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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
8/26
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22:00

「夏の友達にまた会えるの嬉しいな。」


と、昔よりたくさん増えた俺の友達に会えることを昼から楽しみにし続ける莉李。


けれど、俺はずっと心臓が変な脈を打ってる気がして息苦しい。


俺はまた別の人を考えてる顔を見られたくなくて、自分の体に莉李をしまいながら2人が来るまで瑠愛くんがオススメしてくれた映画を一緒に見ているとインターフォンが鳴った。


夏「俺、出てくるね。」


莉李「うん!私、飲み物出しとく。」


俺は莉李の背中から離れて玄関に向かい、1度深呼吸して扉を開ける。


夏「バイトお疲れ様。」


俺は目の前にいる沙樹とその後ろにいる永海に声をかける。


沙樹「急で本当にごめんね。これ、お詫びのシュークリームとプリン入ってる。」


夏「ありがとう!2つとも莉李好きなんだー。」


俺は笑顔を作りながら沙樹からケーキ屋の白い箱を受け取り、2人を家に入れると俺を横切る2人が恋人繋ぎをしてるのを目で捉えてしまった。


夏「そこの扉が開いてるとこに洗面所あるから手洗いとかに使ってね。」


沙樹「うん!ありがとう。」


永海「ありがとう。」


2人の言葉の温度差に俺は耐えきれなくて先にリビングに戻ると、莉李が眩しいと言っていた冷蔵庫の上段を開けようとしていて心臓が止まりそうになる。


夏「ど、どうしたの?」


莉李「ん?こっちに夏がジュース入れてたなって思って。」


あ…、そうだった。

全部自分でやろうって思ってて普段と同じ場所に入れちゃってたんだ。


夏「俺が取るね。これ、沙樹たちがシュークリームとプリンくれたんだ。ご飯食べ終わったら食べよう。」


莉李「うん!じゃあ私、グラタン温めとくね。」


夏「うん。お願い。」


俺は莉李に今日の夜ご飯を温めてもらいながら、テーブルにご飯やカトラリーを並べていると手洗いが終わった2人がやってきた。


…もう、付き合ってるのかな。


俺はまた手を繋いでいる2人を見て終わらせると決めた想いが、終わってもないのにまた始め出そうとしてしまう。


莉李「2人とも髪色綺麗ですね!」


と、莉李は自己紹介する前に目を輝かせながら俺も好きな2人のチャームポイントを褒めた。


永海「ありがとうございます!白浜 永海です。夏と一緒の学校に通ってます。」


沙樹「同じく!間宮 沙樹です。」


莉李「大咲 莉李(おおさき りり)です!今日は夏と一緒にグラタン作ってみたのでお腹いっぱい食べてくださいね。」


俺は和やかな3人の自己紹介を聞きながら、テーブルセットを終えて台所に戻るとなぜか3人でパン切り大会を開いていた。


夏「…何してるの?」


俺は一切れ一切れ交代していく3人に思わず声をかけてしまう。


莉李「2人とも料理上手いらしいから切り方教えてもらってた!」


そして莉李は相変わらず1㎝の厚さにパンが切れずに、断崖絶壁ばりの一切れのパンが出来上がる。


沙樹「パン切り包丁じゃないから難しいのかも。」


永海「私もフランスパン切るの苦手だからたまにこうなっちゃう。」


莉李「でも、綺麗な葉っぱみたいに切れるの羨ましいっ。私のは虫食いになっちゃう…。」


…この場が居心地悪いと思ってしまうのは俺だけらしい。


俺は今日の夜を3人だけに楽しんでもらうことにした。


この夜のことをずっと考えてぼやっとしていた俺と料理が少し苦手な莉李が手作りで用意したサラダとグラタンは少し塩気が濃くて、用意していたサイダーがすぐになくなってしまったけど2人は美味しいと言って笑顔で食べてくれた。


沙樹「夏のご飯初めて食べたかも。」


永海「えー?合宿でカレー食べたよ。」


莉李「合宿?」


夏「夏休み始めに合宿あったんだ。すごい自然豊かで…、あっ!」


俺は莉李に見せたいと思っていた景色があったことを思い出し、ずっと前に現像してアルバムにしまった写真を自分の寝室に探しに行く。


「…眩しい。」


夏「あ、莉李。ちょっと待ってて。」


俺はその声を背に真っ白で明るい寝室でアルバムを探していると、扉が閉まる音がしてハッとする。


…廊下からこの光が漏れてたらリビングにいる莉李の目が眩むんだった。


俺は莉李に悪いことしたなと思いつつ、見つけ出したアルバムを手に取って立ち上がり、扉に向かうとそこにはライトのスイッチに手を置いている永海がいた。


夏「…永海?」


永海「なんで、沙樹にOKしたの?」


初めて見る怒った顔の永海は向こうのリビングでお笑い番組を見てる2人に気づかれないように小声で話す。


夏「…沙樹がお願いしてきたから。」


永海「お願いしたら夏はなんでも叶えちゃうの?」


夏「限度はあるよ…。」


俺は目線を逸らし、昨日からある莉李の石畳の庭に目を置く。


永海「私、夏に失恋中なのに連れてこられちゃったよ。彼氏の沙樹って意外と欲張りさんだからさっきも手繋いじゃったよ。」


夏「…付き合えてよかったね。」


永海「付き合って初めてのデートが夏の家だよ。夏はこの意味分かる?」


夏「分からないよ…。けど、沙樹が…」


俺が昼あった出来事を話そうとするとカチッと音がした瞬間、部屋の明かりがなくなり真っ暗になると、俺の体はベッドに吸い込まれてあの日感じた体温が俺の体の上に乗り、莉李の味がしないグラタン味の舌が俺の口の中に入ってきた。


俺は真っ暗で何が起きてるのか分からなくて、目の前にある顔を鼻で押して唇を離してもらう。


夏「…何してるの?」


永海「沙樹の嫌なとこ見るのやだよ。夏のこと傷つける沙樹見るのやだよ…。」


苦しそうな言葉と一緒に俺の頬には温かい雫が何滴も落ちてきて、その辛いものを生み出す顔に俺は抱きつく。


夏「…ごめん。俺が悠みたいにちゃんと区切りつけないからみんなのこと傷つけてる。沙樹は俺にやり返してるだけだから嫌いにならないで。」


永海「ならないし、なれないけど、2人が仲悪くなるのも嫌なの。だったら私…」


夏「そんなすぐに決めないで。俺たちの仲は俺たちの問題だから永海のせいじゃないよ。今、こうやって2人でいることが沙樹のことをお互い傷つけてるから早く戻ろう?」


永海「…うん。」


そう言うと俺の腕の中にあった体温が離れて、ベッドの沈みも俺しかなくなる。


永海「…ごめんね。」


夏「俺もごめん。もっとちゃんと考えるようにするから。」


永海「…うん。」


俺は永海のグロスがついてしまった口元を手で急いで拭き取り、リビングに戻ると莉李と沙樹が大笑いしていてコントを見ていた。


俺は莉李だけが隣になるように座り、永海は沙樹だけが隣になるように座り、沙樹と莉李の間に俺は持ってきたアルバムを広げる。


夏「…これ。愛海がタイミングよく携帯を投げて奇跡的に取れた、太陽目線から見たひまわり畑の写真。」


俺はこのアルバムの中で1番見せたかった写真を見せて合宿であったことを、3人で話す。


莉李は途中から高校を通信にしてしまってから学校行事には疎遠になってしまったらしく、こういうのが羨ましいと話してくれた。


やっぱり俺たちの3年間は大きくて知らないことがまだまだたくさんあるらしい。


夏「今度、文化祭あるから時間あったら来てほしいな。」


俺は2人が見えないところで莉李と手を繋ぎ、想いを送る。


莉李「でも、たくさん人いて明るいよね?」


夏「そうなんだけど…。俺、生徒に選んでもらったアーティストだから貸し教室1個好きに使っていいことになってるんだ。一応そこも展示の場所だから人は来るけどテーマはなんでもいいんだ。」


沙樹「…え?夏ってあの20人の中に入ったの?」


夏「あ、うん。…言っちゃダメなやつかな。」


永海「名前言ってないから大丈夫だけど…、選ばれたんだ!」


莉李「そんなにすごいことなの?」


と、2人の驚いた様子を見て莉李も驚く。


夏「すごいか分からないけど、好きに作れるし費用もある程度は学校負担だから俺は作るだけなんだ。」


沙樹「すごいことだよ!全生徒の中の20人に選ばれたんだよ!僕、全部回る!」


永海「私も!どれか分からないかもだけど、夏の作品目に入れたい!」


夏「ありがとう。」


俺は2人がいつも通りの顔になったことが嬉しくてこの話をしてよかったなと思えた。


夏「だから莉李も来てほしいな。莉李のために作るから来虎兄さんと一緒にまた東京来てよ。」


莉李「うん…!来虎兄さんにも言っておくね!」


そう言うと莉李は嬉しそうに俺の腕に抱きつき、肩を枕にしてアルバムをゆっくりとめくっていく。


すると、あの日の鎌倉の写真が出てきた。


夏「あ…。」


莉李「鎌倉は近いからいっぱい行ったね。思い出いっぱいだからまた行きたいけど、車通り多いからなぁ。」


と、莉李が少し残念そうな声で呟く中、俺は一瞬永海を見てしまう。


すると、一瞬目が合った永海は沙樹の首元に抱きつき沙樹とキスをした。


けれど莉李はアルバムに夢中らしく、何も気づかないでたくさんの思い出を口に出していく。


俺はそんな少し鈍感な莉李も好きで、莉李の頭に頬を置き2人が何しても見えないように莉李の膝にアルバムを置いて2人だけの思い出を語り合う。


永海には『分からない』って言ったけど、こんな気持ちになるのは分かってた。


けど、俺も永海も沙樹もこの汚いと理解してる感情にいつかは区切りをつけたいって思ったはずなんだ。


だから今日の夜にみんなで終わらせよう。


俺は莉李の真っ暗な夜空に思い出のカケラを内緒に落とし、自分の唇でそっと触れて莉李の思い出だけをすくい取り、2人の嫌な思い出は夜空に捨てることにした。





→ 笑顔


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