027 第二章エピローグ:終戦
「若葉、これで分かっただろ。お前は運が良かったんだ」
顔を真っ青にする若葉に向かって、俺は言った。
彼女の視線の先にあるのは、スネアトラップに掛かった男子だ。
「いだい……だずげ……で……」
男子は吊り上げられた際に重傷を負った。
他の木の枝に腹部が突き刺さったのだ。
同様の被害は他所でも出ている。
むしろ、罠に掛かって無事だった者のほうが少ない。
「これからどうするんだ? 鷹野」
吉井が尋ねてくる。
「無傷の奴だけ縛り上げて、スタート村まで連れて行こう」
「他の連中はそのままか?」
「どうせすぐに死ぬからな」
攻めてきた男子の数は7人。
その内4人が枝に刺さるなどの深手を負っていた。
無傷か重傷という、とんでもない二択状態だ。
そして、この島で重傷になったら、まず助からない。
内臓は損傷するとおしまいなのだ。
だから、昔の人間は頭よりも胴体を守っていた。
「ショックを受けるのはあとだ。この戦いを終わらせにいこう」
◇
「友加里、出てこい。死刑になんてしないから」
捕縛した糸原を連れてスタート村に入る。
迷うことなく、かつて俺が使っていた家に向かった。
その後ろに仲間たちと残りの捕虜も続く。
田沢と佐久間……どちらも陰キャだ。
「私がこの家にいることもバレていたのね」
家から友加里が出てくる。
両手を挙げて降参の構えだ。
「好きにしてちょうだい。死刑でも何でも」
「そんなことはしないさ」
友加里の前に捕虜を並べる。
「残りの男子は死んだ。もはや数の上でもこちらが有利だ。それに、糸原たちに戦うだけの気力は残っていない。だから、降参しろ」
降伏勧告、それが俺の出した結論だった。
「この状況じゃ……それしかないわね」
友加里は力なく頷くと、「だけど」と俺を見た。
「条件がある」
「条件って、そんなこと言える立場じゃないでしょ!」
若葉が喚く。
吉井が「その通りだ!」と強く同意した。
彼女らを「まぁ待て」と落ち着かせてから、俺は尋ねる。
「どんな条件だ?」
「あなたのところでは、あなたが労働内容を決めているわよね?」
「そうだ」
「私の労働内容に関しては、私に決めさせてちょうだい」
「好きにしたいということか」
「その通りよ。私は私の得意なことで貢献する」
「得意なことって?」
「ここで下賜と呼ばれていたこと――ご奉仕とも言えるわね」
「娼婦になるって言ってるのか!?」
「平たく言えばそうね」
俺たちに衝撃が走った。
「あなたのチームの女子は、みんな、あなたに夢中でしょ」
女子たちの顔が赤くなる。
「あなたはそれでいいかもしれないけど、他の男子はそうじゃないのよ」
友加里の視線が田沢と佐久間を捉える。
「とくにこういうモテない男子にとってはね。見ているだけじゃストレスが溜まるもの。それを発散させる場が必要になる。だから私は、彼らが快適に働けるようにサポートしたい。私にしかできない仕事だと思うし、他の作業をするより貢献していると思うわ」
友加里の言い分には筋が通っていた。
ストレスが溜まれば、新たな問題が起きかねない。
矢野万里子に起きたような悲劇を招きかねないのだ。
「いいだろう」
「風斗君、正気なの!?」
「俺はいたって正気だよ」
俺は友加里と握手を交わした。
「念のために言っておくが、この握手は別れではなく歓迎の握手だ」
「ふふっ、ありがとう」
「この瞬間より、君や糸原たちはチームの一員だ。よろしく」
「こちらこそ、よろしくね」
糸原たちの拘束を解く。
「お前たちも仲間に加わるってことでいいよな?」
念のために確認しておく。
「俺はそうさせてもらうぜ。三度も負けりゃ戦う気も失せるってもんだ」
糸原が即答する。
「三度? 二度じゃないか? 一度目は大我で、二度目は今回だろ?」
「その前に、石包丁の一件があるだろ」
「そういえばあったな」
「お前にやられた腕、まだジンジン痛むぜ」
「悪いことをしたな」
「気にしていないさ」
糸原と握手を交わす。
「自分も従うよ」
「同じく……」
残りの2人も我が軍門に降った。
これによって友加里のチームは消滅した。
◇
俺たちは拠点をスタート村に移した。
家の数が多いので、空き家を保管庫代わりに使える。
養鶏場の距離が近づくのも嬉しい。
建て網もスタート村へ引っ越しだ。
わざわざポテチ村へ行かずとも漁が可能になる。
唯一の難点はヤギの牧場が遠のいたこと。
ただでさえ大変だったミルクの調達がますます大変になる。
こればかりはどうにもならなかった。
もろもろの作業が済んだら晩ご飯だ。
村の外に椅子やテーブルを持ち出して、みんなで食べる。
当然ながら、友加里や糸原たちの姿もあった。
「これからどうするんだ? 鷹野」
吉井が尋ねてきた。
「変わらないさ」
俺は笑みを浮かべる。
「島での生活を安定させつつ、かつての日常を取り戻すための術を探す」
言い終えると、糸原に視線を向けた。
「糸原、お前のセリフを借りるぜ」
俺が右手に持っているコップを掲げる。
「もう人間同士で争う時代じゃない。これからは手を取り合って生きていくぞ。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
皆の顔に笑みが浮かぶ。
だが、その裏で、誰もが思っていた。
かつての日常に戻れる日は本当に来るのだろうか?
その答えは誰にも分からない。
もちろん、俺にだって。
それでも、俺たちは必死に今日を生き抜く。
今日だけじゃない。
明日、明後日、その先もずっと――。
これにて第二章終了、ひとまず完結となります。
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さいごに、絢乃は色々と執筆しており、
なかには書籍化した作品もございますので、
よろしければ他の作品も読んでやってください。
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