12:00
帰りのHRが終わったと同時に俺は仕事に向かう。
今日は24時からお泊りコースの予約が入ってるからその間にどのくらい稼げるかだな。
夏「おはようございます。」
俺はいつも通り、事務所にいる店長に声をかける。
店長「おはよう。今日もよろしく。」
店長が今日の予約客の名前と時間帯をメモに書いて渡してくれる。
16時と20時に3時間ずつ入ってる。
これで昼にフリーでも2人くらい入ってくれたら嬉しいなと思いながら、俺はメモの1番下に書かれたお泊りコースの名前を見て、寒気を感じる。
夏「あの…、今日のお泊りって…」
店長「社長の枉駕さん。今日も優治指名だからよろしく。」
夏「…俺、NG出したはずなんですけど。」
店長「…ごめんな。あの人に言うこと聞かないと私の首が飛ぶんだ。」
夏「…はい。」
俺は肩を落として休憩室に向かう。
社長なのにNGを出した理由は俺に本番行為を迫ってきたこと。
この業界ではタブーなはずなのに自分の権力を使ってそれを犯そうとする。
俺が眠りに入ろうとした隙に何をやられるか分からないから、今日は眠れずに朝を迎えることになる。
俺は携帯を開き、明日の予約時間の埋まり具合を店舗サイトを見て確認する。
…明日も予約入ってるから休めない。
俺は休憩室に入ってすぐ仮眠を取ろうとすると、先に来ていたキャストたちが元気に騒いでいた。
個室はあってもただのパーテーション1枚。
声はダダ漏れで眠れない。
俺は仕方なく暑いベランダで不安定な丸椅子1つに座って寝ることにした。
けれど、ただ息するだけでじんわりと汗をかいてきて隣の室外機はうるさく、全く眠れる環境には適さない。
それだけでも苦痛なのに夜にはあの社長が俺を取り入れようとやってくる。
今日を乗り越えられるのか不安でいると、ベランダの窓が開く音がして誰かが入ってくる。
「優くん、こんな所で寝るなんて変わってるね。」
と、瑠愛くんの優しい声が聞こえて帽子をかぶせてきた。
俺は目を開けて瑠愛くんにお礼を言う。
瑠愛「起きてたんだ。なんで中で寝ないの?」
夏「みんなが賑やかで寝られなさそうだったから。」
瑠愛「あー…」
と、中の方を見ながら瑠愛くんは半分の棒アイスを咥える。
瑠愛「確かにうるさいね。ここまで聞こえてくるもん。」
そう言いながら、瑠愛くんは俺に片手に持っていた棒アイスの半分をくれる。
夏「ありがとう。」
瑠愛「優くん、なんか顔色悪くない?寝てないの?」
夏「…今日、社長に指名されちゃったんだよね。」
瑠愛「…あー、そういうことね。」
瑠愛くんは全部察したのか、空を見上げながら呆れた表情をする。
瑠愛「あの人、許しすぎると俺たちの穴まで使おうとするから気をつけな。」
夏「え?本当?」
瑠愛「うん。俺、NGなのに寝てる時された。ああいう奴って大体性癖ねじ曲がってるって思ってた方がいい。ナツメさんは開発するのが趣味なんだって。」
瑠愛くんが恐ろしいこと言いながら笑う。
夏「そっか…。どうやって止めてもらったの?」
瑠愛「がばがばお口に俺の入れてあげた。店の金とは別に貰ったからそれで2ヶ月は遊べたねー。」
瑠愛くんは笑いながらこの仕事のタブーを話していく。
夏「そっか…。」
俺はその話を聞いて一気に疲れていない体の疲れを感じる。
瑠愛「優くんは女の子が好き?」
夏「高校の時に付き合ったのは女の子だからそうだと思うよ。」
瑠愛「じゃあ、俺みたいな事は止めときなね。どんなにお金積まれても自分の恋愛対象を潰す事はしないほうがいいよ。」
瑠愛くんは伏せ目がちな目で俺の下半身を指す。
瑠愛「心と体は心身一体。分裂すると俺みたいになっちゃうから自分の気持ち大切にしなね。」
夏「…うん。」
瑠愛くんがどんな人生を送ってきたか分からないけど、その“1歩”を踏み出す事が出来てしまうくらいの人になってしまったって事を言いたいんだろう。
瑠愛「体で金稼いでる奴なんかこの世にいっぱいいるのに、こういう仕事だけが特に馬鹿にされて下に見られてるんだ。
だから今後もあのバカ社長みたいな人が出てくると思ったほうがいいよ。
…まあ、まだ優くんが続けようと思えるならね。」
夏「まだ続けるつもり。…瑠愛くんは?」
瑠愛「年齢詐称が出来なくなってきたら辞め時と思ってる。」
と、また普段の笑顔に戻る瑠愛くん。
今はいっくんと言う男の子が好きだと言ってる瑠愛くんだけど、昔はどんな恋をしてたんだろう。
けど、その質問は今の話をしてくれた瑠愛くんには聞けず、そのまま瑠愛くんの好きないっくんの惚気話を聞く事にした。
→ Down to You