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飛び込んだ先に見えるもの 1策目

ジョオンのちょっとした冒険。

彼、結構ヘタレなのに、仕事はきっちりするタイプ。



「そこで取引よ。私には、ほぼ監視が付いている。今は誤魔化しているけどね。だから、領地の外に連れ出す代わりに、貴方の時間と情報をよこしなさい」


よこしなさいって、似合うよなぁ、軍師様。

そんな事を思ってしまったオレ。取引うんぬんの前に、有無を言わさぬ言い方だ。


「時間と情報とは?」

その内容が判らない事にはホイホイ提供出来るものじゃない。

オレが聞くと、彼女はメガネをクイッと上げた。

「身構える程じゃないわ。動けない私の代わりに手足となって働けって事よ」


簡単でしょう?

軍師様の目がそう言っている気がした。


「情報については、私が聞きたい事を貴方が掴んでいる範囲でいいわ、吐きなさい」


彼女がしおらしく「お願いします」と言う日は来るのだろうか?多分、来ないんだろうな……。

この軍師様だから仕方ないと諦めるべきだろう。

まぁ、言い方は何にせよ、無茶ではない要求ではある。でも、


「無事脱出できる保証とラース公子と繋がっていない証拠は?」

大丈夫だと勘が言っているが、彼女の口からそれが聞きたかった。


「証拠なんてあるわけないじゃない」

そんなオレに無理無理、と彼女は手を振った。


「でも、彼と共犯だった場合、とっくに告げ口していてもおかしくないわよね?」

もしそうだったら貴方、ここにいないわよ、と軍師様は微笑んだ。

「それにね、軍師の私が確率の低い作戦なんて考えると思う?」


実力を認めてもらわなければ、流石に『負け知らずの軍師』の孫でも、ここにいられないだろう。そういう意味では家名があろうがなかろうが、彼女の能力は高い事が伺える。


「大体、貴方、このままだと脱出の機会逃すわよ。それをお分かり?ジョオン=ダーミック」


はい、嫌という程判っていますとも。

見習いだろうと、オレだって騎士団の一員。ここの慌ただしい動きは肌に感じている。

初めは、盗賊団のためだと思っていたけど。……進軍が始まったらマズい事になる。


オレは軍師様に両手を上げた。

「それで、何が知りたいんです?」


それをにやりと悪どく笑った彼女。

「そうね、ハークライ様の様子は判るかしら」


ハークライ=ドムトール、この地の領主様である。

オレの目的にもハークライ様の容態は入っていたので、探りは入れていた。

だけど、徹底的に出入りを制限しているのか、診察しているはずのお抱え医師も見つからなければ、世話人も最近は会っていないと言う。

お部屋にもおられないという事で、どこかの部屋に移されたのだと考えられる。

しかし、怪しまれずに行ける範囲が限られているため、そのお部屋までは判らなかった。


そのまま軍師様に伝えると、「やはり……気のせいじゃないのね」と難しい顔をして呟いたかと思うと、あろう事か急にオレに抱きついてきた。


「有り難う、嬉しいわ。私の事はエルって呼んで」

メガネに阻まれよく見えないが、台詞とは裏腹に彼女は渋い顔をしているようだった。


「時間切れ、ね」

そう耳元で囁くと、彼女はゆっくりとオレから離れた。

時間切れって、さっき言っていた監視云々と言うヤツ……?


「貴方は任務に戻りなさい。用事があればまた呼びます」

離れながら、いつものすました軍師様の顔で彼女はオレにそう言った。


つまり、まだ聞きたい事があるという事だ。

呼びつけられるのはいつもの事だから、改めてこう言うという事はそういう事なんだろう。


「判りました。それでは失礼します。スタンドーネ軍師様」

あえて家名を呼び、オレは彼女の部屋を後にした。


扉を閉めた瞬間に、ラース公子の様子とかあの声は何だったのかを聞いていなかった事を思い出した。

でも、それは今更聞けない、きっと。

彼女の言う『監視』はすでにオレ達を見張っているのだろうから。

先程、抱きつかれた時に言われた言葉。

それは、彼女の何らかの妨害が除かれたという意味だったのだと思う。

べ……別に抱きつく必要はなかったんじゃないかとも思うけど。


それよりもオレがすべき事は、一刻も早く普通にこの付近から去る事じゃないだろうか。

今のところは彼女も『生かされている』。

怪しまれるような行動はとらない方がいいだろう。

見習いのオレが軍師様に付けられた理由、それは人質にもなりえ、かついつでも処分できる存在だからだ、恐らく。そうでないとオレは、旅をしてきたとはいえ重要なポストである軍師には近づけさえしないはずだ。


そこまで考えてから、オレはふぅ、と音を立ててため息をついた。考え出したら泥沼にはまりそうになる。

足を仕事場へ向けながら、窓の外を見た。今はまだ穏やかな季節のため、青葉を枝いっぱいに茂らせた庭木が陽光にゆらゆらと揺れていた。


今度は彼女の事をエルと呼んでみよう。オレの事も名前で呼ぶんじゃないだろうか。


そんな現実逃避とも取れる事を考えながら、そこから目を外し、長い廊下を後にした。何者かの視線のようなものを感じながら。





 オレは人気のない、城から少し離れた場所に立っていた。

実は、ここは領主様達の私室があるエリアのぎりぎり外にあたる。


軍師様という脱出出来そうな見通しがたった今、オレに出来るのは少しでも情報を集める事じゃないかと考えた。よって、これからハークライ様のお部屋に行ってみようと思っているのだ。


通常ならば行けるはずもない場所。そして、勤務の合間を縫っての強行訪問ではある。こんな事が出来るのも、オレの本当の主が事前に抜け道を教えてきたからだった。


いたずら目的でこんな事知っているって、何したんだろう?そもそも有事の避難路じゃないのか……!?


まあ、オレも今利用しているのだから、人の事は言えないのだけれども。

見つかれば即職務質問だ。


目の前にあるのは、木立の中、ひっそりとある水の枯れた井戸。そこに出っ張りを使って下っていく。足がかけやすいように細工されているようで、あっさりと底まで着いた。


こんなところまで監視の目は届かないだろう。

降りてきた丸い空を見ながらオレはしばらく耳を澄ました。何故か鳥の鳴く声が少ない気がする。故郷と比べるからかな?そう思いながら、次の行動に移る。


底から5個上の石をぐるりと観察。そうすれば石の材質が周りと違うものがあった。火山岩のような黒い石だ。なるほど、これなら上から見ても判らない。

それを体重をかけて押す。オレの大きくない体格でも、何とか押せる手応え。周りの壁も一緒にずれているみたいで、一枚の扉のようになっているらしい。そのまま壁と前進すると、人一人通れそうな通路が出てきた。その通路に滑り込むと、壁は元へと戻っていった。

帰りには帰りの仕掛けがあると聞いている。閉じこめられる心配はないというわけだ。


 外の光を屈折させているのか、僅かに明るい通路を壁に手をつけながら歩く。

少し水の臭いがするから、排水にも利用されているのだろう。井戸の底から続いているのだから、それも不思議ではないはず。


しばらくすると通路は階段になり、登り切ると目の前は壁だった。しかし、足下のストッパーを外してやると、回転扉に早変わりする。それを慎重に少しだけ開ければ、そこは領主様の私室、なのだそうだ。


 紅の絨毯に黒檀で作られた立派なテーブル。金の引き手があるクローゼット。

オレはその部屋に踏み込まず、そっと内部を観察する。


壁際に置かれているキングサイズのベッドに人が寝ている気配はない。それどころか使われた様子がなさそうだ。ベッドメイクされているのは当たり前としても、ベッドサイドに置かれた燭台がそのまま放置されていているのはおかしいからだ。

その中の、どろりと溶けた形で固まった蝋が遠目からでも見て取れる。最後まで燃え切った証だ。継ぎ足ししているならまだしも、放置されたままというのは使用人が入っていない事を示す。


次に絨毯だ。

判りにくい色をしているが、どうやら赤黒いシミがいくつも飛び散っているようだ。ワインだったのか血だったのかは定かではないが、何かをこぼしたものを放置したのは確か。



そこまで見て、ふと部屋の前に何かの気配が降って湧いた。



まさしくそんな感じ。

先程まで何もなかった空間に、


   何かが いる。



オレは慌てて、扉を元に戻した。

何かそのものに嫌な予感がしたからだ。


じっとりとした時間の中で、ゆっくりと扉のストッパーを降ろす。

息をするのも煩わしい。


このままここにいてはいけない。


頭の中で警報が鳴る。



――入ってくるものは、出会ってはいけないものだ――



扉に阻まれて聞こえないが、もしここが見つかったとしたら。

多分、せっかくついた帰郷の目途を不意にするだけでなく、軍師様にも疑いの目が向けられるだろう。今のオレは軍師様付きなのだから。


そう考えたら、不意に昔、ばっちゃんが教えてくれた魔法の言葉を思い出した。

何でも、危ない事から守ってくれる言葉らしい。

別に縋ったわけではないが、いつの間にか邪魔な呼気と共に微量に口から零れ出ていた。


「空気よ、私を(いだ)け。大地よ、私はどこにもいない」


意味は解らない。

でも、何となく効いている気がするし、少し落ち着く。


そうして、扉にへばりついていたオレ。

開くな開くなと念じてどれくらい時間が経っただろうか。



一瞬、ぞくりとした気配が膨れ上がったかと思うと、すーっと水が引くように消えていった。



出ていったのだろうか?

オレは扉から体を離した。もう一度、部屋を覗く気にはならない。まだいる可能性もあるからだ。


十分警戒しながら、後ろにある下り階段をじりじりと降りる。一番下の床に足の裏が触れると、オレは大きく息を吐いた。思わず座り込みそうになるが、自分を叱咤する。


これで確実にハークライ様が部屋にいない事が判った。

それを意味するものが、殺害なのか監禁なのか、はたまた本当に療養しているだけなのかは判断つかないけれど。


軍師様に言っておくべきだよな、とオレは思いながら、出口に足を進めた。

何故か、ふと、そろそろ巡回の時間だという事を思い出したからだ。あんな時に交代の鐘の音を拾っているなんて、仕える者の性、なんだろうか?





実は、後ろに立っていた!っていうケースも考えた。

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