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夕暮れ

作者: 火月

 ふと景色を見た。夕焼け空に照らされた小川と土手の土の匂い。日常に囚われていたせいでいつのまにか忘れていた、懐かしい匂い。じゃれあいながら自転車を漕ぐ小学生たちが横を通り過ぎるとその姿にかつての自分を重ねた。


 5時間目で終わる日はたくさん遊べるからワクワクした。友達を連れていつも遊ぶ公園を超え少し遠い土手まで足を運ぶ。サッカー、野球、鬼ごっこ、自転車のレース、ラジコンを飛ばす、小川で川遊びなどをした。夕方になると綺麗な夕暮れが見える。一番鮮明におぼえている記憶で無意識に遊びを切り上げる合図にしていた。遊びつかれると近くにあるラーメン屋に行って休んでいた。お金を持っているわけもなく水を飲みにくるだけの迷惑な子供たちだったが、店主はよく面倒を見てくれた。あわよくば、ラーメンを食べられればという下心は持っていたがそう甘くはなかった。

将来もしがらみも考えず「今」を全力で楽しんでいた。こんな日々がずっと続くのだろう。そう思っていた。


 きっかけは何か忘れた。些細なことだったことは覚えてる。サッカーや野球のチームの割り振り、誰がボールを用意するか。試合を始めても真面目にやらなかったりちょっとしたことでいがみあうようになってしまった。そんなことが続き土手に誰も来なくなった。いつものラーメン屋にいるのかと期待して行くこともあったがそこに集まることもなくなった。


 中学校で「いじめっ子」と呼ばれるようになった彼らは高校生になると不良行為、暴走行為が目立った。逮捕される人もいた。時々思うことがある。思い返すと小学生の頃彼らは家にいないで学校か学校が終わったら土手に集まっていた。もしかして家ではなく土手に居場所を求めていてそれを失ってしまったから…なんて思いあがりだろうか。


 何度も面接をして、落とされた。アルバイトで働いていたところもあわずにやめた。気付けばそろそろ30代になる。なにもかもやる気をなくして土手を散歩していたときに夕暮れが僕を照らした。あの頃と同じ夕暮れが僕を過去に連れていった。つらい「今」から逃げるために。自転車に乗っていた小学生たちはラーメン屋につくと自転車を捨てて店に入っていった。行くあてもない自分もつられて店に入った。小学生たちは水を飲みながらスマホゲームの話しを楽しそうにしていた。今流行ってるゲームなのだろうか、一緒に同じゲームで遊んでいる様子だった。その子たちの将来やなんのしがらみもなく無邪気に「今」を全力で生きてる姿を見て、不思議と元気がもらえた。この子たちみたいにもう一度全力で生きてみよう。かつての自分たちのように。そんな前向きな気持ちにさせてくれた。


「お前たち、友達は大事にするんだぞ。些細なことで喧嘩して失ったら一生後悔するからな」


そう説教した後で、この子たちが食べたがっていたラーメンを奢ってやった。


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