12:00
海阪先生に朝ご飯をご馳走してもらった後、俺はすぐに家に帰り莉李のための絵を進める。
もともと“天の川”をテーマに作っていたから良かった。
莉李に見せたい天の川が今の俺には作ることが出来るから早く見せられるように頑張らないと。
俺はやっと下書きを終えたキャンバスを見て一息つく。
本当は家の窓枠くらいのキャンバスに描く予定だったけど、莉李のために雑誌程度の大きさの四角いキャンバスに変更した。
締め切り日は25日だけど、この大きさなら思っているよりも早く作れるだろう。
俺は自分の思い描いている風景が完成するのが楽しみすぎて、何度も完成した下書きを見て顔を緩ませていると誰かから電話が来た。
夏「もしもし。」
『あっ…!夏さん!』
その声は俺の浴衣を作ってくれた天ちゃんだった。
夏「どうしたの?もしかして浴衣作り落ち着いた?」
俺は天ちゃんの浴衣作りが終わった頃、お礼のご飯に誘っていたからその電話だと思い聞いてみた。
天『まだです!…今ちょうど作ってたんですけど、嫌がらせがひどくて。』
なんだか天ちゃんの声が小さい。
俺は耳を澄ませて聞くことにした。
夏「嫌がらせ…?」
天『ポストに臭いティッシュ入ってたり、食べかけのお弁当が玄関前に放置されてたり…。』
夏「ひどいね…。お兄さんに言った?」
天『それが…、兄は1週間旅行に行っててまだ言ってないんです。』
夏「えっ!?天ちゃん1人で留守番してるの?」
天『留守番というより居候ですが…。』
そんなのどっちでもいいけど、そんな嫌がらせがある中よく1人で耐えたな。
夏「いつから嫌がらせあるの?」
天『ちょうど兄が旅行に行った日からです。6日経ったんですけど、今日初めてドアノブ回す音が聞こえて家から動けなくて…。』
夏「鍵かけてる?」
天『ちゃんと二重ロックと窓の鍵も締めてます。この間ストーカーのニュース見て兄が気をつけろって言ってたので。』
それ、俺のニュースだ…。
夏「俺、天ちゃんがいる家行っていい?」
天『…え、いいんですか!?』
天ちゃんは嬉しそうにお礼を言う。
1週間近く1人で怖かっただろうな。
でもなんでお兄さんに言わなかったんだろう。
夏「そういえばなんでお兄さんに言わなかったの?」
俺は荷物をカバンに詰めて外に出ても天ちゃんの家に着くまで電話を続けることにした。
天『ここ最近、ひぃ兄元気なかったので…。』
と、心配そうな声でお兄さんのことを思う天ちゃん。
夏「だから心配ごとかけたくなかったんだね。でも自分の身が危ないと思ったらすぐに誰かに頼らないと。」
俺は自分の二の前になって欲しくなかったので天ちゃんに注意した。
天『親は仕事で友達もいなくて…。』
だから俺のところに電話をくれたのか。
ピンチの時に俺の顔を思い出してくれたなんて、嬉しいな。
夏「俺を頼ってくれてありがとう。」
天『…いえ!忙しいのに申し訳ないです。』
夏「大丈夫。天ちゃんの家で少し作業出来るスペースある?」
俺は莉李の絵を進めようと思い、カバンに画材を入れてきた。
天『はい!…空けときます!』
と、天ちゃんは電話を繋げたまま部屋の片付けをし始めた。
俺は電車に乗り込み、1駅で着く天ちゃんが教えてくれた最寄駅に行く。
夏「ありがとう。テーブル1つあれば大丈夫。」
天『テーブル…、兄が使ってる机の蓋がパカっと開く可動式デスクでもいいですか?』
夏「えっ!?そんな良いものあるの?」
天『いいものなのか分からないですけど、兄が小学校の時にお年玉で買ってた机です。』
絵を描く時に便利な角度がつく机をお兄さんが持ってるなんて…。
お兄さんは絵をよく描く人なんだろうか…。
夏「その机があるだけで十分!…あと5分で着くよ。」
俺は教えてもらった住所をマップで確認しながら電車を降り、走って天ちゃんがいる家に向かった。
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