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5月〈2〉あたらしいともだち・1

 さて、引き続き土曜日。 時刻は夕食まであと一時間くらいといったところか。ちなみに、先生にカップ麺は返してない。


 何かを言いたげな先生の方をできるだけ見ないようにしながら、俺はスマホを手に取った。どうやら先生と揉めて? いる間に、地元の友達からメッセージが届いていたようだ。


『土曜って魔術学校も休みなんだろ? 今日何してた?』


 ああ、今日は……ベッドに寝っ転がる。昼間に街を歩いていた時のことを思い出しながら、質問の答えを打ち込み始めた。



 ◆



 本屋とドラッグストアで買い物をしてから、いつものファストフード店で昼食を食べた。この後はどうしようかと考えながら、ぶらぶらと歩いていた。


 駅前を訪れるのは三回目ともなると、人の流れに乗って歩くことにもだいぶ慣れた。今日はまだ行ったことのないところに行ってみるか。あちこちに目線を向けていると、ゲームセンターの前に貼られているポスターが目に止まった。


 そこにドンと大きく描かれていたのは、動物たちをモチーフにした『ユルっとすみか』というキャラクターだ。モチーフはウサギやネコ、イヌ、ニワトリ、トカゲ……などなど。なんせ仲間がいっぱいいるらしいので、全ては把握していない。どのキャラも、現実ではありえない丸っこいフォルムに、パステルカラーでカラフルに色づけされたデザインだ。


 老若男女におなじみのこのキャラに、俺が抱く感情は「かわいいとは思う」という程度である。しかし少し前から母親が大いにハマっているためか、身近な存在に感じるようになった。


 母親はこのキャラのマグカップとひざ掛け、スマホカバーを愛用していて、部屋の机の上には小さなぬいぐるみが飾られていたりする。メッセージアプリに送られるスタンプも、このキャラのものが多い。


 目の前のポスターをじっくり見ると、キーホルダーやエコバッグ、ぬいぐるみ、扇子、携帯型の扇風機なんかの写真が載っている。そして、初期のデザインの復刻版らしいぬいぐるみが、特に大きく取り上げられていた。一緒に書かれている『プライズ限定』という言葉の意味がよくわからないが、ここでしか手に入らないということだろうか?


 ……珍しいものなら、母さんも欲しいって思うかも。大ファンだもんな。


 いや、それはただの言い訳だ。ずっと立ち入ることを禁止されていた場所への興味が俺をかき立てる。母親は片道半日以上かかる場所にいる。そう今、俺を止めるものは誰もいないのだ。


 俺は、意を決した。




 ◆




 入り口をくぐった先にあったのは、さながら別世界だった。


 薄暗い空間に、コロコロと色が変わるたくさんのモニターと、色とりどりの照明が浮かぶ。あちこちに目移りしながら、狭い通路に人がひしめくのを、避けながら進んでいく。


 おそらくゲーム機が発する何種類もの音楽や、車の音や銃声。太鼓の音。そのほかにも正体のわからない音。それらが混じり合って空間を満たす。全てを追おうとすると、目と耳がとても忙しい。外の人混みとはまた違った、初めての刺激を全身に受けた。


 ゲームセンターに来たのは初めてだが、地元にも隣町のスーパーに行けば、小さなゲームコーナーくらいはあった。遊び方は友達から聞いて知ってはいたが、実際に遊んだことはない。小遣いを無駄に使ってはいけないと、母親からかなり口酸っぱく言われていたからだ。


 もちろん入寮の際にも、くれぐれも無駄遣いのないようにと言われていた。言いつけを破ることに、小さな罪悪感を抱きながら、両替機でお札を小銭十枚に替えた。物は試しだし、何事もまず経験することが大事だ。十回だけチャレンジしてみよう。引き際さえちゃんとわかっていれば大丈夫なはず。


 自分にそう言い聞かせ、小銭を握りしめる。お目当てのキャラのグッズを探し、さっそく人生初のゲームに挑戦してみた。




 ◆




 ……何もかもが初体験だったので、操作は見よう見まねだったのだが、俺は両手いっぱいほどの景品を手にしていた。なんとあの十枚の小銭は、全てがさまざまな景品に変わったのだ。キーホルダーは一回の挑戦で何個も取れたし、扇風機も、エコバッグも、ひと抱えほどある大きなぬいぐるみも取れてしまった。 ビギナーズラックというやつだろうか。


 あまりにも上手くいきすぎたので、後で何か高額な請求でもされるのではないのだろうかと思ったくらいだ。


 そして問題は、どうやってもリュックに入らないサイズのぬいぐるみ。仕方がないので脇に抱えて歩いていると、店員さんに呼び止められた。やはり何か追加料金を申しつけられるのだろうか、と思ったが違った。ぬいぐるみを袋に詰めてくれると言う。


「すみません。こういうところに初めて来たので、勝手がわからなくて」


「えっ! お兄さん初めてでそれ取れたんです!? すごいですね!! まるで魔術師だあ……ああ、耳は出ちゃいますね」


 やたらと気さくな店員さんは目を丸くすると、どこからか取り出した袋にぬいぐるみを詰め始めた。長い耳をどうにか納めようと、苦心しているように見える。


『魔術師』と言われたことに、不正を疑われたのかと肝が冷えた。唾を飲む。確かに魔術を使えば……簡単だろう。いや、やってないし、見つかったらただじゃすまないから、今後もやらないが。


 しかし、落ち着いて考えれば『お兄さん』が魔術師であることは通常ありえない。ただの、#も__・__##の__・__##の__・__##た__・__##と__・__##え__・__#だ。


「はい、どうぞ。また来てください!」


「あはは、ありがとうございます」


 ホッと息をつき、ウサギの耳がはみ出した袋を受け取った。


 キーホルダーはたくさんあるから、ずっと財布に入れて持ち歩いていた寮の鍵に付けようか。あとは、帰省するときに持って帰ろう。母親は喜んでくれるかな……いや、ゲーセンに立ち入ったことを咎められるのが先か。まあ、その時はそのときだな。


 そんなことを思いながら、薄暗い店内を抜け外に出た。


 数十分ぶりの日差しを眩しく感じたので目を細めてから、バスに乗るために駅の方を目指した。ぬいぐるみは袋から半分顔を出し、俺が歩くたびウサギの耳がペコペコと揺れる。


 しかし……大きなぬいぐるみをぶら下げて歩くのは、思ったよりもずっと恥ずかしかった。その後に寄ったコンビニでも、バスを待っている時も……ピンクの耳がはみ出ている袋に熱烈な視線を向けられている気がして、自然とおどおどしてしまう。


 まるで、初めて街に出た時のようだった。ああ、そうだ。ゲームセンターにいるとき、欲しい人を探して譲ればよかったかもしれない……少し後悔しながら、ぬいぐるみと一緒に寮に帰った。

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