もたまには良いだろう。
天使様だって目くじら立てずに見逃してくれるはず。
心地よい風に吹かれながら、仰向けに寝転がると、ものの数秒で睡魔が襲ってきた。
どうやら自分で感じるより、身体は疲れていたらしい。
やはり、人間は疲労に慣れてはいけない生き物だと実感するのだった。
どこにも行きませんでしたね。