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第5話 早乙女望愛

「私、前世では友達もいなくて、高校でも大学でもひとり図書館に籠っているような子でした。図書館に顔なじみがいたので図書館の司書に就職しましたけど、非正規でしたから生活は苦しかったです……」


 そう言って話し始めるノア。

 

「私の両親は、友達とライブを見に行ったり、海や山に出かけてキャンプをしたりするのが好きな、いわゆる『陽キャ』でした。そんな両親に似て、弟も同じような感じでした」


 ノアは膝に顔をうずめたまま話し続ける。


「だけど私は、両親が若いころはライブや遊びにかまけて若干ネグレクト気味だったこともあり、ひとりで家で留守番していることが多かったんです。だからでしょうか、気が付けばひとりで本を読んでいることが好きな子になってました」

「それは……大変だったね」


 僕はなにか気のきいた言葉をかけたかったけど、ありきたりな言葉しか出てこなかった。


 ノアの両親なら、僕の両親より一回りくらい若いかな?

 僕の両親はどちらかというと真面目な人達だったから、僕の両親とはちょっとタイプが違うと感じる。ノアは『陽キャ』と言ったけど、僕の印象としては陽キャの中でも『ウェーイ系』に近い感じだ。


「小さいころから一人でいることの多い引っ込み思案な性格でしたから、両親はどうしてあんなに楽しそうなんだろう、とずっと思ってました。弟が両親に似て明るい性格に育ったので、大きくなるにつれてその気持ちは強くなりました。学校に行ってからも周りになじめず、一人で本を読む毎日。どうしてみんなあんなに楽しそうなんだろう……考えるのはそんな事ばかり。私は自分が嫌いでした」


 ノアの声はどんどん沈んでくる。


「なにより辛かったのは、両親に『どうしてオレ達の子供なのにこんな陰キャに育ったんだろう』と言われた事です。親から自分を否定された様な気がして、とても辛かったです。どんどん自分が嫌いになりましたし、どんどん『陽キャ』と言われる人たちが嫌いになって、ますます図書館に引きこもるようになりました」


 沈んだ声で、自分の心の内を語るノア。

 そんなノアを見ていると、僕も辛い気持ちになってくる。


「そんな感じの子だったから友達もいなかったですし、もちろん恋人も……いませんでした。大学時代通い詰めていた図書館の顔なじみから司書の仕事を紹介してもらいましたけど、非正規なので辛いことも多かったです」


 僕はノアの辛そうな声をじっと聞いていることしか出来なかった。


「お仕事は嫌いじゃなかったんですけど、お給料は安いし今後上がる見込みもありませんでした。昇給とかは無いし、市の予算削減で正規職員は採用しない方針でしたから。だから今後の事を考えると暗い気持ちにしかなりませんでしたし、生活の辛さと将来の絶望に押しつぶされそうなとき、この世界に転生しました」

「…………」


 なんと言葉をかければいいのか、考えるけど言葉が出てこない。


 僕とユキノ・ノア・ファニは僕のギフト、邪淫失楽(じゃいんしつらく)を使って何度も何度も体を重ねた。


 どういうプレイが好きか、どんな体位が好きか、どこを触られるのが好きが、どこが弱いか、全て知っている。本人から聞くこともあったけど、ギフト邪淫失楽は行為中の相手が今どう感じているか、何をして欲しいかを余すことなく僕に教えてくれた。


 だから僕はノアの事ならなんでも知っている、そう思っていたけど――そんな事はなかったんだと気付く。


 僕は朗らかだけどどこか陰のあるユキノも、底抜けに明るいファニも、そして真面目で優しいノアの事も、みんな魅力的だと思っている。

 だから、横からノアの事を無言でそっと抱きしめた。


 本当は「好きだよ」とか「愛している」とか言いたかったけど、その言葉は何故か喉の奥につっかえて出ては来なかった。

 そう、僕とノア達はその場の流れで体を重ねて、ギフト邪淫失楽のもたらしてくれる快楽に抗えず何度も何度もお互いの身体を貪った。だけど「付き合おう」とは誰も口にはしなかったし、僕から「恋人になってください」と言ったことも無い。


 ……もしかしたら、僕は今のいわゆる『ハーレム』な状態を手放すことが嫌だったのかもしれない。


 だけどノアは顔を上げ優しい笑顔を浮かべると、、抱きしめた僕の腕に答えるようにこちらに体重を預けてくる。


「ありがとう。この世界に来て私は幸せなんですよ? こっちのお父さんもお母さんも大好きだし……」


 ノアの両親は、この領都で雑貨屋を営んでいる。

 冒険者としていろいろ買い物をしている時に、そこで働いていたノアと知り合ったんだけど、両親はどちらも優しそうな人だった。


「ユキノちゃんやファニエちゃんと仲良くなったし、カナトくんと会うことが出来たし、その……そういう事も、出来たし……」


 顔を真っ赤にして、最後の方は小声になるノア。


 あっけらかんと行為を求めてくるユキノやファニと違い、ノアのこう言う所は本当に可愛らしいと思う。


「本当に今までの私の悩みがどうでも良くなるくらい気持ちよかったし、今の私たちの関係って本当に居心地がいいし、楽しいって思ってるんです」

「はは、そう言ってもらえると男冥利に尽きるよ」


 なんとなく気恥ずかしくて軽い調子で言うと、ノアもくすりと笑う。


 ノアの笑顔を見ると、さっきまで何の言葉も出てこなかったのが嘘のように、僕の気持ちが口から滑り出してくる。


「でも、ノアの言っていることも分かるよ、正直」


 そう言って、僕も僕の前世の事を話し始めた。

 友達ナシ彼女ナシの、さえないブラック企業の社畜戦士だったこと。仕事は辛い事ばかりで、親にも「結婚しろ」「彼女作れ」「情けない」「それでも男か」などと言われる毎日だったこと。


 そして、会社も日本も世の中も、両親も、なにもかもが嫌で嫌で仕方なかったこと。


「帰りたいのかと聞かれれば、絶対帰りたくない。帰ったら無職の50代で、しかも親の介護をするために帰るとか勘弁して欲しい。この世界はいい所だしみんな優しいし、それにファニやユキノや……ノアに会うことも出来た」


 だけど――


「だけど、今後親の顔を絶対に見たくも無いのか、と言われると……やっぱりそんな事はないんだよね。育ててもらった恩を感じないって訳じゃないし、一目会ってお礼とか、お別れとか、そういった事を話しておきたい、って気持ちはあるよ、正直」


 日本に帰って親と会って話をして、気が済んだからじゃあまた異世界に戻ります、なんて我儘が通じるのかどうかは分からないけど。


「そうだよね」


 ノアも頷いてくれる。


「やっぱり、どんなに嫌いでも親だもんね」

「うん……」


 そんなノアにの言葉に同意しつつも、脳裏をよぎったのはユキノの事。


 僕やノアに日本に帰りたいのかと感情を失った瞳で問いかけてきたユキノは、日本や両親についてどう感じているんだろう。

 愛情や感謝を感じているようには到底思えなかったけど、その心の中を、彼女の気持ちを聞かせて欲しい、そう思った。


「終わったぁ~~。魔法があるっていっても、けっこう疲れたねぇ~~」

「疲れたよぉ! ファニも!」


 聞こえてきた声の方を見ると、地面に座り込んで声をあげるユキノとファニ。

 

 そしてその目の前は、遺体の姿は無く血の跡も綺麗に洗い流されており、地面も何かが埋めてある事なんて分からないくらいに綺麗に平坦に均されていた。


 意外と丁寧に片づけたんだな……。

 ユキノの事だからぱぱっと適当に埋めて終わり、みたいなイメージだったよ。


「あ~~っ!」


 何気なくこちらを振り返ったユキノが、すっとんきょうな声を上げた。


「ノアがカナトといい感じになってるぅ~~! ずるいずるいぃ~~!」


 その声になんとなく気まずくなって、ノアとお互いぱっと距離を取ってしまう。


「カナト、ノアとだけ気持ちいい事するつもりだったねぇ~~?」

「ユ、ユキノちゃん! わ、私はそんなつもりじゃ……うぅ……」

「ファニも! ファニもする、気持ちいいこと!」


 ユキノがからかい、ノアが真っ赤になり、ファニが無邪気に乗ってくる。

 僕たちのいつものやりとり。


「はは……」


 照れ笑いが漏れるけど、嫌な気持ちじゃない。


 むしろ、ここが心地良いと思う感じ。


 ここが僕の居場所なんだと、強く思った。


お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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