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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
8/13
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12:00

「ご馳走さま。」


俺は持っていたナイフとフォークを鉄板の上に置き、満たされた腹を撫でる。


愛海「ここの店に来たのは初めてだよな?」


夏「そうだね。誘ってもらったけどバイトでダメになっちゃった。」


愛海「あー、そうだったな。夏はいつも忙しいからなぁ。」


と、愛海はお爺さんから送られてきたというマンゴーをつまみながらステーキの油を流していく。


愛海「夏は今、何に追い込まれてるんだ?」


俺がマンゴーの甘みに驚いていると、愛海はとても大雑把な質問をしてきた。


夏「…生活費とJ ORICONNに提出する絵かな。」


愛海「それは1学年の時からだろ?俺が聞きたいのは“今”、“何に”、追い込まれてるのか。」


夏「…今、何に?」


愛海「俺が聞きたいのは夏が今何を思って過ごしているのか。…最近休めてないだろ?自分のこと大切にしてるか?」


夏「自分…。」


俺は最近の自分のことを考えてみた。


今年の夏休みはJ ORICONNに絵を出すこと、仕事を頑張って貯蓄もすることを1番優先して考えていたはずなのに、最近は人のために俺が存在している感じがする。


けれど、本当に相手が俺を必要としている人ではないことばかりだ。

みんな俺ではなく、誰かの代わりとして俺を呼んでくれただけ。


それでも俺がいることで相手のどうしようもない気持ちが落ち着くならそれでいいと思ってやってきた。


そういうのは俺自身、1人で傷つけばいいだけだから他の子には出来なかった。


だから俺は昨日、莉李の代わりになってしまいそうな子の気持ちを離れさせる手段を自分なりに考えたのに後悔ばかりしている。


ただ、俺が嬉しいと思うことをしてくれるのが良かっただけでそれに甘えてしまい、何も進展しない関係を先延ばしにしてしまうのは相手の人生を蔑ろにしているのと同じ。


だから俺はああしたのに。

なんで今も時間が戻ってほしいと思ってしまうんだろう。


夏「…もう、自分が分からない。」


俺は鉄板が片付けられたテーブルに突っ伏し泣き顔を隠す。


泣いたってもうあの場へ一緒に訪れることはないって分かってる。

どんなに悔やんでもあの子の隣にはいれない自分の気持ちがある。

何を願ったって叶いっこないのに自分の気持ちを押しつぶすために言った言葉を取り消したい。


そう思うのに、時間は戻らない。


愛海「人のことばっかり心配してたら自分の人生を生きられなくなる。夏は今仮死状態って感じ。」


そう言うと愛海はうなだれている俺の体を起こし、お気に入りの場所と言ってすぐそばの海岸ではなく、店の裏口にある茂みのバリケードをくぐった先にあった大木の上に乗るツリーハウスに案内してくれた。


夏「…店からこの家見えなかった。」


愛海「ちょうど太い枝と葉で死角になるんだよ。」


愛海は店から持ってきた瓶のジンジャーエールの蓋を開けて、俺にくれる。


夏「ありがとう。」


愛海「夏は悠とデートして楽しい?」


と、突然愛海は聞いてきた。


夏「デートしたことない。」


愛海「この間、仲よさげだったじゃん。」


夏「あれは悠が…」


俺は愛海の誤解を解こうとしたけれど悠の気持ちを考えて口を噤んだ。


愛海「じゃあ、永海とのデートは楽しい?」


夏「…楽しかった。けど、もうしない。」


愛海「なんで?」


夏「沙樹が永海のこと好きって言ってるから、2人の時間を俺が邪魔したくない。」


そう言うと、愛海は優しく笑い俺の顔を覗き込む。


愛海「悠はデートじゃないのに、永海はデートって思っちゃう夏の気持ちはどうなるんだ?」


夏「…え。」


愛海「遊びとデートって線引き難しいって言うけど簡単じゃん。相手を恋愛対象と見てるか見てないか。どちらかの認知がずれてたって夏がデートって思う時点で永海が好きじゃん。」


夏「…ち、違う。」


愛海「違くないだろ?今誰が1番好きなのか俺は知らないけど、永海も好きでいいじゃん。」


夏「それ、は…、ダメだよ。」


愛海「なんで?」


夏「1番好きな子の代わりになってほしくないから。」


愛海「…夏は永遠を信じるタイプなんだな。」


そう言うと愛海は首を傾げ、目線を上げて頭の中で何かを考えている表情をする。


夏「ずっとって約束したから。」


愛海「…そうか。じゃあしょうがないかもな。」


愛海は俺の言葉を聞いて納得してくれたのか、それ以降その話はせずに俺の仕事前まで付近の街案内をしてくれた。


途中、莉李との思い出や永海との思い出がいっぺんに思い起こされてしまって涙が溢れそうになったけれど、愛海に少し自分の気持ちを知ってもらえたからか堪えられるようになった。


愛海、俺の話を聞いてくれてありがとう。


愛海が気持ちを抑えきれなくなったら、俺が誰かの代わりになるからその時は頼ってね。


俺はそう心で伝えて、汗ばむ愛海の背中を追いながら思い出の街を歩いた。





→ ボーイフレンド(仮)


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