魔女と魔犬
和んでいると、のっしのっしと大きな足音が聞こえてきました。
足音の正体は、森から大木を抱えてやってきたゴーレムたちでした。
「もうそんなに! あ、そこ、そこらへんに置いておいてくださいー」
ゆっくりとうなずくゴーレムたちが、大木をどしんどしん、と置いていき、材料を探すため再び森へ入っていきます。
「あれを切り出して乾燥させれば、建材として十分使えそうです」
キチチ、と今度はハリーの鳴き声が聞こえてきました。
『魔女様ー。ボクの友達を連れて来たよ!』
耳をピクピクと動かしたホーンラビットたちは、ぴゅーんと逃げだし、一瞬にして姿をくらましてしまいました。
「あぁーっ、私の癒しがっ!」
すると、次は茂みからガサッと大きな犬が姿を現しました。
よく焼けたパンのような小麦色の毛で、足先の毛色は白いです。くりん、と丸まった尻尾がとてもキュートです。
ピンと耳を立てて真っ黒な目で私をじいっと見つめています。
「ワンちゃん? 狼?」
その頭の上にハリーが止まりました。
『こいつはロッキー。魔犬の一種さ。こいつがいればホーンラビットたちも数は増えないと思うよ!』
ロッキーと呼ばれた茶色の魔犬は、わふ、と口の中で小さく吠えた。心なしか顔が誇らしげです。
「た、食べる気ですか。あの子たちを」
わぅ? と首をかしげられた。
これはこれで可愛いですね……。
すんすん、と地面に鼻を寄せたロッキーが、ふと顔を上げます。見つめるのは、さっきホーンラビットたちが逃げ去った方角でした。
「わふっ」
尻尾をブンブンと振ってご機嫌そうにロッキーが駆けだしました。
「わぁぁぁあ!? 食べるんですね!? ダメですよ! ステイ、ステぇ――――イ!」
慌てて両手を広げた私は、ロッキーの進行方向を遮ります。
キキキキ、と急ブレーキをかけてロッキーが止まると、私の肩に乗ったハリーが尋ねました。
『どうしてダメなの? ホーンラビットが増えたからニンゲンの畑に被害が出てるんでしょ?』
『あの子たちの食べ物は、私がなんとかします』
ホーンラビットがこそっと茂みから顔を覗かせ、こちらの様子を窺っています。あの白い子で、リーダーっぽいハクです。……今名前を勝手につけましたすみません。
ハクは、エサを食べたいけど、怖い魔犬がいるからそっちに行けないなぁ……って言いたそうな顔をしていました。
『ハリーは、ワンコとも仲良しなんですね』
『ロッキーは、最近森で見かけるようになったんだ。ただの犬だと思ったら魔犬だってことがわかって、貴族に捨てられちゃったんだ』
「許せませんね、貴族」
なぜかヴィンセント王子の顔がふわっと思い浮かんだので、慌てて手で消しました。
ふりふり、とゆっくり尻尾を振っているロッキーは、大人しくお座りをしてこちらを見上げています。
たしかに、言われてみれば、躾けがよくされているような気配がありますね。
『ここなら食べ物がいっぱいあるから連れて来たんだ』
「お手」
手を差し出すと、両前足を手にのせてくれました。目がキラキラと輝いています。
「可愛い……。これはこれで全然アリです」
なでなで、と頭や背中を撫でると思わず顔がほころんでしまいます。
次の指示を待つように、ロッキーはまたきちんと座りました。
ハリーを介して意思疎通をするのも大変なので、ロッキーにも【念話】の魔法を使うことにしました。
『さすが、魔女といったところか。このオレを手懐けるとは』
クールな表情でロッキーは言いますが、尻尾が……千切れるんじゃないかってくらい振られています! ちょっとした風が起きてますよ、お尻のほうで!
……構ってもらえるのが嬉しかったんでしょうか?
興奮したようにピスピス、と鼻を鳴らしながら、ロッキーはごろんと寝転がってお腹を見せた。
もはや魔女は関係ありませんね。好感度は最初からマックスです!




