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卵と鶏、どっちが先でもいいわ 1策目

今回、説明が多いので行間を多めにとっております。


第二部隊の話だと思われた方、申し訳ありません。

多分、もう少し後に出てくると思います。多分(2回目)



 「アスペート隊長って、あんな声出せるんだな……」

「一応隊長って地位にあるんだもの、不思議じゃないでしょ」

「何かイメージがね」


次の日、オレたちは賑やかな城下町を歩いていた。


昨日はあれから、第二部隊の訓練の見学と少し手合わせをしてもらった。

いや、オレだってアフェスでは正式な騎士だから。魔法も織り混ぜた訓練とかやはり気になるもの。


ちなみにエルはドレス姿のため、不参加。そのままの姿で城の奥へと消えた。

多分、いろいろな根回しに行ったのだろう。

怪しい笑みと「ふふ、一泡吹かせてやるわ」の言葉に思わず戦慄を覚えた。

誰に対してなのかは知らないけれど。

訓練の事は今、詳しくは語らないけれど、有意義だったと言っておこう。







――クリス王国。

500年余りの歴史を持つ大国だ。


王国内には大きく12の領地があり、各領主による統治が行われている。

クリス王国国王はそんな領地のまとめ役として存在する。

このような統治の経緯は建国前まで遡る。


その頃、この辺りには小国というよりも部族が乱立しており、多少いざこざはあったものの特に問題なく存在していた。

穏やかだった関係を示すように、今もその頃の名称が使われていたりする。


その関係が崩れたのは、他の大国の台頭のせいだ。


海を挟んで南にタタロニク聖国、西にディミーヴ帝国。


以前からあったが今まで支配欲のなかったタタロニクと急に現れたディミーヴの侵攻に、世界は国盗り合戦の様相を呈していた。

小国ばかりの土地は勢い付く大国に淘汰される運命にある。


そんな時、ディミーヴ帝国寄りの村から1人の男が立ち上がった。

部族の長の息子であったその男は自ら周辺の村落を周り、自警団を募り、やがてそれは周辺諸国を巻き込むほどの規模に。


そして紆余曲折を経た後、その男を中心にして小国が纏まったのがクリス王国の始まりとされている。


その王の目は天空を映したかのような色だと謳われ、空から地上を見下ろしたかのように状況判断に秀でていたらしい。

ベルドア国王陛下の目の色を思い出すと、確かにそうかもしれないと思わされた。


このクリストライン平原に王都を築いたのも、他の大国に負けぬという意思表示と小国の集まりとはいえ兵の結束は何より固いものだと知らしめる意図があったのではないか、と歴史家は考えているそうだ。


軍師様に言わせると「よっぽど兵力に自信がないと、こんなところに城なんて建てないわ。いろいろ筒抜けじゃない」との事。


オレは歴史家の説をそうだったらスゴいよな、とは思う。真偽は時計の針の彼方だ。


まあ、何度か内部分裂の危機とかあったりして、初代国王の描いた通り、とはいっていないだろうけれども。




 そんなクリス王国の王都クリストラインは平地にあるにも関わらず、全体的になだらかな坂になっている。

いくつかの尖塔を有する白亜の城は丘というには烏滸がましい高台の上に建っていて、そこから裾へと南に街が拡がっているのだそうだ。


正面から見ると北にある山々を背景に城がより大きく見え、街も広く感じて一種の衝撃があるそうなんだけど、オレたち、空から来ちゃったからなぁ。次来る事がある時までお預けだ。


 街に入る門はメインの南門と西、東の3つがある。

南門からは放射線状に3本の大通りが走り、それらを蜘蛛の巣のように横路が繋いでいる。

大通りの先は城壁に囲まれ真っ直ぐには王城へと辿り着けないようになっていて、入城しようと思えば迂回をしなければならない。

つまり、出ようとした時も遠回りをせざるをえない。


 オレたちは城門を抜け、ぐるりと回って大通りに出てきたところだ。


今までの静謐を孕む、ちょっと高級感溢れる住宅街とは違い、中途半端な時間にも関わらず活気が沸き立ち、周りに満ち溢れているようだった。


城壁と大通りが交わるその場所は広場となっており、真ん中には噴水が、その縁には世間話をする主婦や少しの休憩に腰を下ろしている老人、ここに来るまでに購入したのか軽食をつまんでいる若者の姿まで多様に見受けられた。


「ここはね、舞台になるわ」

軍師様は言う。

「メインはこの先の中央広場に作られるけど、ここも毎年ワインの試飲とか演劇とかやる事になっているわね」


 現在、町全体が浮き足立っている。

それは今月末にある収穫祭のためだ。


もうすぐ平原に広がっていた黄金色の絨毯は刈り取られる。そしてその大地の恵みに感謝し、また来年の豊作を祈願し、今までの労働の疲れを癒すために開かれる祭りの事だ。


その日ばかりは老若男女、国内国外問わず各地から人が集まってくる。

アフェス領(わがまち)では農作物ではなく、主に海産物だけどやっている事は同じようなものだ。


来た人に笑顔で収穫物を振る舞い、出来立てのワインを見知らぬ人とも十年来の友と同じように交わし飲み、雑談に興じ、肩を組み、踊り、騒ぎ、来年の再会を約束する。

そんな認識のまさに『バカ騒ぎ』に相応しい祭りである。


しかし、エルがやたらに『収穫祭』という期限を口にするなあ、とオレは思っていた。

ドムトールでも『近々』盗賊団の討伐があると聞いていただけだし。


そう思い、やはり先を歩く彼女に改めて聞いてみる。

「エル、何で侵攻が収穫祭前だって言い切れるんだ?」


軍とは、維持するだけでも費用がかかる巨大な生き物である。

期限が判り、それに合わせて軍を編成出来るのであれば、いろいろ節約になるのは判るんだけど。


そう声をかけると彼女はしばし考えた後、口を開いた。


「まず、ドムトール脱出の際に準備が大体完了していた事が挙げられるわ。すぐにでも出兵出来るというのに、まだ作戦の詰めをやっていた。準備だけ先に終わらせておいて、然るべき時が来るまでタイミングを計っていたと見るべきね」


オレがドムトールに仕え始めた当初、領主の館には頻繁に商人が出入りしていたように思う。そして脱出の頃には例の関所の締め出しで商人自体が少なくなっていた。

品物の現物は確認した覚えはなかったが(雑用も下っ端の見習いの仕事である)、その必要がなかったとすると。


「収穫祭は只でさえ人の出入りが激しいわ。嫌でも警備も注目も通常より内側に向かう事が判りきっている。そんなチャンス、相手に知られていても逃すとは思えないわ」


それは確かに。

例年、騒ぎすぎるバカは何処にでもいるもので、多少は大目に見るけれど捕らえなければならない案件は平時より多い。

警戒は間違いなく街中に向けられる。つまり、予め外に向けられる戦力は否が応にも縮小される。


「次に例年、王国軍の野外演習は収穫祭後に行われる、と知られている事ね」

「ああ、エルが陛下に奏上していた件か」


それはオレも聞いた事がある。

収穫祭で緩んだ緊張感を取り戻す為、だとかで毎年行われる軍事行事で、出立の時にはこの大通りを行進するのだとか。


「そうね。慣れてきた新人に渇を入れる為でもあるけれど、目の前に収穫祭というニンジンぶら下げておいても頑張ると思わない?」


言い方が酷く無いですか?

あれ?そうなるとドムトール軍が交易路を北上してきた場合に王国軍の力を借りるって事にならないのかな?


疑問に思ったのが判ったのだろう、彼女は笑う。


「来ないわよ」


何が、とは言わない。

きっとドムトール軍が北上してクリストラインに入る可能性の事だろう。


「彼は慎重なの。臆病な程にね」

ラース様の事かな。何か知り合いのような響きだ。

いや、ちょっと皮肉が籠っている?


「本来、収穫祭後に野外演習があると思っている人の前に、そんな軍が展開していると知ったらどう思う? しかも、私達が逃げ込んだ先よ。警戒するには十分じゃない。もともと正面突破を避けてアフェスを越えようとするくらいだもの。待ち伏せがあると判っていたら、組み伏しやすい方を選ぶわ」


王国軍とアフェス領地軍。


文字にするとこうなる。でも、実質は新人の野外演習vs大半の領地軍である。

相手の取り方にもよるけれど、ハリボテ感必至だなぁ。


「だから進路もある程度絞れるわ。さらにいろいろ仕込んできたから、私に知られている道を使うしかないってところよ。判ったかしら」


そうオレに流し目を送って、立ち止まった。

「エルがいろいろ先回りしているって事は、よーく」


その目の前の建物を見ると食事処のようだった。

お昼の仕込みをしているのか、お腹が鳴りそうないい匂いが漂っている。


「それで、どうしてここに?」

看板といい、佇まいといい、至って庶民的な食堂兼酒場である。扉に手をかけた軍師様が来るような所とは思えないんだけど。


「あら、意外と穴場なのよ」

しれっとバレバレの嘘をつく彼女。


「じゃあ、何がオススメなんだ?」

それにあえて乗って尋ねる。


それに「そうね……」と悩む素振りをみせる。


「コッコルー鳥の親子焼きかしら。運が良ければフレイスリングスの鮭のムニエル」


そう言って扉を開けた。




エルだって時折、町歩きや祭りを満喫します。

どういう楽しみ方をしているかは判りませんが……。

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