第二の謎・解&第三の謎
『問K:
大横36 →け
東名112→ちゅ
東博35 →こ
東金6 →[1]
東博11 →[2]
日岩80 →[3]
[1][2][3] = ??
ヒント:クローゼットのタブレットでウェブ検索ができるよ☆』
「語尾に☆つけるのやめてくださいって言ったじゃないですか」
『事前に用意してたやつだから無理だよ! ネタバレすると今後の問題にも全部☆ついてるよ!』
「つまり毎回指摘しないといけないんですね」
『スルーしてくれって意味で言ったんだよお!』
さり気なく菜々に仕返しをしつつ、皐月は改めて問題と向き合う。
「ヒントでウェブ検索ができるって書くってことは、調べないとわからない問題ってことなのね。……ところで、問Bの次が問Kってどういうことなのかしら。次はもう一回Bなのかしら」
『BKB! ヒィーーーアッ!』
「先輩ちょっと黙っててください」
『振ったのはさっちんでしょ!?』
と言いつつ、皐月に冷たくされて菜々は少し興奮した。
「まあ、この件は置いておきましょう。先輩のことだから深い意味なんてないのでしょうし」
『だから聞こえてんぞ後輩』
菜々のツッコミは再度無視し、皐月は顎に手を当てて考察を開始する。
「漢字二文字と数字の組み合わせが平仮名になる、って感じかしら。熟語ってわけではなさそうだけど……東名は聞いたことあるわね。高速道路だったかしら。というか東多すぎ」
それも何かのヒントになるのかしら、と思いつつ、皐月はクローゼットのタブレットに近付く。中腰にならないと操作できない微妙な位置のタブレットに苛立ちつつ、ひとまず聞き覚えのあった東名を検索してみる。
「やっぱり高速道路の愛称よね。東京と名古屋を結んでるから東名、と。同じように他のも地名の頭文字だったりするのかしら。そうすると大横は……大宮と横浜とか? 博は博多よね。金は……金沢があるわね。日岩はよくわからないけれど、とりあえずは成り立ちそうな感じね。この方向で考えてみましょうか」
『…………』
一方の菜々は、自分の作った謎を真剣に解いてくれている皐月を邪魔したくない気持ちと、皐月が謎解きに集中しているため暇になり彼女にちょっかいを出したい気持ちの板挟みにあっていた。具体的には3:16くらいでちょっかいを出したい気持ちが勝っていた。なのでちょっかいを出すことにした。
『ねえさっちん。さっちんって何カップ?』
「はっ倒しますよ?」
『私的にはご褒美だからいくらでもはっ倒してくれていいよ。で、何カップ?』
「引かないの!?」
こんな状況ということもあって皐月は失念していた。菜々がただのド変態であることを。
「だ、大体、そんなこと聞いてどうするんですか」
『私が興奮する』
「清々しいほどのド変態ですね!」
『で、何カップ? A? ギリB?』
「言うわけないでしょう!? あと見積もりが低い! 馬鹿にしてるんですか!?」
『いや、前に見たときはそれくらいだったと思って』
「いつ!? 私先輩とプールとかお風呂とか入ったことないでしょう!?」
『あ、やべ。失言した』
「先輩? え、ちょっと、先輩!?」
『ごめんごめん。引き続き謎解き頑張ってね!』
「この流れで!? いや、今何を誤魔化したんですか!? ちょっ、先輩!?」
皐月は必死に呼びかけたが、スピーカーの向こうから返事が返ってくることはなかった。脱出した暁には一体何を誤魔化したのか問い詰めないといけないわね、と脳に刻み込みつつ、仕方がないので謎解きを再開する。ちなみにこの時スピーカーの向こうでは「やべーよやらかしたよ私がさっちんの着替え覗いたり盗撮してたのがバレちゃうよ」と菜々が一人であわあわした後、しばらくだんまりを決め込む決意をしていた。この人が折檻を食らうまで残り2時間。
「ええと、なんだったかしら……先輩が茶々入れてきたせいで何考えてたか忘れちゃったじゃない。……ああそうそう、この漢字が地名の頭文字じゃないか、って話よね。仮にそう考えるとして、問題は右の数字とか平仮名とどう結びつくのか、って話だけど……」
そこで皐月の思考は行き詰ってしまう。地名と数字に関係するものというと、パッと思いつくのは距離だが、それでは東京・名古屋間よりも東京・博多間の方が近いことになってしまうし、二つある数字の違う東博が説明できない。
「やっぱり、謎を解く鍵になるのは二つある東博よね。たまたま同じ頭文字になっただけで別の地名を指してる可能性もあるけれど……博で始まる他の地名なんて私がパッと思いつかないんだから先輩が思いつくはずないし、東○○みたいな地名は洗い出したらキリがない。なら、どちらも東京・博多を指してるとみていいはず」
『ねえさっちん、今しれっと私のこと馬鹿にしなかった?』
「はい」
『まさかの素直な肯定⁉︎』
1分も黙っていられずに再び口を挟んできた菜々を軽くあしらいつつ、皐月は謎解きに集中する。
「同じ地名で異なる数字というと……移動手段の違いによる所要時間の違いとかかしら。例えば新幹線と飛行機とか。でもそれなら飛行機は福岡空港になるはずだから博にはならないし、そもそも東京・博多間の移動で35時間は流石にかからないはず。新幹線を封じればそのくらいかかるかもだけど、同じように考えた時に東京・名古屋間の移動で112時間はどうやったって説明できない……」
自分の推理を口に出しながら考えるが、いまいちしっくり来ない。菜々にヒントを要求するのもアリかと一瞬考えたが、見返りに何を要求されるか分かったもんじゃないのでその手段は早々に捨て、皐月はもう少しこのまま考えてみることにする。
「所要時間ではないとすると、他には何があり得るかしら。二つの地名の間にある何かの数とか? 例えば東名で言えば高速道路だから、サービスエリアとかインターチェンジの数だったりとか。でも、それなら距離に比例して数字が増えないとおかしいわよね。東名よりも東博の数字の方が少ないのが説明できない。……なら、列車の駅数とかはどうかしら。これなら在来線と新幹線の駅数で比較している可能性も考えられるから、距離と駅数が比例している必要はないわよね。それに、同じ地名でも違う路線で計算すれば当然駅数も違ってくる……これはあるんじゃないかしら」
一筋の希望を見出した皐月は、自分の推測が正しいかどうかを確かめるためにタブレットを操作する。まずは一番わかりやすいであろう新幹線から。これが駅数が一番少ないはずだから11駅ならビンゴね、と思いつつ検索したところ、東京・博多間の駅数は35であった。
「あれ、思ってたよりあるわね。……でも、そうよね。冷静に考えて東京・博多間が11駅なわけなかったわ。それじゃあ新幹線が通ってるのに駅がない都道府県が二つは増えちゃうわ」
『あ、今さっちん茨城のことを馬鹿にしたね!?』
「え、急になんですか!?」
突然スピーカーの向こうで叫んだ菜々に、タブレット操作中で中腰だった皐月はびっくりして軽く尻餅をついた。可愛い。
『あ、さっちんのしりもち可愛い! ……じゃなくて! 今さっちんは、現在新幹線が通っている都道府県の中で唯一駅がない茨城県のことを馬鹿にしたね!?』
「そんなことは一言も言ってないですけど!?」
『いや、言い方が「新幹線通ってるのに駅がないなんてwww茨城と同じじゃんwww」っていうニュアンスだった! 茨城をヴァカにしてた!』
「だからしてないですって!」
確かに皐月の中には新幹線が通っているのに駅がない唯一の県が茨城県であるという知識はあったが、東京・博多間が11駅ではそういう県が増えて茨城が唯一ではなくなってしまうから違うわよね、という意図であの発言だったわけで、そこに茨城を馬鹿にする意図は全くなかった。完全に菜々の被害妄想である。
『まあ、今回は可愛いしりもち映像に免じて許してあげるけど、次はないからね! 次やったらさっちんの靴に納豆とか仕込むよ!』
「最低な嫌がらせですね!」
この人埼玉出身のはずなのになんでこんなに茨城愛が深いのかしら、という疑問は残ったが、靴に納豆は御免被りたいので菜々の前で茨城の話は二度としないようにしようと誓った皐月であった。
「……ええと、なにしてたんだったかしら。確か……そう、東京博多間の新幹線の駅数が11駅かと思ったら35駅あったって話よね。これだと私の仮説が…………あれ? 35ってどこかで……そうよ、11じゃないもう一つの東博よ。偶然かもしれないけど、意味がある可能性だって十分あるわ」
仮説が崩れたと思った皐月だが、この事実に気付いたことで思考が加速する。
「仮にこの東博35が新幹線の駅数を表しているとしましょう。そうするとそれより少ない東博11は何ってことだけど……新幹線って、全部の列車が全部の駅に停まるわけじゃないわよね。各駅停車の「こだま」なら全駅停車だけど、「のぞみ」の場合は新横浜から一気に名古屋まで行ったりして通過する駅も多い。この数字が単なる駅数ではなくて、列車の停車駅数を表しているのだと考えれば……うん、「のぞみ」が東京博多間で停車する駅は16駅、中でもすべての「のぞみ」が停車するとなると11駅。東博11と一致するわね」
ここにきてようやく問題文の法則が見えてくる。後は矢印の右側の平仮名との関連だが、これはすぐに目星がついた。
「で、後は右側の平仮名との関係だけど……東博35が「こ」ってことは、つまり「こだま」の頭文字よね。ってことは、左側はその路線が結ぶ駅名の頭文字と停車駅数の組み合わせ、右側はその路線名の頭文字、って感じかしら」
法則がわかってしまえば、あとは当てはめていくだけである。
「一応、上の方から確認しながらいきましょうか。大横36は……大宮・横浜間で36駅かしら。そのあたりを走ってるのは京浜東北線ね。でも、横浜じゃなくて大船の方まで行ってたような気がするけど……へえ、横浜・大船間は正式には根岸線という扱いなのね。だから、京浜東北線という路線の停車駅は大宮から横浜の36駅、ってことなんだわ。でもって右側の平仮名は「け」だから合ってるわね」
ご丁寧にウィ○ペディアも閲覧しながら、皐月は謎解きを進めていく。
「二つ目は東名112……東京と名古屋を112駅で結ぶ「ちゅ」から始まる路線? そんな長い路線あったかしら……でも、東京から出る「ちゅ」って中央線くらいよね。調べてみようかしら……出てきたのは中央本線ね。正式にはそう言うのかしら……あ、でも終点が名古屋になってるし、112駅あるからこれで良さそうね。で、三つ目の東博35は新幹線の「こだま」の「こ」と。法則は間違ってなさそうでよかったわ。さて、大事なのはここからね。まずは東金6。東京・金沢間を6駅だから、どう考えても北陸新幹線ね。愛称は……かがやき。これなら停車駅は6駅だから、[1]は「か」ね。続けて東博11はのぞみだから、[2]は「の」で問題なし。厄介なのは日岩80ね。日と岩がそれぞれどこを指しているのか、いまいち見当がつかないわ。今までの傾向と先輩の知識量を考慮すると、多分東京周辺の路線よね。日か岩で始まる東京周辺の駅……日本橋、日比谷、日暮里あたりかしら。岩は思いつかないわね。でも、どれも路線の始発駅ではないわよね……うーん」
今までの五つに比べて最後の[3]の難易度が高く、皐月はベッドに腰かけて首を捻った。菜々のことだからそんなにマイナーな路線ではないだろうと思いつつも、ヒントが少なくとっかかりが掴めない。こういう時は無理に考え込まず、別角度から攻めるに限る。
「このまま考えても埒が明かないし、[1]と[2]はもうわかってるからそこから推測してみましょう。答えは三文字で、[1]と[2]を当てはめると「かの[3]」になるわよね。ということは……可能、彼女、カノンあたりかしら。「かの」に続く言葉なんてそれくらいよね。そこから考えると……カノンはないわね。「ん」で始まる路線なんて聞いたことないし。そうすると「う」か「じょ」……宇都宮線とか、常磐線あたりかしら。一応調べてみましょう」
よっ、と言いながらベッドから立ち上がると、皐月は再びクローゼットの前で中腰になる。先に調べたのは宇都宮線。ウィキペ○ィアによると、東京から黒磯までの34駅らしいので、条件には合いそうになかった。もう一つの常磐線の方は、日暮里から岩沼までの80駅となっていた。どうやらこれが正解のようだ。
「常磐線の始点は日暮里になるの? 上野始発だと思ってたんだけど……へえ、上野、日暮里間は東北本線って扱いになるのね。よくわからないわ……。でも、日岩80は常磐線で確定ね。ってことは、謎解きの答えは彼女ね」
よくわからない鉄道事情に首を捻りつつ、正解はわかったので木箱の入力装置に「かのじょ」と入力する。すると、木箱からカチッという音が鳴った。どうやら正解だったらしい。
『第二の謎突破おめでと~! 常磐線のところは我ながら難しくできたと思ったのに、まさかの突破のされ方で菜々さんはびっくりしてるよ!』
「確かに、普通に考えてたら常磐線にはなかなかたどり着けなかったかもしれませんね。でも、だからこそ[1]と[2]から推測できるようになってるのはいい難易度だと思いますよ」
皐月の想定外の突破法にびっくりかつ残念がっていた菜々だったが、皐月から返ってきた褒め言葉にあっさり機嫌がよくなる。
『えへへ、そうかな~。やっぱ私スーパーミラクルハイブリッド天才かな?』
「いえ、全然まったくこれっぽっちもそこまで言ってないですけど」
『でもそっか、そういう考え方もできるんだね。誰にも解けない理不尽な問題じゃ楽しくないもんね。ちょっと勉強になったよ』
「私の言葉は全スルーですかそうですか」
まあわかってたけれど、と心の中で呟きつつ、皐月は鍵の開いた木箱の蓋を開ける。中には小さな鍵が入っていた。鍵についているメロンパンのストラップには見覚えがあり、それは紛れもなく皐月が勉強机の引き出しの鍵につけていたものだ。つまりこの鍵は皐月の勉強机の引き出しの鍵ということになる。わかりにくい場所に保管していたはずなのに先輩はどうやって見つけたのかしら、と脱出後問い詰めるリストに項目を追加しつつ、それを使って机の引き出しの鍵を解錠する。中には第二の謎の時と同じような小箱と第三の謎が書かれた紙が入っていた。
『問H:
a circuit → 赤色
反語 - 紐育 → 藍色
over っ eating → 褐色
英雄 → ??
ヒント:ほにゃく☆』