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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
7/6
18/188

12:00

眠気の限界だ。


瑠愛くんとのラーメンは楽しみだけど味が理解できるのか分からないな。


俺は久しぶりのラーメンがこんな日なんてと1人落ち込みながら帰りの準備をしていると、目の前の空いた席に一くんが座って俺に話しかけてきた。


一「姐さんとはどんな感じ?」


夏「えっ…。」


俺はその言葉に驚いてしまい、つい声を出してしまう。

昨日、一くんと遭遇してしまいそうだった事と思い出して少し戸惑う。


今日はダメだな、注意力が落ちてる。


夏「たまに連絡取るくらいだよ。」


そう言うと、一くんは少し口を尖らせた。


一「そうなんだ。夏は姐さんのどういう所いいなって思ったの?」


いいな…か…。


あの時、マサキさんが俺と会うのが気まずくならないようにしただけなんだけど、一くんにはそう思われても仕方がないよな。


でもお客さんとキャストの仲だから好きとかではないし、あまり何も思わないようにしてるんだよな。


そうやっていないと、今日の朝まで過ごしていた人のようなお客さんたちが取れないから俺は自分に出来ることをその場でやってるだけ。


…ああ、もう忘れかけてきてたのに朝触られた手の感触を思い出してしまった。


せっかくマサキさんや瑠愛くんが俺のために色々してくれたのに、社長はその上塗りを突き破ってくるから嫌いだ。


俺は回らない頭を悩ませ、イラつきながら間違った言葉を口にしてしまう。


夏「一くんはお姉さんのなんなの?」


一「は?」


俺は思ってたとしても聞いてはいけないことを口に出してしまう。


…やらかした。

いつもだったら言葉選びは慎重にしてるのに。


一くんは俺の言葉に少しイラつき覚えたのか、少し目線が鋭くなる。


一「俺が聞いたこと答えてないじゃん。」


そうだった…。

自分の頭を整理するのが精一杯で言葉のキャッチボールが出来てなかった。


でも、マサキさんに思うこと…。

週に1度を2年近く、マッサージをするだけの仲で思ったことを口に出す。


夏「…素直で優しくて寂しがり屋だけど、他人のことを大切に思える素敵な人だと思ってるよ。」


嘘はついてない。


触れると素直に反応してくれて、いつも俺の好きなオレンジジュースを買ってきてくれてて、ホテルの部屋を出る前は少し寂しそうにするんだ。


でも、俺のことを思ってクラス会の時に手紙で謝ってくれたり、昨日だって俺の表情がすぐれなかったから少しの間仮眠を取らせてくれた、とても人のことを見てくれる人。


一「そう。好きなんだ。」


一くんは少し悲しそうな顔をして口を尖らす。


夏「いや…、そうじゃ…」


一「は?お前こそなんなの?姐さんで遊ぼうと思ってるならやめてほしい。」


一くんはマサキさんが好きなのか?


でも…。


俺は、他人の恋愛事は惚気話聞くだけで十分なんだ。

愚痴も別れ話も聞きたくない。

愛のない話なんか聞いていてもしょうがない。


夏「俺は遊びでお姉さんと連絡取ってるんじゃないよ。」


でも俺の仕事は言えない…。


夏「…ちゃんとした説明はできないけど、傷つけたりはしないよ。」


マサキさんはしっかりキャストとお客として距離感を分かってくれる貴重なお客さんなんだ。

連絡を取るなって言われて止められるわけじゃないけど、傷つけることは絶対しない。


一「そんな保証ないだろ。」


夏「俺と話すんじゃなくてお姉さんと話すべきだよ。一くんが支えてあげ…」


俺が話してる途中、一くんが俺の机を殴り立ち上がった。


一「マジでお前、姐さんとどういう関係なの?腹立つ。」


どうしてそうなるんだよ。


なんでみんな関係を言葉で表さないと気が済まないんだ。


夏「…お姉さんが好きなら好きって伝えてあげればいいじゃん。俺は関係ないよ。」


だって、仕事で知り合った仲で要望をなるべく満たしてあげるだけなんだよ。

友達でも恋人でもない、言葉で表すならただの知り合い。

好意はあるけどそれはお客さんとしてだから、一くんが思うようなものじゃない。


一「逃げる言葉ばっかり使うなよ。姐さんはお前のことがいいと思ってんだよ。」


夏「それは…、好きとかじゃ…」


一「何度伝えても俺の思いは姐さんに届かないのに、お前が渡した1つのメモでそんなに仲が深められるなら気が合うってことなんだ。

…けど、俺はきっぱり断られるまで諦めない。」


いつもの一くんとは思えないほどの低い声を震わせながら俺にしか聞こえないよう言い、自分の席に戻っていってしまう一くん。


一くんにとって知らないマサキさんを俺は知っていて、俺が知らないマサキさんをきっと一くんは知っているから好きになったんだろう。


…なんだか、昨日からいろんなことが起きすぎて疲れた。


俺は溜まっていた不満と不安が目の奥に溢れてきてしまい、たくさんの人がいる教室で泣きそうになってしまう。


するとトン!と両肩を掴まれ、俺の横に沙樹と愛海が座る。


沙樹「お待たせー!J ORICONNの話聞いて…?ん?どうした、夏?」


愛海「…ん?え?そんなに痛くしたか?」


2人が俺の顔を覗き込んで、心配そうな顔をしている。


ダメなんだ。

泣くのは俺だけでいいんだ。


俺が大切に思ってる人にもうそんな顔をさせたくないんだ。


夏「…たんだ。」


「「ん?」」


夏「…ううん。あくびしてただけ。」


俺は今の自分に出来る作り笑いをして、2人に笑いかける。


すると2人はその様子に安心したのか、職員室で先生と話をしたことを教えてくれる。


その会話で自分の思っていたことがどこかに沈んでいき、気持ちが落ち着いて涙が引っ込んでくれた。


今度お礼に2人の好きなチョコをプレゼントしよう。


そう思い、2人に感謝しながら話を聞き、帰りのHR後には瑠愛くんと待ち合わせた駅前に行きラーメンを食べに行った。





→ OXYMORON


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