魔物住まう森2
森林浴、歩きやすく整った道……そんなものは一切ありません。
道自体がなく、そこら中からぼこっと大樹の根がせり出しているせいでとても歩きにくいです。
飛び出している枝や雑草をかき分けながら、人を拒むような森をさらに奥へと向かいました
まだ昼間なのに、大樹が空を隠しているせいで、異界に来てしまったかのように感じますね……。
ただただ薄暗くて、じめっとしていて、気持ちのいい場所ではありません。
ここに家を構えるのは難しいかもしれませんね……。
がっかりしながらも、問題解決のため、私はさらに一歩を踏み出します。
作物を食べてしまう魔物がいるらしいけれど、どうしてそうなったのか、調べる必要がありそうです。
「キュイ、キュイ」
鮮やかなスカイブルーの小鳥が、頭上をぱたぱたと飛び、そばの枝にとまりました。
あの子なら、魔物の食料問題について何か知っているかもしれません。
私は小鳥に向けて【念話】の魔法を使いました。
『こんにちは~』
『? 今声が頭の中に……』
チチチ、と鳴くと同時に向こうの声が聞こえました。
魔法は成功したようですね。
くりくり、と首を左右にかしげながら小鳥は周囲を見回しています。
『こっちですよ、こっち』
おーい、と小鳥に手を振ると、目が合いました。
『ニンゲンだ!?』
『そうですよー。シルヴィと申しますー』
『なぜボクはニンゲンと話せているんだろう……?』
『そういう魔法を使ってますから』
『へえ。ニンゲンってすごいや!』
ぱたぱた、と飛んできて、小鳥は私の肩にとまりました。
『危ないよ。ニンゲンがこの森に来ては』
『承知の上です』
『変なニンゲン』
キチチチ、と鳴き声を上げました。どうやらこれが笑っているようです。
小鳥は、自分のことをハリーと名乗りました。
『魔物たちが、最近町の畑を荒らすそうなんです。何か心当たりはありますか?』
『心当たりっていえば、ホーンラビットの数が増えたことかな』
『兎の魔物ですか』
『そ』
ハリーの話によると、天敵の狼が最近いなくなり、この森で数が増えてしまったのが原因だそうです。
『数が増えて、食べ物がなくなっちゃったんだ。ボクらは今まで通りだけど、ホーンラビットと似たような物を食べている魔物や動物たちは、食べ物不足で困っていると思うよ』
それで畑を……。
ハリーが比較的歩きやすい獣道を教えてくれたおかげで、どんどん森を歩くことができ、開けた場所に小さな湖がありました。
さっきまでの陰鬱とした森とは大違いで、抜けた空は広く、陽光が湖面をキラキラと輝かせています。
湖の水を飲んでいた鹿が私に気づくと、軽やかに茂みの向こうへ行ってしまいました。
「鹿が、心なしかげっそりしていたような」
やっぱり食べ物がないからでしょうか。
『あそこも、ここも、ほら。みんながいつも食べている草の群生地なんだけど、何もないでしょ?』
ハリーは翼で私の足下を示します。
草は短く刈り込まれているかのようで、食べやすそうな場所のエサはほとんどなくなっていました。
『ないなら作ればいいんです』
キチチチチ、とハリーが笑います。
『作れたら苦労はしないよ』
厳密には、作るっていうわけではないのですが――。
しゃがんだ私は、一定の範囲を目がけて生産系魔法の一種【グロウアップ】の魔法を使いました。
光の粒子が煌めき、それがなくなると目に見えるスピードで草花が生長をしていきました。
よし。成功です。
『うわっ! は、生えていく……! す、すごいっ』
ハリーが驚いてくれるのが嬉しくて、私は思わず笑みがこぼれました。
『これでしばらくは大丈夫でしょう』
『さてはシルヴィ、君ってば魔女なんじゃ……?』
……魔女ですか。
『いいですね、それ』
聖女だなんて祭り上げられるよりも、そっちのほうが好みです。




