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夜襲だもの、美容の大敵ね 1策目

ヴィルとの話し合いと襲撃まで。

場面転換多め。


「それより、報告の感じだと、あまり取り巻く状況はよくないな」


彼は話を元に戻した。

いつの間にか組んでいた腕をほどき、顎に手をやる。


「ハークライ様は消息不明、ラースは洗脳にしろ乱心にしろ、ともかく正常な状態じゃない。不穏すぎる。

そしてそれはこのアフェスにも波及している。野盗の討伐と銘打って、秘密裏に我らが領内に侵攻するつもりとは。最終目標は王都、など馬鹿げた話だな。……本当に正気を疑う」


その通りだ。改めて考えると、国内反乱(クーデター)以外の何物でもない。

それに場所が場所だ。


ドムトール領は前にも述べた通り通行の要だ。

双子のステラに挟まれ、さらには関所も有する。

関所はそもそも、他国から入ってほしくないものを塞き止め国内から出ていくものを監視するのが、その役割である。それが意味を成さない事態になっているのだ。


この国の大きな関所はこのルートだと2箇所。

一か所は勿論、オレたちが空から抜けたドムトールの関所。今回の場合、侵攻に何の障害にもならない。

もう一か所、より中央に近い方にも関所がある。その関所を越えてしまえば、王都クリストラインまでは歩きやすい拓けた土地しかない。

つまりは迎撃もしやすいが、侵攻も容易い、と言うこと。


そこに軍師様が案を出していた作戦。

野盗の討伐というからにはコームステラの険しい山道を使って進み関所を迂回し、王都の目の前に突然現れる算段なのだろう。その山道を進んだ先のルートというのが、かなりの確率でこのアフェス領になる。


領地軍が他の領地を抜けるのに親書も報告も寄越さない。

踏み潰す気満々、といったところか。


「何が目的なんだろうか?アフェスを踏みにじって、王都に戦火を運んで」

しかし、どうにも解せない。

今のクリス王国の治世に難癖でもあるのだろうか?


「目的なんて聞いても恐らく解らんだろうな。何か得体の知れないものを感じる」

ヴィル様が嫌そうに眉を寄せる。オレもハークライ様の部屋へ潜入した時感じた、あの恐怖が頭から離れない。


「それよりも、だ。ここを抜けて行くというのなら、王国法に乗っ取って断固抵抗しなければならない。以前からの予定通り」


ヴィル様はラース様が蜂起する可能性があると判った時から、いろいろと準備をしてきた。

ラース様に遠回しであるが行動を思い止まるよう書簡を送ったり、それが叶わないとなると進軍阻止のための軍備増強、領内への呼び掛けなど。

流石にアフェス領外には可能性の段階だったため通告はしていないが。


ともかく、敵の手を知る事もそれに含まれていたわけだ。

繰り返すが、何でそんな重大案件にオレを使ったのか……。


「そのためにはあの女の動向を知らねばならん」

「……軍師様ですか」


真面目な顔をして頷くサート様には悪いけれど、恐らく軍師様はクリス王国に刃向かうつもりなんてなさそうである。

毛嫌いしている感のある公子様に言っても納得はしなさそうだけど。


「特に彼らと同調するような動きはありませんでしたが。そういえば、進路については軍師様が出てくる時に何かしていたから、変わるかもしれないなぁ」


「ちょっと細工をしてくるわ」とエルがニッコリ微笑んだ気がした。


「確かにあの女が出奔したと判ると、変えてくるだろうな」

うん、何か考えに齟齬があるような気がする。が、伝わっているのならいいや、と思う。


「あ、それと、ヴィル様」

この話のついでに軍師様から言われた事を話しておこう。


「なんだ?」

「ここまで帰ってくる途中で、何度か偵察というか襲撃があったんだ。ドムトールは魔を使役している」

そう伝えると、サート様の顔から余裕が消えた。


「『戦役の置き土産』が何故ラースの近くにいる!?」


戦役、それは80年程前にあったパル王国とクリス王国の戦いの事だ。

当時、激しい戦闘があった様で、地形が変わってしまったり不毛の土地になった場所があるらしい。

そして、その戦役の後、各地に人形(ひとがた)の何かが現れる様になった。

それはパルの御業……つまりは魔法を扱い、人間に敵意を向けてくる。

いつしか、その存在は『戦役の置き土産』『パルの残禍(ざんか)』と呼ばれるようになり、影の如く日々の営みの中にするりと知らない内に入り込んでいるという。


恐らくドムトールに潜んでいるのはその類いだとオレは推測している。軍師様ははっきりとは答えないけれども。


「それは……わからない。けれど、向こうは確実に容赦しないだろう。クリス王国に強い恨みみたいなものを感じた」

「今更、過去の因縁をつけるのか、パル王国は!」

全て故国が悪いとは言わない。でも今、被害を受けているのは確かなんだ。


「だから、出来れば警戒してほしい。きっと思いもかけない方法で奇襲してくる」

憤りを滲ませたヴィル様の言葉に、オレは諭すようにゆっくりと告げる。彼は少々気が荒い。


「オレたちがここにいる事は確実に知られている。王都よりもここで間違いなく仕掛けてくる」


ですよね、軍師様。





 夜の女神が全身を現し、大神の下飛ぶ鳥も枝で翼を休め、獣は獲物を求めて地を駆る時刻。


天馬ラフェドウィズは、しれっと厩舎の側に現れた。

翼は魔法によって隠蔽され、ただの白い馬にしか見えなかったが。

一先ず空いた馬房に招き入れる。


鞍を外し飼葉と水を運ぶと、ラフェドウィズは先に水を飲み始めた。

普通の馬との違いは判らないけれど、運動量が多かったに違いない。でも干し草はあまり食べなかった。


よく観察すると時々耳を厩の外に向けているのが判る。天馬は魔なるものに敏感だと聞くが、やはり何かに警戒しているのだろうか。


「軍師様の言う通り、追っ手が来たとして」

白馬を見ながら、オレは口に出して考える。ラフェドウィズが耳だけをこちらに向けてくる。


「どういう風に襲ってくるんだろう?軍師様だけが狙われているわけじゃないだろうし」

白馬はフフンと鼻を鳴らした。まるでエルの意図が判っているかのようだ。


「とりあえず何か起こるっていうなら、オレも家に帰るって訳にはいかないし、隣の待機所にいるよ。何かあったらすぐ来るからな」

オレの言葉が判っているかどうかは定かではないが、念のためにラフェドウィズに声をかけて首筋を撫で、外に出る。


「少し、風が出てきたかな?」

夜の女神に照らされて光って見える雲を見上げて、夜が無事に明けますようにと心中で祈った。





 それが起こったのは、空の大神が地平に現れるよりも2時間程前だった。


その時、オレは報告書をまとめていた。

一応、ここではオレだって正式な騎士であって、上司に報告の義務がある。

定期的に報告は上げていたとはいえ、やはり正式なものは必要との事。

今の状況で書くって、精神修行か何かかな?


その報告書の終わりが見えてきたと思った矢先、不意に首筋にチリリとした感覚が。

思わず首に手をあてたが、何もない。

こういう時は何かある、とラフェドウィズのためにと開けた窓から外を覗き込む。


秋の深まるこの時期は、昼間と打って変わって温度の低い風が頬を打つ。

夜のヴェールに沈む街並み、さらに深い闇のような海、夜明けはまだ遠い。

遠くに物語に出てくる巨大な獣王のように蹲る双子のステラ、そして、ほっそりとした夜の女神の僅かな光。


その光が、空に浮かぶ何かを炙り出しているのをこの目で捉えた。

明らかに、鳥じゃない!


それを見止めた瞬間、オレは待機所から飛び出した。


「敵襲だ!!」


別の場所から声が届く。


それと同時に起こる爆音。


あっという間に拡がるざわめきと夜を切り裂く朱。


鳴り響く警鐘を背後に、厩の扉を震える手で引き開ける。

天馬は急かすような視線をオレに寄越した。


「判ってる、ちゃんとエルと合流するって」

馬房の仕切りを開けながら、その視線に応える。鞍を付け、共に外へ。

ぶわりと何かが焼ける臭いがオレたちを包んだ。


「ひとりでいけるか?」

首元を叩くと、フンッと鼻を鳴らし、目視出来るようになった翼を2度羽ばたかせた。


遠くから避難を促す声と応戦しているだろう怒号が風に乗って届く。それに突き動かされるように、軍師様のいる倉庫へ走りだした。


ラフェドウィズ「慌ただしいなー」

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