7:00
カーテンから漏れる日差しで俺は目を覚ますと、横で寝ていたはずの瑠愛くんは仕事に向かってしまった様子。
俺は時間を確認するために携帯を見ると、その上に置き手紙があった。
『夏くんは今日から有給です!
学生最後の夏休みを飛びっきり楽しんでください!』
最上 瑠愛と筆記体のような綺麗な字で書かれた手紙を見て驚き、俺は瑠愛くんに電話する。
瑠愛『夏くん、おはミント。』
と、言いながらミントタブレットをボリボリ食べる瑠愛くん。
夏「おはよう。あのさ、有給って半年働かないと…」
瑠愛『夏くんは頑張ってます!いや、頑張り過ぎです!最上社長はそんな夏くんが心配でなりません!』
瑠愛くんはいつもと違う口調で俺のことを心配してくれる。
瑠愛『俺は頑張る人を応援したいけど、殺したくはないです!どこかで死んじゃうのも嫌です!健康、愛、お金の三角形が綺麗な人が好きです!だから夏くんはまず正三角形を作ってから仕事に戻ってください!これは社長命令です!』
夏「で、でも…」
瑠愛『…俺の未来の奥さん、悠ちゃんと切り盛りするので大丈夫です。夏くんはお金のことも仕事もことも気にせずに自分のことに精一杯になってほしいです。』
瑠愛くんは真剣な声で俺に伝えてくれる。
夏「…悠と結婚するの?」
瑠愛『そういうとこ!夏くん、人のことばっかり気にし過ぎ。ちゃんと自分のことも気にかけないと心も体も病気になって動けなくなるよ。そしたら人生終わりだよ。俺はちゃんと心に従ったまま体を動かす夏くんと遊びたいし仕事したい。』
…瑠愛くんの言ってることは自分が人間として生きていく限り、必要なことだ。
2人のことは気になってしまうけど瑠愛くんに言われた通り、俺は瑠愛くんの言う“有給”を貰ってまずは正三角形を目指す試みをしてみることにした。
俺は今日、愛海が出るサーフィンの大会を開催している鎌倉に向かった。
愛海の試合はお昼過ぎだから午前中は散策をしながら、過去の思い出を写真に収めて整理しよう。
そう思ってレンタルカメラの一眼レフでどんどん思い出の場所を納めていく。
その思い出たちを俺の目とカメラでしっかりと刻み、俺の気持ちを固めてずっと抱えていた違和感を莉李と会う前に俺は見つけることにした。
けど、この方法が合っているのかは分からない。
こんな感情は俺が今まで感じたことがなかった感情だから、うまく言葉に表すことが出来ないし、手で描くのもまだ勇気が出ない。
それでも時間は過ぎていくから自分の気持ちにしっかり向き合って、あの想いを思い出にしまう決意を固める為にしっかり準備をする。
そうして鎌倉駅からあの公園がある由比ヶ浜まで歩いて来た。
俺は水分補給するためにその公園にあるベンチに座り、持ってきていたお茶を飲んでいると見覚えのある色が目に入ってしまった。
その子の向こうに見える煌びやかな海に負けないくらい、太陽の光を集めて輝きを放っているホワイトゴールドの髪色がいつも通り綺麗に繭を編んでいてやっぱり目を奪われてしまう。
…でも、なんで君の隣には俺ではない人がいるの?
俺は昨日、繁華街を駆けて行った2人の楽しそうな背中を思い出し心臓が締め付けられる。
…思い出にしまおうとしてるのに、なんで君はいつも写真で収まってくれないんだ?
俺は瑠愛くんに言われた正三角形を作るためにベンチから立ち上がり、1番近い横断歩道に全力で走る。
待って。俺の足を捕まえないで。
俺はそう願って走るけれど、機械は人の心情なんか無視に俺をその場に留めさせてしまう。
俺は信号機のボタンに待てと言われるも、焦る気持ちが何度も赤いボタンを押させる。
今回のも、お星さまの気まぐれであってほしい。
あの日の願いを取り下げてもいいから、今回も間に合わせてください。
俺はその願いを全く見えない星空に祈りながらボタンを押し続け、やっと進めと言ってくれた信号機に無駄にお礼を言いながら目の前にある浜辺へと繋がる出入り口に入り、2人の元へ走る。
俺と君が2人にならなければいいんだ。
ただ、君といつも通り話をしたいだけ。
だけどこんなに焦る必要なんてないのに、スニーカーに入る砂を気にせず君の元に走ってしまうんだ。
なんでなんだろう。
この気持ちの回答がまだ見つからないよ。
教えて、永海。
俺は永海の事、好きなのかな。
俺はまだ1つだけ空いていた海を見つめる永海の隣に走っていると、突然永海は隣にいる一くんに目を向けて俺が見えない向こう側に視線を移してしまう。
永海、そっちじゃないよ。
あの日みたいに輝きに満ちた目を俺に向けて今日の日にぴったりな飛行機雲のような笑顔を俺に見せてよ。
お願い。
俺がそう願った瞬間、一くんの体が永海に1番近づきお互いの顔の正面が重なった。
俺はそれを見た瞬間、見える全てのものが歪み目に映る全ての色が混ぜ合わさって永海が見えなくなる。
…お星さまの気まぐれは1人1回なの?
ねえ、誰か教えてよ。
1回だけならあの日より、今日間に合いたかったよ。
俺は2人の楽しげに会話する声を背に1人、また自分のやるべき事を進めるために浜辺を出た。
→ 花言葉