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プロローグ&第一の謎

 その日、六連(むつれ)皐月(さつき)は強烈な悪寒と共に目を覚ました。

「先輩何を!」

 謎の叫びと共にガバッと飛び起きた皐月は、悪寒に基づいて身の回りに何か変化がないかどうかを確認する。皐月が目を覚ましたのは自宅のベッドの上だ。ピンクを基調とした可愛らしい毛布は嫌な汗でもかいたのか若干湿っている。顔を左手に向けるとレポートを書く時などに使う勉強机がある。昨晩眠る前には机上には何もなかったと記憶しているが、今は大量のう○い棒が置かれている。その隣には皐月が愛読している小説などを収納した本棚があったはずだが、どういうわけか冷蔵庫になっている。その少し向こうにはあまり使う機会のない化粧台があったはずだが、どういうわけか麻雀卓になっている。しかも全自動の高いやつだ。その隣は部屋に備え付けられたクローゼットだが、取っ手が綺麗に取り外され、代わりにタブレットが張り付けられている。出入り口の扉のドアノブは外されてはいなかったが、代わりにちくわが差さっている。あとクローゼットと似たようなタブレットも張り付けられている。窓にはベニヤ板が無駄に三重ぐらい張り付けられていて陽の光は一切入らず、天井の照明だけが部屋を照らしている。そうやって照明を見ていたら、部屋の天井の四隅に設置された監視カメラとスピーカーも発見した。

「って、私の部屋が魔改造されてる!?」

 叫ばずにはいられなかった。悪寒の正体はこれだと確信した皐月は、おそらく監視カメラ越しにこちらの様子を見ているであろう魔改造の犯人に向けて怒りを露わにする。

「ちょっと先輩!? どうせ先輩なんでしょ!? この状況を説明してくださいよ!」

 監視カメラの一つを見据えながら皐月が怒鳴ると、スピーカーから返事が返ってくる。

『あれ、なんで私だってわかったの?』

「こんな頭のいかれたことをする知り合いは先輩以外にいないんですよ!」

『そっか、愛ゆえにか。私にベタ惚れだなー、さっちんは』

「そんなこと一言も言ってないでしょう!?」

 この話の噛み合わない頭のいかれた先輩こそ、事態の仕掛人・八籤(はちくじ)菜々(なな)である。大学内でも「普通にやべえやつ」として有名だ。

「いいからこの状況を説明してください!」

『ちょっと部屋の魔改造に興味があって』

「なんで私の部屋でやるんですか! 自分の部屋でやってくださいよ!」

『いやぁ、賃貸だからそれはちょっと』

「無駄にそういう常識は装備してるんですね!」

 寝起きから叫ばされ続けている皐月の喉は既に枯れそうである。激しく肩を上下させつつ、皐月は当然の疑問を投げかける。

「……これ、もちろん元に戻してくれるんですよね?」

『さあ?』

「は?」

『あ、すいませんちゃんと戻します、私が満足したら戻します』

 皐月のモニター越しの圧に、さすがの菜々も平謝りである。皐月というストッパーがいなかったら菜々は「普通にやべえやつ」どころでは済まなかったかもしれない。

「なんですか、満足したらって。いつ満足するんですかそれは」

『さっちんがその部屋から脱出できたら、かな』

「脱出……?」

 菜々に言われて初めて、皐月は自分の部屋(?)の出入り口に近付く。取っ手にちくわが差さっているので触れるのはやや躊躇われたが、確認しないことには仕方ないので親指と人差し指だけでそっと触れつつ扉をあけようとする。案の定、鍵がかかったように開きはしなかった。元々は鍵付きの扉ではなかったにもかかわらず。

「人が寝てる間にどれだけの魔改造を……」

 ぼやきつつ、その魔改造に気づかずに爆睡していた自分も情けないな、と皐月は溜息を吐いた。

「それで? 脱出するにはどうしたらいいんですか?」

 経験上この手の場合は適当に付き合ってさっさと済ませた方がいいことを嫌と言うほど熟知している皐月は、無駄な抵抗はせずに監視カメラ越しに問いかける。

『私が考えてきた謎解きに挑戦してもらうよ! いわゆる脱出ゲームだね!』

「謎解き? 先輩が?」

『人をバカみたいに言うのはやめたまえよさっちん』

「事実じゃないですか」

『さっちんのいけず! さっちんなんてそこから脱出できずにおしょんでも漏らせばいいんだ!』

「ちょっ、なんて恐ろしいことを!」

 つい先日19になったばかりの女子大生にとってそれはあまりに恐ろしい脅し文句だった。菜々を馬鹿にするのは後回しにして、皐月は話の先を促すことにする。

「と、とにかく。先輩の作った謎を解いていけば私はこの部屋から脱出できるんですね?」

『うん! ちなみに今回のテーマは「ひ」だよ!』

「……あ、はい、そうですか」

 付け加えられた一言の意味はいまいちわからなかったが、謎解きのテーマが「ひ」なのかしら、と皐月は曖昧に理解したことにしておく。それが菜々と上手く付き合っていくためのコツでもある。彼女の言動の意味をいちいち気にしていては精神がもたない。

『じゃあ、まずは一つ目からね! 冷蔵庫に問題が書かれた紙が入ってるから、開けてみて!』

「わかりました」

 ちくわを触った手をティッシュで拭きつつ、菜々が設置した小型冷蔵庫の扉を開ける。中には大量のリンゴがびっしりと敷き詰められていた。

「こわっ! なんですかこれ!」

『合ステイツオブアメリカ産のリンゴだよ』

「産地とかどうでもいいんですよ! しかもなんですか合ステイツオブアメリカって! どこだけ日本語にしてるんですか!」

『つまり合SAだね!』

「字面悪っ!」

『さっちん今日は珍しくよく叫ぶね』

「誰のせいだと思ってるんですか!」

 普段はクールで落ち着いたツッコミで菜々を制御する皐月だが、今は状況が状況なので叫び倒すのも仕方ないだろう。

『でもごめんね、さっちんの膀胱に配慮して飲み物は用意してないんだ』

「はぁ。そんなところにだけ配慮しないでください」

 一つ大きく息を吐いていつもの落ち着きを取り戻すと、皐月は改めてリンゴだらけの冷蔵庫をのぞき込む。すると、リンゴの上に一枚の紙が置かれているのに気が付いた。恐らくこれが菜々の言っていた一つ目の謎が書かれた紙だろう。取り出してみると、やはりそこには謎が書かれていた。

『問B:したの文字列から「え」を全て取り除いて

残る言葉をうえから読むと?


えついーゑえ

かげるにかえ

さいえいえい

いえがーらぶ

ごいぴすぴお

のーといくち

ばひえーちぼ

んめまえやひ

さぐゑわーろ

んみゑんりい


ヒント:300m先、右折専用レーンです

答えはクローゼットに引っ付けたタブレットに入力してね☆』

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