12:00
「さきちゃん来れなくて残念だね。」
と、悠は残念そうに昼ご飯を悩みながら歩く。
俺はしばらくキャストとして働かないから悠とマサキさんで一緒に遊ぼうかなと思ったけれど、予定があったみたいでダメだった。
悠「夏くんは唐揚げとコロッケだったらどっちがいい?」
そう言って肉屋の前で悠は惣菜を選び始めた。
夏「コロッケがいいかな。」
悠「私はカニクリームにしよ。」
俺たちは揚げたてを貰うために待合の椅子に座って出来上がりを待っていると、新しいお客さんが来た。
「お姉さん、唐揚げ15個お願いしまーす。」
「はーい。1200円ね。」
その韓流スターみたいな顔立ちのお客さんは会計を終えて、俺たちの側に寄り出来立ての唐揚げを待つ。
悠「お米欲しいけど夜のうなぎのためにお腹空けとかないとなぁ。」
夏「え?うなぎ食べるつもりなの?」
「いいなぁ。僕もうなぎ食べたいなって思ってたんですよー。」
と、さっき側に寄ってきた顔立ちのいいお客さんが俺たちの会話にするりと入ってきた。
悠「…お兄さんはタレだく派ですか?」
「そうですね!スーパーに売ってる小さいの5つかけます。」
悠「だいぶいきますね…。もうタレ味ですね。」
「人工物の味って人間を味わってる感じがして好きなんですよ。」
だいぶ不思議な感覚を持ったお兄さんだなと思っていると、俺たちのコロッケが出来上がった。
「今からお昼ご飯なんですか?」
と、少し歩いた先にある公園に向かおうとしていた俺たちにお兄さんが聞いてきた。
悠「お昼ご飯っていうか間食みたいな感じです。」
「俺も一緒にいいですかー?仕事の昼休憩でちょっと暇なんです。」
俺は悠と顔を見合わせるけど、悠はそんなに気にしてない様子なので一緒に食べることにした。
唐揚げを頬張り顔の表現が豊かなお兄さんはケンさんと言って、フリーランスのライターをしていると話してくれた。
その仕事の息抜きに少し遠くの惣菜屋で美味しいご飯を買って、よく気分転換をしているそう。
ケン「おふたりは今日はデートですか?」
と、ずっと笑顔なケンさんは俺たちに聞いてきた。
悠「遊んでるだけですよ。」
夏「付き合ってないです。」
ケン「あらら。失礼しました。ほかにお付き合いしてる人がいるんですか?」
2人していないと言うと、ケンさんはさっきより笑顔が溢れる。
ケン「自分、悠さんとデート行きたいなって思っちゃったんですけどダメですか?」
と、ケンさんはカニクリームコロッケを食べ終えた悠の口元を拭きながら聞いてきた。
悠「んー…。」
悠は何かに渋りながら顔をしかめる。
悠「…ケンさんは本当にライターさんなんですか?」
と、悠はなぜか全く違う質問返しをした。
ケン「そうですよ?」
悠「他に副業とかしてます?」
ケン「たまにバイトみたいなことしてますね。」
悠「経営的なことは?」
ケン「んー?なんでですか?」
悠「ケンさんが付けてる時計、今着てるブランドの服と0の桁が3つほど違う気がするのでそれが不思議だなぁって思って。」
悠は目線でケンさんがつけている時計を指し、疑いの目をケンさんに向ける。
ケン「ああ!これ、企業家だった父が俺にくれたんです。自分で何か成せた時にこの時計よりもいいものを子どもに渡せるようにって願いを込めて。」
と、優しく笑うケンさんを悠は全く表情を変えず見つめる。
悠「渡せそうですか?」
ケン「お金があっても渡せる相手がいないんですよー。」
悠「そうですか。」
そう言って悠は立ち上がり、まだ食べてる途中の俺も立ち上がらせた。
悠「私はこの人狙ってるんで、別の人探してください。」
夏「…え?」
俺も驚いたが、ケンさんも驚き少し時が止まった。
ケン「…面白い子、みーっけ!そっかぁ…!うんうん!また出会ったらよろしくね♡」
と言って、最後に人が変わったケンさんは鼻歌を歌いながら帰っていった。
驚きを隠せない俺はなぜか不機嫌そうな顔をする悠を見て心配になる。
夏「…どうしたの?」
悠「女が全員男が好きって思ってる時点で嫌い。しかも子ども作るためだけに声かけるって気持ち悪い。」
…そんなこと思ってたのか。
俺は悠の機嫌が直りそうな言葉を探し出す。
夏「今日はうなぎ食べようね。」
悠「…うん!最高ランクのやつ食べよう。」
悠は目に輝きを取り戻し、新幹線の時間まで付近を散策することにした。
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