004 まさに砂上の楼閣だな
他のグループも集めて、全員で更衣室にやってきた。
「ふざけんなよ、何がどうなってんだよォ!」
大我が自身のロッカーを右ストレートで壊す。
「目が覚めたら謎の島にいて、帰る方法は分からねぇ。それで今度は全員の名前が書かれた専用のロッカーだぁ? 俺はこんな学校もこんな島のことも知らねぇんだよ! クソが!」
大我の猛攻によって、ロッカーの扉が外れる。
中にはバックパックが入っていた。
それは大我のロッカーに限った話ではない。
俺たちのロッカーにもバックパックが入っている。
バックパックの中には、着替えの制服と下着。
当然のようにサイズがぴったりである。
「と、とりあえず、村に戻って夕食にしよう」
吉井が提案する。
廃村ではなく、村と呼ぶようになっていた。
「そうだな。俺はもう腹が減って死にそうだぜ」
大我が自分のバックパックを持って出ていく。
俺たちもそれに続いた。
◇
学校の近くにある村の広場で、俺たちはメシを食うことにした。
この異常な環境において、不幸中の幸いとも言えるのが食糧だ。
まず、生命の維持に最も必要となる水について。
これは水道水で無限に補給できる。
この島の水道水もそのまま飲んで問題なかった。
次に食料。
これもどうにかなりそうだ。
村には田畑があり、そこには作物がある。
また、森には様々な果物や野菜が自生していた。
魚と肉の摂取が難しいのは辛いところだが、直ちに危険はない。
「皆、出来たよー」
女子たちが大きな鍋をいくつか運んでくる。
それらは広場に用意されたロングテーブルに置かれた。
鍋の中には味噌汁が入っていた。
適当な大きさに千切られた数種類の野菜が煮込まれている。
(包丁がないと調理が大変そうだな)
俺は包丁の作り方を知っている。
といっても、縄文時代に使われていた石包丁だ。
適当な石を、より硬い石を使って加工するだけで作れる。
ただ、石包丁だからといって侮れない。
研ぎ澄ませた際の切れ味は一般的な包丁に匹敵する。
だが、そんなことはおくびにもださなかった。
今の状況で刃物を作れば、間違いなくトラブルの元になる。
「お米も用意したよー! あんまりないから大事に食べてね!」
今度は炊飯器と土鍋が運ばれてきた。
どちらも、中には炊きたての白米が詰まっている。
味噌汁と同じく、思わずうっとりするような香りを放っていた。
「いただきます!」
料理を作った女子たちに礼を言ってから食事を始める。
広場を中心に、皆は適当にばらけて、米と味噌汁に舌鼓を打つ。
「野菜の甘味が出ていて美味しい。流石ね、里依」
「えっへん! でも、私はお米を炊いただけなんだけどね」
俺は瀬奈や里依と一緒に過ごしている。
適当な家の中に入り、居間のテーブルを3人で囲んでいた。
里依が炊いたという土鍋の米は、ふっくらしていい感じだ。
「これからどうなるのかな?」
向かいに座る瀬奈が、俺を見ながら味噌汁を飲む。
「環境的には腰を据えて打開策を探すことができるのだが……」
俺の視線が窓の外へ向かう。
通りを挟んだ向かいの家の前で、大我が取り巻きたちと食事中だ。
胃袋が満たされたからか、先ほどよりも表情に柔らかさが見える。
「あの暴れん坊を筆頭に一触即発の雰囲気が漂っているからな」
今の環境は何かとリスクを孕んでいる。
大我をはじめとする人間関係もそうだが、医療関係でも不安だ。
医師がいなければ病院もない。
怪我や病気といった問題が起きた場合の危険度が段違いだ。
それに、インフラがいつまで生きているかも分からなかった。
明日からいきなり水道水が飲めなくなってもおかしくない。
決して楽観視することはできなかった。
「まさに砂上の楼閣だな、今の俺たちは」
「どういう意味?」
刹那の隣に座る里依が尋ねてきた。
「あまりにも脆すぎるってことだ。ちょっとしたことで全てが崩れる。そんな脆さの中で、俺たちはギリギリの生活をしている。そうは感じないかもしれないが、それが現実だ」
◇
食事が終わり、夜になる。
俺たちは〈学校村〉から〈スタート村〉へ移動した。
スタート村というのは、吉井が便宜的に命名したものだ。
ひとえに「村」だけだとどの村のことか分かりづらい、とのこと。
この島で最初に訪れた村であり、海老沢の死刑を行った村でもある。
広場には絞首台が残っていた。
わざわざ移動したのは、学校村に比べて民家の数が多いからだ。
その数は30軒――学校前の村のちょうど2倍である。
「俺はこの家ー!」
「ここは私たちが使うねー」
村に着くなり、各自が家の所有権を主張する。
男は1人で1軒を使う者が多い中、女子は数人で1軒を使う模様。
「余り物には福があるって言うし、俺はこの家にするか」
俺は村の外れにある家を選ぶ。
他と全く変わりない小さな平屋だ。
どの家もそうだが、鍵がないのは気になる。
ま、こんな場所で泥棒もへったくれもないか。
「私たちも一緒に使わせてもらっていい?」
瀬奈と里依が近づいてきた。
「空き家があるのに俺と一緒がいいのか?」
「女子だけだとなんか不安でね」
そう言う瀬奈の顔は無表情そのもので、不安そうには見えない。
一方、彼女の隣にいる里依は見るからに不安そうだった。
「そういうことなら、別にかまわないよ」
家に上がって寝間に向かう。
ふすまの中から三人分の布団を取りだして敷いた。
「知らない家で勝手に過ごすって変な気分だね-」
里依は居間の畳に腰を下ろしてテレビをつける。
チャンネルを色々と変えるが、視聴できるのはN○Kだけだった。
「どうやらしっかり受信料を払っているようだ」
瀬奈と里依が笑った。
「テレビが唯一の娯楽とは……令和の時代とは思えないぜ」
3人で2時間ほどテレビを視聴する。
途中でやっていたニュースで、今日が20年9月15日だと分かった。
「勉強合宿は9月14日スタートだ。ということは、最後の記憶であるバスの中かから約24時間でこの島に放置されたということになる」
「政府が絡んでないとできない早業だね」と瀬奈。
「全くだ。吉井の言っていた実験に巻き込まれた説が正しいかもな」
日付が分かったことには妙な安心感があった。
だからといって、何かが好転するわけでもなかった。
「とにかく明日も頑張ろう」
順番に風呂やシャワーを満喫したら寝る時間だ。
テレビを消して、寝間へ行き、照明を落として、眠りに就く。
数分で里依が寝息を立て始めたが、俺は気が立って眠れなかった。
「このままじゃ明日は寝不足になるな……」
ゆっくりと起き上がる。
すると、「私も」と瀬奈が体を起こした。
俺たちはそっと寝間を離れる。
居間を通り、土間へ。
「気分転換に散歩でもするか?」
引き戸を開ける前に尋ねる。
瀬奈は「うん」と頷いたあと、
「その前に」
と言って、俺の身体を引き寄せた。
そして、自身の唇を俺の唇に重ねてくる。
軽く舌を絡めたと思いきや、次の瞬間には唇が離れていく。
唐突に始まったキスは、唖然としている間に終わった。
何が何やら理解できない。
分かっているのは、人生初のキスをしたということ。
それも、ミステリアスな雰囲気の漂うとびきり可愛い女子と。
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