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彼の地のアスタ  作者: 真代たると
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lost touring

はんなりいきましょ~


2XXL年






「─────眠そうじゃん」


共に歩きながら、隣でうとうとしている少女に声をかける。

今にも電池切れを起こしそうなくらい、足取りが重たそうだ。


「おぶろうか?」

「…いい」


満身創痍の少女に問いかけると、小さく拒絶反応を起こした。


「ったくもう」


明らか無理をしているのに、どうしてそんな強情なのだろうか。

さっきだって、一旦休憩を挟もうか、と提案したのだが即座に断られてしまった。

…この子は自分のせいで歩みが止まるって思ったのだろう。

だから何度も痩せ我慢をしてしまっている。

これではまるで私が悪いみたいではないか。

私だってこんな小さな子に無理させる趣味はない。

…そうは言っても、私が提案しない限りは無理をさせてしまっているのが現状なのだが。

未だに自分の意志を出す気概の見えない少女に少しの憤りを覚える。

そりゃあ、あんな状態だったから今こうなってるのも分からなくは無い。

だけど、もうちょっと信用してくれたっていいと思うのだ。

だってほら、自分の意見を全面に出せないってことは、相手の顔色を伺っているってことに変わりは無い。

ちょっと、悲しいかなぁ…

とほほ、と嘆く彼女の横で内臓電源(体力)が完全に沈黙しそうな様子を見せる少女。

さすがにそろそろ休憩を挟むべきだと判断した。

さて、今日はどの建物で休息を取ろうか。

幸い、周りの建物は人っ子一人居ない。

今立っているこの場所だって、交差点のど真ん中なのである。






「じゃあ、今日の休憩はあそこの大きいので取ろうか」


「何、ここ」


「ちょーっとまってよ、この文字…ホ…テ…?

ごめん、かすれて読めない。ただでさえ、過去の文字は読みづらいのにさ…」


「どーだっていいよ…」


「良くないよぉ…過去の文字は読めた方がいいんだよ?だって、もう読める人居ないんだからさぁ…」


「しらない…もういいから寝ようよ」


「あー、そうね、部屋行こっか」


「はやく…いこ」













─────名も知らぬ建物に入った後、直ぐに雨が降ってきた。

彼女が気だるそうにしていたのも、このせいかもしれない。

確か、猫って気候の変化に敏感なんだっけか。

なら納得かも。

だって彼女、人型2類(混種)のホムンクルスだし。

出会った時びっくりしたもん。

ほんとに実在するんだなって。


小さい時に、ちょっとした風の噂で聞いたりはしたのだが、

初めて実物を見た際は驚嘆した。

本当に噂通りの見た目だった為にすぐ判別が着いたのは幸いだった。

相対した当時、彼女の容姿はとんでもない事になっており、

いつどこからどうやってここにいるのかは知らないが、大変な目にあったのは違いない。

ボロボロのシャツ1枚に手入れの行き届いていない白い髪の毛は、彼女の現状をよく表していた。

逆によく生きていたよ。なんて感動を覚えるくらいだ。

酷く印象に残ったのはそれだけではない。

私の存在に気づいた時、彼女の瞳がこちらを向いたのだが、その瞳が美しすぎて一瞬で虜になったのだ。

きっと絶望に浸かったのだろう。

輝きは失われ、太陽に照らされたとしても帯びることの無いくらい、黒かった。

だが、炎のゆらめきと水の漣が交互に迫るような潤みを帯びた彼女の瞳はまるで、脆く淡い結晶のように美しいかったのだ。

だから─────


「ねえ君、一緒に来る?」


なんて、私らしくもないことを。


私は、1人が好きだった筈だ。

今まで生きていた中で、人に頼ったことなどなかった。

というか、周りに人間が居なかった。

生まれはどこか親が誰かも知らないし、

いつの間にか、独りぼっちで投げ出されていた。


─────1人で生き抜くしか無かった。


頼れる相手が欲しかった。


─────夜は暗く寂しかった。


話せる相手が欲しかった。


─────道は荒く険しかった。


共に歩む相棒が欲しかった。


─────冬は冷たく寒かった。


温め合える相手が欲しかった。



─────でも、望めない。

だから、1人で。

─────誰も、頼れない。

ずっと、これからも

─────1人で。

強く在らねばならない。


─────そう、思っていた。

それなのに、彼女の瞳を見た瞬間、

声をかけてしまった。

正直自分でもよく分からない。

完全に無意識下で出た言葉だったから。

ただ、あの時思ったのは、


私と─────同じ─────



それだけだった。



だから、今こうして彼女と一緒に横になっている。

ちなみに、彼女が誘いを承諾して直ぐに水浴びができる場所へと連れていった。

服は保管庫らしき場所から多少拝借して、いい感じになるように着せ、私もそこで服を変えたのだった。

今の私の服装は、黒のトラックジャケットに防水タイツ、

そして赤のスニーカー。

(※補足。下はスパッツで下着はスポーツ系)

動きやすくて結構お気に入りなのである。

そして、彼女の服についてなのだが、なんと都合のいいことに幼女サイズまであったのだ。あの保管庫。

彼女に選んだ服は私と同じ形の、正反対をした色。

白を基調にしたものは彼女によく似合う。


目の前で小さな寝息を立てる少女は、整えてあげると、まるで天使のように綺麗だった。


「可愛いなぁ…」


小さく蹲って寝る彼女の頭を撫でながら、考えていることが零れる。



彼女が旅に加入して、早数日。

色々歩いてきたが、ここの土地にはよく驚かされた。

他の所に比べて、少し小綺麗な建物ばかり。

壁にヒビは入っていていつ崩落するか分からないものばかりではあるのだが、部屋自体はそのまま残っているものが多いのだ。

この建物も例に漏れず綺麗な内装をしていた。

憶測なのだが、ここの土地は戦争の舞台にはならなかったのだと思う。

そうでなければ、理由がつかない。

だって、こんなに形が残っている建物群を見たのは初めてだったから。

基本、何らかの原因により倒壊している建物が多い。

だからここに来た時は目を奪われた。

初めて文明らしき文明に触れることが出来たのだから。

まあ、大体の内装は荒れ果ててぐちゃぐちゃになっているのだが。


─────これが、今まで歩いてきた私の感想。

思ったより、この世界は面白いものが多い。失われても残るものとは多分、このことなのだろう。

これから、どんな土地、どんな場所が広がっているのだろうか。

彼女との旅は始まったばかりだ。

きっと、楽しいものになる。


どんなところにいこうかな

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