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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
8/22
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12:00

俺は夢衣さんの家からやってきた荷物を瑠愛くんの家に運び入れていると、家から戻ってきた夢衣さんは帰ってきたばかりの瑠愛くんを呼んで寝室に行ってしまった。


こんなに人がいても求めてしまうところを見ると、夢衣さんの中にある桃汰さんの痕跡が消えきれていないんだなと感じ、見える傷よりも見えない傷の方が深く残ってしまうんだなと思った。


俺はその痕跡がまだ肌にある悠の様子が心配で見に行くと、昼ご飯を作っていた。


夏「…あれ?10人前?」


俺たちや引っ越しの手伝いをしてくれる人を合わせても、9人だけど後で誰か来るんだろうか。


悠「うん。引っ越しって言えば、うどんだよね。」


夏「そばだと思ってたけど。」


悠「うどんも、そばも、そうめんも、きしめんも、大体同じだよ。」


そう言って、悠は湯がいているうどんを箸で軽くほぐしながらバラ肉とほうれん草が入っただし汁を作り始める。


悠「瑠愛くん帰ってきた?」


夏「…まだかも。」


悠「そっか。あと15分くらいで出来るから荷物全部入れ終わっといて。」


俺の顔を見ずに作業してくれる悠は、俺の嘘を見つけられなかった。


夏「出来るかな。」


悠「出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやるかのどっちかって瑠愛くん言ってたよ。」


夏「どっちもやるじゃん。」


悠「うん。やるんだよ。」


夏「…はーい。」


俺はまだまだある荷物を夢衣さんの部屋になったゲストルームに入れていると、夢衣さんが戻ってきたのか半開きの扉が動いたのが見えた。


「…え、えぇええええ!?」


と、その扉を開けた子が俺がここにいることに驚き、俺もその子がいることに驚く。


「夏さん!お久しぶりです!」


夏「天ちゃん!元気そうでよかったよ。」


天ちゃんは俺に駆け寄り、ここに俺がいること大喜びしてくれている。


…でも、なんでここにいるんだろう?


そう思っていると、隣の部屋で自分の荷物を整理していた一くんがやってきた。


一「…何?知り合い?」


天「あ!ひぃ兄、この人が私の恩人さん!」


そう俺のことを天ちゃんは紹介してくれると一くんが少し驚く。


天「不審者の時に私と渡辺のこと、守ってくれたんだー!」


天ちゃんはその事を嬉しそうに語り、俺の手を取りたくさん感謝してくれる。


夏「一くんが天ちゃんのお兄さんだったんだ。たしかに目元が似てるかも。」


俺はこの2人が兄妹なことを目で見て確認していると、一くんの顔がだんだん曇り始めた。


一「おい。俺の妹に手出したか?」


夏「え!?なんでそうなるの…。」


天「ひぃ兄やめてよ。恩人さんにそんなこと言わないで。」


一「中学生の女1人の家に行く、20代男はイかれてるだろ。」


…まあ、そう言われてもしょうがない。


とっさのことで体が動いたけど、少し頭を働かせればダメだって分かるよな。


天「私が電話したんだもん。」


そう言って天ちゃんは一くんのことを睨みつけてむっすり顔になると、その顔を見て一くんは俺のことを怪しむことをやめて少し広角を上げた。


一「…まあ、天と渡辺のこと守ってくれてありがとう。」


夏「あ…、うん。勝手に家に入ってごめんね。」


一「もう、俺の家じゃないから。」


そう寂しげに呟いた一くんは自分の部屋に戻ろうとすると、俺を呼び手伝いを頼んだ。


俺は一くんに頼まれた通り、ハンガーに服をかけてクローゼットにしまう作業をしていく。


一「…夏は渡辺の事、覚えてる?」


夏「うん。渡辺 琥太郎くんでしょ?すごく重い朝ご飯教えてくれたから印象的な子だったよ。」


一「…どんな朝飯?」


夏「レンゲ8杯分入れたココア。すごい甘かったー。」


俺はあの日に飲んだココアを思い出し、喉焼けを感じて首に触れる。


一「そうなんだ…。」


と、一くんはそのびっくり朝ご飯を聞いてもそんなに興味を示さずある質問をしてきた。


一「その渡辺に聞いたんだけど、なんで絵描きながら泣いてた?」


…やっぱりバレてるよな。


俺はあの日、琥太郎くんが近くにいても自分の絵に集中しすぎてココアの香りが鼻に届くまで全く気づかなかった。


夏「んー…、多分目にゴミ入ったのかも。」


一「俺の部屋、ずっと泣くほど埃っぽかった?天が掃除してたはずだけど。」


ダメだ。

一くんには俺の全てが見抜かれているようで、俺が下手くそな嘘をついても何も意味がない。


夏「…ごめん。嘘ついた。」


一「…うん。そうだと思った。」


俺はそう呟いた一くんを見て、俺の嘘で嫌な思いをしていないか確認するけれど何も読み取れなかった。


夏「顔に、出てた…?」


一「まあ、夏は顔に出やすいかも。」


と、一くんは俺の顔を見て軽く笑う。


夏「そっか…。直したいな。」


自分は顔に嘘が漏れ出てしまうのに、一くんはいつも人の感情を読み取って笑顔に出来てしまう。


だからみんなを惹き付けて好かれるんだろう。


だからあの子が一緒にいたくなる気持ちも分かるんだ。


一「直す必要ないだろ。俺はそういう夏が羨ましいよ。」


え?


一くんが俺を羨ましい…?


なんでそんなことを思うんだろう。


一くんはたくさんの人を惹きつけて魅了しちゃうすごい人なんだ。

だから、俺の知らないマサキさん、瑠愛くん、悠、永海の表情を引き出せてしまうんだ。


夏「俺は…、一くんが羨ましい。」


俺は彼方 夏として必要とされたことがないから、みんなに必要とされる一くんが羨ましい。


一「…初めて言われた。嬉しい…、かも。」


俺の言葉をとても嬉しがってくれる一くんの目は、雪降るスノードームのように嬉しさが舞っていて俺もその言葉で嬉しくなる。


夏「俺も初めて言われた。…嬉しいな。」


俺は自分の言葉でこんなに喜んでもらっていることに喜びを感じていると、悠がご飯ができたと俺たちを呼び、ひと段落した人たちでご飯を食べることになった。


悠「夏くんは莉李さんとどっか行くの?」


夏「ううん。家でのんびりするつもり。」


悠「じゃあ、呑み会しよっか。」


夏「そうだね。」


一「…莉李って人は夏の恋人?」


と、他の人との話で夢中になっている天ちゃんの隣でこっそり肉を奪う一くんが俺に聞いてきた。


夏「うん。この間、一緒に絵を完成させたんだ。」


一「そうなんだ…。あの絵、入選すると思う。」


夏「一くんたちのもすると思う。」


悠「入選したら見にいくね。」


「「うん。」」


一くんとはこの間からよく言葉がかぶる。


それが少しでも憧れている一くんに近づけていることなのであれば俺は嬉しいな。


俺たちは腹ごしらえをしてまた荷物整理を再開することにした。




→ 遠吠え


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