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冗談じゃないわ 2策目

軍師様との話し合いです。



 詰め所のテーブルの上に荷物を置くと、待機中の先輩たちが集まってきた。


「頼んだの、買ってきてくれたか?」

そう言った先輩に紙袋を突きつける。


「先程も言いましたけど、仕事している後輩に頼まなくてもいいでしょうよ。白い目で見られましたよ」

紙袋の中身は、想像にお任せ。昼間に買いに行くものじゃないよなぁ。


「まあまあ。全てはあの軍師が悪いのさ」


それをきっかけに頼まれていたものの仕分けが始まった。

確かに彼女が外出しなければ、こんな買い物はしなくてもよかったんだけど。

物の広げられたテーブルを横目に溜め息をつく。混ざらないようにと抱えたままの軍師様の荷物に、彼女を思う。


この城に仕えている人には、彼女はよく思われていない。スタンドーネ姓は当たり前として、あの態度が鼻につくようだ。


それでも、あの話を聞いた後なのも手伝って、ラース様の部屋に残った軍師様の身を案じてしまう。策謀に長けていようと、向けられる悪意に慣れることなんてないのだから。


「お前も大変だよな。女に振り回されて」

先輩の一人が言う。


「そんなの本人に言うと「女は関係ないわ、愚かね」とか言われますよ?」

今は暗い考えは止めておこう。オレは少し引き吊っているだろう笑みを顔に貼り付けた。


「確かに。男女差別は嫌いっぽいな。性格きっついし」

周りの同僚も「同感」「右に同じ」と笑う。


「案外、ウィンラス出身かもしれないぜ。あそこは男女平等、むしろ上に立ってたの女だったしな」


ウィンラス。

今は無き国の名前である。

共和国であったその国は、頂点にラスフェリアと呼ばれる能力の高い女性達を置き、環境の厳しい土地ながら他国に名を知らしめるような国だった。

オレの姉がラスフェリアに憧れていたため、耳にタコが出来るほど聞いた話である。


「まさかぁ、だったら何歳ですか?あの軍師様」

10年以上前の話だ。外見から見る限り、その頃だと歳が一桁だったに違いない。

外見年齢が実際年齢を裏切っていなければ。


「とにかく、今する話じゃないですよ。勤務中です、勤務中。先輩も、はいはいかいさ~ん!」

テーブルから荷物がなくなったのを確認して、オレが手を叩くと、同僚達がわらわらと詰め所から出て行った。


まったく平和な光景だ。先程聞いた戦争なんて言葉とは裏腹に。戦争なんて、みんなきっと考えていない。だからこその光景とも言える。

オレは空いた椅子にどっかり座り込み、深く深く息を吐いた。





 軍師様が詰め所の入り口に現れたのは、それから半刻ほど経った後だった。

「ジョオン=ダーミック。いるかしら」


先程、別れた時よりも不機嫌そうな……というよりも、疲れを見せまいと気丈に振る舞っている感じがオレにはした。


呼ばれた声に座っていた椅子から立ち上がって、彼女の方に荷物を持って向かう。

背中に部屋にいた同僚の視線が刺さっているが、軍師様は待ってはくれないから、無視させてもらおう。


「来たわね。それじゃあ、部屋まで持ってきて」

いつもより早口でそう告げた彼女に、オレは黙って従った。

反発したところで結果は見えているし、それよりも早く先程の真相を聞きたかったからだ。


 軍師様のお部屋は、この城でも比較的奥の方にある。

先程いた詰め所は、有事を考えて入り口に近いところに造られているからか、廊下がやけに長く感じられる。


「あの……、軍師様、大丈夫ですか?」

先程からの沈黙が余りにも痛かったので、オレは思わず彼女に声をかけた。何だかピリピリしている。


「貴方に心配してもらうまでもないわ。問題なんて全くないのだから」

やはり、無理をしているらしい。付き合いは短いが、普段の彼女ならこう言うだろう。

「大丈夫に決まっているでしょう」と。


こうして何の変化もなくオレの前に現れたという事は、ラース様の部屋に入って行った後は滞りなく話が進んだという事だろう。

しかし、彼女の纏う雰囲気が安心をさせてはくれない。それにここでは他人の耳がないとは言い切れないから、オレにも弱みをみせる訳にはいかないのだろう。

まぁ、オレに弱みを見せられるかっていうと、多分、見せないんだろうけど。


 重い沈黙と荷物に耐えながら、ようやく目的地の軍師様の部屋が見えた。

彼女が何処からともなく鍵を取り出し、片手で扉を触りながら鍵を開ける。


「荷物は椅子の上に置いて。机には触らないで」

彼女は扉を押さえたまま、オレを部屋の中に(いざな)った。


意外かもしれないが、初めて招き入れられた部屋の中は乱雑ではあるが、がらんとした印象を受けた。もともと軍師様はこの土地の人ではないため、自分の荷物は最低限なのだろう。散らかり気味に置かれた書類と本だけが、この部屋に生活感を与えている。


オレは言われた通りに、椅子の上に荷物を置いた。彼女が扉を静かに閉めて、こちらに振り向く。


「それで、聞きたいのでしょ」


主語を抜かした言葉であったが、オレには十分だった。

「はい。先程の意味を」


そう伝えると、軍師様は髪を払う仕種をした。

「その前に私から質問があるのだけど、いいかしら?ジョオン=ダーミック」


眼鏡の奥の瞳は真剣だ。逆に質問されるとは思わなかったので、たじろぐ。でも、オレも聞かなきゃいけない事があるので頷く。


「簡単な事よ。……貴方、ドムトールの人ではないわね?」


何故バレたのか?オレが一番に思ったのは、この言葉だった。

確かにオレも地元の出身ではない。だけど不思議な事ではないはずだ。

城務めの者は少なからず他の領地の人間も混じっている。そうなのにわざわざ確認する意味は?


「そうですよ。仕官しようとこの地に来ました」

当たり障りの無い返事を彼女に告げる。

「何故そんな確認を?」

返ってくる答えによっては、バレるかもしれない。オレの秘密が。


「その歳で見習いなのよね、貴方。それにしては礼儀が身に付いているし、この辺りの有力貴族には同じ年頃の男児はいないはずだし」

軍師様は口を歪ませながら、そう言った。


バレてる。

オレは直感した。きっと先程の問いも、本当に確認だけだったのだろう。


この土地だと騎士になるにも16歳で一人前と見なされるが、それまでに見習い期間が設けてある。その際にある程度の礼儀や心得、教育などが施されるわけだ。

オレは今年、16歳を迎える。

この土地(ドムトール)に来たばかりのオレが、見習い期間が短いにも関わらず、礼儀作法が出来ているのはおかしいのだ。普通ならば。


それは、オレの故郷では15歳で正式な仕官が認められているからに他ならない。

つまりオレはすでに正式な騎士なのだ。オレの故郷では。


「どう考えても、いい所の出だわ。……まぁ、貴方の出自に興味は無いのだけれど」

軍師様はあっさりとどうでもいいと言い放った。

でも油断ならない。

相手はあのスタンドーネ軍師様なのだ。


「それで、先程のやりとりの何が聞きたいの?」

いつもの調子に戻ったように聞こえる軍師様の問いかけに、オレは背筋をのばした。気を引き締めていかないと、煙に巻かれるかもしれないからだ。


「まず最初に、ラース様の呼び出しの内容はどうでしたか?」

当たり障りのない話題だろう。


「貴方の言った通りに今度の作戦についてだったわ。大詰めをしているもの」

彼女も顔色を変えずに返してくる。


「その作戦なのですが、それは本当に盗賊団に使われるのでしょうか?」

その様子に、思い切った会話が必要だと感じたオレは、話題に切り込んでみた。しかし現状を聞くのではなく、あえて彼女の見解を聞いてみる。


「わからないわ。……と言いたいところだけど、十中八九使われないわね」


ラース様のあの会話を共に聞いてしまったために下手なごまかしはせずに、彼女はあっさりと否定した。

「恐らく、相手は盗賊ではなく、貴方が関係している所じゃないかしら?スパイさん」


やっぱりか。

オレ、ジョオン=ダーミックがこの地に仕官志望なのは、理由がある。

表向きは仕官の幅を広げるための留学みたいなものだけど、本当はラース様、しいてはドムトール領の動向を調べるためにオレの上司に送り込まれたのである。


でも、先程の軍師様の言葉に動揺するなというのも酷というものだ。

オレ、密偵とかそういう訓練受けていないし。


「ス、スパイだなんて、そんな大それたもの……!」

ポーカーフェイスで知らないフリなんて出来るはずもなく、素人まるだしの反応をしてしまったわけである。

ある意味、肯定しているものだし。

うぅ、姉さんに笑われる……。


「その反応、やっぱり間違っていなかったのね。まぁ、貴方がスパイだろうと私は利用するだけだけどね」

軍師様はさほど驚きもせず、さらりと利用すると宣った。


「別にオレは利用するだけの価値なんてないですよ。ほら、下っ端ですし!」

我ながら悲しい台詞を吐いたものだ。


しかし、軍師様はそんなオレの台詞に我関せずの姿勢。

「下っ端だからじゃない。そっちにも利がある話よ」

逆にこちらへ何かを要求してくる。戦々恐々とするオレに対して、余裕があるようだ。


「そうね、街で関所封鎖の話、聞いたわよね」

軍師様が流し目でこちらを見てきた。


「はい、聞きました。商売がしにくくなっていると言っていました」

思わず直立の体勢にで、報告まがいになってしまうオレの言葉。

底知れない奴を前にしてみろ!オレの事笑えないぞ。


「そうよ。つまりこちらからも出られないという事ね」

メガネを持ち上げつつ彼女は補足した。情報統制をするために人の出入りの制限までするという徹底ぶりだ。


「でもね」

そこでオレを見た。

「私はここから出て行きます。そのための術は持っている」


爆弾発言だ。

関所を通らずに行くのはかなり厳しい。


 以前述べた通り、ドムトール領は交易の中継地なのだ。その理由が行路を阻む山々にある。

王都より南下するには、東にコームステラ、西にタルクステラという2つで『双子のステラ』と呼ばれる山にぶち当たる。その丁度谷間に当たる低地がこの領地を通るため、山道を通るよりはなだらかで道路も整備されている、このルートが使われる事が多いのだ。

時間的にもかなり差が出る。


「そこで取引よ。私には、ほぼ監視が付いている。今は誤魔化しているけどね。だから、領地の外に連れ出す代わりに、貴方の時間と情報をよこしなさい」




ジョオン、頑張れってw

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