12:00
うっすらと目を開けると、懐かしい白い天井が見えてふと目から涙が溢れる。
「夏…?」
俺は手が握られている側から聞こえる声に目を向けると、泣き腫れた目をしている沙樹がいた。
沙樹「…夏!よかった…。死んだかと思った…。」
沙樹は大粒の涙を流しながら俺に抱きつく。
夏「…ごめん。心配かけて。」
沙樹「僕こそごめん!全く分からないけど、たくさん嫌な思いしたんだよね?本当にごめん!」
沙樹が叫びながら謝っていると扉が開き、看護師に怒られる。
俺たちは謝り、軽く身体検査をしてもらって病院内にある広場に出て会計を待つ。
夏「…付き添ってくれてありがとう。」
沙樹「ううん。僕こそありがとうだよ。」
沙樹はまた涙を流し、俺に抱きついて謝罪とお礼を繰り返す。
俺は沙樹を泣かせてしまったことを反省して、ナナさんにぶちまけられた真実を沙樹に話すことにした。
夏「…俺、体売ってるんだ。それで学費も生活費も稼いできた。」
沙樹「…え?」
沙樹は少し戸惑いながら俺の顔をまっすぐ見る。
夏「この間、あるお客さんに監禁されて殺されかけて店を辞めたんだけど、その店の社長は簡単に俺を手放したくなかったらしいんだ。それで、昨日分の俺の1日を買ってもらって全て言われたことやって足りない分稼いだんだ。」
沙樹に嫌われる。
初めて出来た友達は俺の恋人になってくれたけど、どこかにいなくなってしまった。
その次に友達になってくれた沙樹は自分の汚れに嫌悪感を抱いて泣き崩れてしまう人だから俺の元から離れるだろう。
そう思うと、俺は今にでも泣き出しそうになったが沙樹のために涙を堪える。
夏「でも、その社長が俺と交わるためのシナリオを作って、それを俺は綺麗に辿っちゃったらしいんだ。
…沙樹、巻き込んでごめんね。」
俺は沙樹の顔を見たら涙が溢れてしまいそうで、静かに聞く沙樹を見れずに謝る。
夏「…汚い俺ともう関わらなくていいよ。 今までたくさん遊んでくれてありがとう。…じゃあね。」
俺は抱きついたままの沙樹の手をそっとほどき、立ち上がろうとすると体が地面に戻される。
沙樹「どこ行くんだよ!」
と、沙樹は全身で俺に抱きつき離れてくれない。
夏「…会計して、家かな。」
沙樹「1人で行くなよ…。」
沙樹は俺の肩に顔を埋めて涙を押さえつける。
その沙樹の温かい涙が俺のシャツを通り越して肌に触れると同時に俺は我慢していた涙が溢れ出してしまう。
夏「俺のこと、き…」
沙樹「嫌いになるわけないだろ!?…好き好き!大好き!最高に愛してる!」
これでもかという大声で沙樹が愛を叫び、俺は驚く。
沙樹「だからこれからもずっと一緒!一生独りになれないって思っとけ!」
と、沙樹は叫ぶとわんわん泣き出す。
俺もその言葉で体の力が抜け、沙樹の肩を抱き寄せて涙を流す。
しばらく2人で涙を流していると、心配して声かけをしてくれた看護師に現実に戻される。
夏「…俺たちだいぶやばい奴?」
沙樹「それでもいいじゃん。これが僕の大切な人の守り方。」
沙樹は鼻水を垂らしながら俺に微笑む。
夏「…俺、大切?」
沙樹「うん。すぅっっっごい大切な友達。」
沙樹は俺にいつものおはようをしてくれた最高の笑顔でそう言ってくれた。
夏「俺も、大切な友達。」
初めて友達と思えた人に友達という言葉を使った。
それが俺はとても嬉しくてまた涙が溢れる。
そんな俺をまた沙樹は抱きしめて“好き”とたくさん叫ぶ。
俺もその腕の中でたくさん同じ言葉を返して、沙樹がなくならないようにする。
俺たちが泣き晴れる頃、周りにいた人たちはだいぶ遠いところで広場を楽しんでいたがそれを気にすることもバカらしく感じるほど、沙樹は俺の側にいるよと何度も約束する。
その後俺たちは一緒に会計を済ませて、一緒に腹ごしらえに向かった。
→ 一人じゃない