7:00
あっという間に朝が来てしまった。
電話を終えてまた再開していた絵を朝明けまでやってしまって少ししか寝れてないけれど、今日はとても楽しい1日を過ごせると決まっているからそのおかげで眠気も飛んでいく。
俺は手早くリュックに荷物を詰めて出かける終え、歩きでみんなと待ち合わせしている百瀬公園の有名な電話ボックス前まで行く。
その電話ボックスはだいぶ古い機種みたいでそのアンティーク感が写真映えすると人気があるところ。
俺はその電話ボックスに1番乗りして、暇を潰すためにある人に電話をかけてみることにした。
俺は1番古いアドレスを見て、数字番を回してもう繋がらない電話番号を打ち込み、回線が通っていない受話器を上げて耳に当てる。
瑠愛くんと出会ったばっかりの頃、散歩をしていた時に教えてもらった都市伝説を実行してみたけれどやっぱりダメっぽい。
まあ、都市伝説は噂話の延長みたいなものだからやってもそうならないことが当たり前だ。
俺は受話器を耳から外してフックにかけ、ボックスの壁に体を預ける。
薄茶色に透ける壁越しから駅に向かう道を見るけれど、まだみんなは来ていない。
暇を余らせている俺は頭で覚えていた数字をまた打ち込んで受話器を耳に当てる。
こんなよく分からないまじないのようなことをしなくても、あと少しで会えるのに俺って何やってるんだろう。
俺は自分の行動が謎過ぎてため息をつくと、電話ボックスの扉をノックされる。
俺は瑠愛くんが教えてくれた都市伝説を思い返し、少し淡い期待を持ってしまった。
この電話機で番号を打ち込んでから受話器を取ったあと、後ろの扉がノックされるとその電話番号の持ち主と会えるという都市伝説。
俺はそのままゆっくりと振り返り、自分の頭の中に思い描いていた人の顔を見ようと少し目線を落とす。
夏「…なんだ、悠か。」
俺は思わず自分の思いを口に出してしまい、何も聞こえなかった様子の悠に動揺する。
なんだって、なんだよ。
俺が本当に呼びたかった子は1人で東京に来るのは難しいんだからここにいないのなんか当たり前なんだ。
俺は受話器を置いて電話ボックスから出る。
夏「おはよう。」
悠「おはよ。その電話って使えるの?」
と、悠は不思議そうに聞いてきた。
夏「試したけど使えなかった。」
残念、と言いながら悠は近場にあったベンチに座って水分補給を始めた。
夏「昼から来るんだと思ってた。」
俺は悠の隣に座り、みんなが来るのを待つことにした。
悠「そのつもりだったけど起こされちゃった。」
夏「お母さん?お父さん?もちこ?」
悠「ううん。瑠愛くん。」
俺はまさかの人物で驚く。
悠「私、瑠愛くんと付き合うことにしたんだ。」
夏「え!?瑠愛くんって男の子好きって…」
悠「3日間だけ、失恋した者同士の慰め合いだよ。」
なんだそれと思いつつ、俺は気になることを聞いてみた。
夏「悠は彼氏のこと好きじゃないって言ってたじゃん。それは失恋なの?」
悠「そっちじゃないよ。」
と、悠は寒空の下に咲き始めた梅のように優しく微笑んだ。
悠「好きな人いたけど諦めたってだけ。」
声では明るく言う悠だったけれど、その顔は日本酒を呑んでいた夜に似ていて俺は胸を締め付けられる。
夏「…なんで諦めちゃうの?」
悠「だって私よりも片想いしちゃってるんだもん。そろそろ応援してあげないとなって思ったの。」
好きと思ったら自分の側にいてほしいって思うはずなのに、相手の好きを応援するなんて俺には出来ないかも。
悠「夏くんのことも応援してるよ。」
と、悠は俺の悩む表情を覗き込むように顔を傾けて言ってきた。
夏「あと少しで絵は出来るよ。」
悠「すごいね。私は相手のことを想って描いたことないから羨ましくなる。」
夏「…描いたことないの?」
悠「うん。私の好きとストレス発散で描いてるだけだからそんな風に描けるのいいなって思うよ。」
そんな風に絵を描く人もいるのかと新しい発見をしていると、沙樹と愛海と永海の3人が楽しそうにこちらに向かって歩いて来てることに気づく。
きっと駅でばったり会ったんだろうなと思って手を降っていると、その手を悠が掴んで俺ごと3人に駆け寄る。
愛海「悠、起きれたんだ。学校の時より優秀じゃん。」
悠「ちゃんと行ってるよ?」
沙樹「ぎりぎりだけどね。」
談笑を始める悠だけれど、なんでまだ俺の手の掴んだままなんだろう。
永海「夏、パン屋さんってどこにあるの?」
と、永海は俺のリュックにある調節ヒモを引っ張りパン屋の場所を聞いて来た。
夏「ここの信号渡って右にあるポストの向こう側にあるよ。」
俺は離す理由が見つからない手を握られたまま少し重くなったリュックと一緒に歩き出し、みんなとパン屋に向かった。
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