プロローグ
拙いながらも、戦略系の物語です。
知識を捻り出して書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
初回はシリアスです。
「嫌だ。私も残るのっ」
静かな室内にやおら上がった幼い叫び声。
それに追随するように否定する声が諭すようにかけられる。
「バカ言うなよ、エル。こんな事は私等に任せればいいんだ」
クリス大陸ウィンラス共和国。
この場所の名前をそう言った。
クリス大陸では北方に位置し、『雪影の女王』と呼ばれるコルディアノン山脈から吹き込む強い風と国土のほとんどが高地にある事などから、寒冷な北国として有名である。そのため、主な産業は必然的に酪農であり、夏には放牧地の広がるこの土地に避暑にくる旅行者もいるような土地柄だ。
そんな土地の一角、共和国の中心にあるラスティア城の一室でその話し合いはなされていた。
困ったように眉を下げた人物が目の前の少女を見る。
「解っているんだろ?もうすぐここは危険になるって」
「それくらい、解っているもの!」
自分のスカートを握りしめ一歩も引かない少女に、相手をしている短髪の一見男性にも見えなくもない女性は、助けを求めるように隣に視線を向ける。
そちらには柔らかなウェーブを描いた長い髪を持った女性。
他にもこの部屋には彼女達を含めて9人の女性がいた。
アイコンタクトを受けたその女性はその身を屈め、少女と目線を合わせる。
「じゃあ、どうして?」
答えを促せば、少女はハッキリと答えた。
「私だって、ウィンラスのラスフェリア(戦乙女)だもの!」
ラスフェリア。
それは、この国における守備の要を意味していた。
先に述べた通り、主要産業は酪農ではあるが、交易のために護衛業(傭兵)も盛んに行われている。その傭兵達は国の有事の際には、国を守るいわば騎士団のような役割も担う事を義務付けられていた。
王を持たないこの国のそんな傭兵達をまとめるのが、実質国のトップである9人の女性。
男達に負けない武を持つ者、国を動かすための知を持つ者と各方面に秀でた女性達ばかりだ。そんな彼女達を敬愛と畏怖を込めて人々は、そのように呼んだ。
エルと呼ばれた少女の言葉に口を閉ざす面々。
自分達もそう思ってはいる。付き合いは短いけれども、彼女は大切な妹分で仲間だ。
だけど、ここでそれを肯定するわけにはいかないのだ。
ようやく口を開いたのは、壁に凭れかかり事の次第を傍観していた人物だった。
「……確かにそうだ。エルの言っている事に間違いはない」
普段無口な彼女が言った事により、少女の気が少し弛む。
「だが……、私達と運命を共にする必要はない……」
その続けて言われた言葉に、少女はハッとした。
次の瞬間、襲われる眠気。
「……っ、テト姉様……!」
途切れる寸前の意識の中で睨んだ先には、本を開いたままこちらに片手を向けている眼鏡をかけた女性。
「エル、ごめんなぁ。やっぱり巻き込みたくないんだわ」
完全に意識を失うのを確認して彼女は腕を下ろし、本を閉じた。
「すまないな……、テト」
壁から離れたその人は、小さな体を抱き上げる。
「い~や、みんな同じ思いだからさ、お礼はいらないって」
テトが同意を求めれば、周りは頷いた。
それを見て彼女は、髪を一つに束ねた女性に少女を預ける。
「イーテ、予定通りに」
「えぇ。判っているわ」
イーテと呼ばれた女性は少女の顔にかかった髪を避ける。愛しそうに微笑むと、すぐに武人としての顔に戻る。
「私が帰るまで、持ちこたえてね」
「一緒に行ってもいいんだぞ?」
短髪の同僚が言うと、「冗談、仲間でしょう」と笑って流した。
「それじゃあ、行ってくるわ。エレス、ティル。私の部隊を頼むわね?」
「はいは~い、任されたよん」
元気よく返事したのはエレスと呼ばれた女性。隣にいたティルらしき人物も大きく頷く。
「それでは、イーテ。これを光の賢者様に」
そういって先程少女に問いかけた長い髪の女性は、イーテに封筒を差し出す。
「あらかじめ伝えてはおいたのだけれども、念のため」
「そうね」
少女を抱き直して封筒を受け取る。
「すぐに帰るから。だから……」
「私達は負けはしない。ウィンラスの戦乙女だからな」
その声を背にイーテは部屋から出ていく。少女を連れて。
――もう、10年も昔の事……。
過去の話でした。
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