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永海は始発の時間になると手早く荷物をまとめて『またね。』といつもの笑顔で家に帰っていった。
けど、俺は永海と離れてからずっと涙が止まらない。
自分の言葉で大切だと思える人を傷つけてしまったことが、今までの人生自分に起こってしまった中でも1番辛くて痛くて寂しく感じてしまった。
俺の嘘でこんなにも嫌な思いをするなら、正直に全ての気持ちを晒した方がいいと今は思うけれど、永海は莉李じゃないんだ。
俺の好きと思う事は莉李が全て持ち合わせていて、それを少し永海も持ち合わせていただけの話なんだ。
笑顔が最高に可愛らしいのも、歌や料理が作れるところも、不意に目を奪われてしまう目元と口元も、俺の寂しさを何も聞かずに埋めてくれたことが一緒なだけ。
これを永海にバカ正直に話すことは今の俺には出来なかった。
誰かの代わりとして側にいてほしいなんて都合が良すぎる話だから。
そういうものは俺のようなお金がない子がお金をもらってすればいいことだと思うから。
大切な人の時間も気持ちもすり減らしてまで一緒にいることなんか俺には選べなかった。
たくさん謝りたくて今も足が永海の家に向かおうとしてしまうけれど、もう1人では行けない。
きっと2人になってしまえば気持ちが爆発してしまって、自分でも何をするか分からないから一緒にいたくない。
明日、愛海のサーフィンの大会があるから会うことにはなってしまうけれど、沙樹や悠、クラスメイト数人が来る予定だからきっと2人になることはない。
俺は明日の集合時間を聞くために愛海に電話しようと思い、息を整えていると携帯が鳴った。
…愛海からだ。
夏「…もしもし。」
愛海『おはよう。今日は風が気持ちいいんだ。』
夏「おはよう。…いいね。明日も晴れだからいい試合になりそう。」
愛海『どんな天気でもいい試合だ。』
と、愛海は笑うが俺は乾いた笑いしか出来なかった。
愛海『一緒に風浴びない?車は出す。』
…どうしたんだろう。
愛海はいつも俺が悩みの底に手をつこうとすると、いつもどこでも電話や遊びに誘ってくれるいい人。
でも、こんな泣きっ面で会ってもいいのかな。
愛海『俺ん家のステーキご馳走するから。食って満たそう。』
夏「…いいの?」
愛海『俺の友達は10割引きだから。』
夏「それじゃあ儲からないよ。」
愛海『友達から儲けようと思ってない。』
俺は愛海の言葉を聞いてまた涙が出てしまう。
なんでそんなに自信満々で俺のことを友達と言ってくれるんだろう。
俺もそんな風に言葉に自信を持って生きたい。
夏「…いきたい。」
愛海『高速飛ばして1時間以内に行くから。夏ん家の前で集合な。』
そう言うと愛海は電話を切らずに家を出る準備をし始める。
俺はその愛海の音を聞きながら自分の気持ちを落ち着かせて涙を拭き、歩いて後30分の自分の家に向かった。
→ なんでもないや