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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
8/6
110/188

7:00

アラームが鳴り、目を覚まして慣れない台所に行って水分を取る。


昨日は瑠愛くんと悠と3人でたくさん飲んだ後にゲームをしちゃったから、寝不足と二日酔いのダブルパンチが俺の意識を飛ばそうとしてくる。


けど今日は、永海(なみ)とお兄さんの(まさる)さんが俺の引越し祝いをしてくれるから絶対に遅刻は出来ない。


後は少し早いけど、永海の誕生日プレゼントを渡したい。


俺はちゃんとカバンにプレゼントを入れたかを確認して、まずは一安心する。


今日は永海の家に行く前にダンボールに入った荷物の整理をやり終えたいと思っている。


元々そんなに細々こだわって置くタイプではないから、服はクローゼット、画材は壁に埋め込まれているタイプの棚に片付ければひと段落。


ベッドは搬入の時に組み立ててもらったから昨日は助かった。


俺はよし!と一声自分に鼓舞を入れて、時間に間に合うように片付けをしていると懐かしいものを見つけた。


いつかに見た莉李から貰った腕時計が入ってる箱だ。


俺はこの間まで暗い押入れの奥に入れていたことに罪悪感を感じて、この家では1番目に入る作業部屋の出窓に飾っておくことにした。


あの腕時計は莉李への絵が完成してしっかり見せることが出来たとき、時計屋に見てもらおう。


俺はそう決めてその絵の創作を走り書きしながら物の整理をしたけれど、大半がそのアイデアをまとめる時間になってしまって家を出るギリギリまで整理に手間取ってしまった。


俺は電車の時間を確認して走って駅に行き、乗りたかった電車に飛び乗り永海の家がある最寄り駅まで外の風景を眺めながら向かう。


俺が見るその風景には、夏休み中でも汗を流し部活動をする学生やこの照りつける日差しでも愛犬と散歩をしたいのかペットカートを引いて夏空を気持ちよさそうに見上げるおばあさん、それから誰にも見られてないと思っているのかグリコをしながら負けた側が変顔をして歩み進めるカップルがいてとても見ていて楽しい。


こうやって何も考えず、ただ人が楽しんでいるのを見るだけで自分も気持ちが上がるのはなんでなんだろうな。


俺は少し口元を緩ませながら風景を楽しんでいると待ち望んでいたあの風景が飛び込んでくる。


今日は朝日が真上近くから照りつけられているからか、前に見た煌めきより落ち着いた光を放つその川で楽しそうに水浴びをして遊ぶ子どもたちとその様子を見守る両親の温かい笑顔が俺にまで届く。


ああいう子たちはきっと自分を汚さずとも、親が丁寧に生き方を教えてくれるんだろうなと思っていると目的地の駅に着いた。


俺は永海と待ち合わせしている改札前のベンチに座って定期的に来る人の流れを見て待つ。


もうお昼近い時間だからか会社に行くような格好をしている人は少なく、遊びに出かけそうな服装の人をよく見かける。


俺もこの中に混じっていたら楽しげな人に見えるんだろうか。

あの賑やかな男子高校生に混ざったら汚れなんてない人に見えるんだろうか。


俺はまた自分が過ちを侵して自分自身を汚したことを思い出し、落ち込む。


悠と約束したことは守っているけれど、誰かに容赦なく批判を受けてしまえばその約束を守りきれるか分からない。


「夏!お待たせー!」


綺麗にリボン結びされた真っ白なスニーカーを履き、今日も髪の毛はあの日の煌めく川のようにカールされている永海が駆け足でやってきた。


俺は手を振りながらベンチを立って永海に歩み寄る。


永海「遠いのにわざわざありがとうね。」


夏「ううん。こちらこそ、引越し祝いありがとう。」


永海「まだ始まってないからお礼はあと!行こー!」


永海は走ってきた息も整わせず、自分の来た道を帰り始める。


ここにいる俺たちは周りから見たら楽しげな友達に見えるんだろうか。


俺は心の片隅で1人考えながら永海の家に向かった。





→ 過去に囚われている


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