026 ☆風斗vs友加里
「友加里、こんなもんでいけるか?」
友加里が家で待機していると、糸原がやってきた。
彼は手に持っている木の板を見せる。
片面に取っ手が付いた、お手製の盾だ。
「十分よ。ありがとう」
「いいってことよ。そのかわり、あとでまた頼むぜ」
「もっと働いてくれたらね」
「おうよ! 頑張るぜ!」
糸原が家を出ていく。
友加里はため息をついた。
(やってくれたわね、二階堂)
友加里にとって、二階堂の脱出計画は大誤算だった。
ただでさえ少ないと感じていた女子がさらに減ったからだ。
もはや下賜システムを維持するのは不可能に近い。
数日中になんとかする必要があった。
そのことは糸原や他の男子も懸念している。
だから友加里は重大な決定を下した。
風斗を殺して、女子を引き込むと。
「勝てるはずよ、相手の戦力は分かっているんだから……」
風斗とは可能な限り争いたくない、と友加里は思っていた。
底の知れない、末恐ろしい何かが感じるからだ。
大我に勝ち、シカやイノシシを狩り、漁もしている。
この環境に対する適応度が群を抜いている。
だが、電光石火で攻めれば勝機はある、とも思っていた。
戦力は自分たちが上だし、飛び道具に対する備えも考えている。
先ほど糸原が持ってきた盾がまさにそうだ。
あれで飛来する小石を防ぐことができる。
スリングショットを防げば勝ったも同然だ。
距離を詰めることができたら、あとは押さえ込めばいい。
「二階堂の計画はあちらにとっても誤算だったはず。電光石火の早仕掛けで、準備が整う前に勝つ」
男子が戦争に備えて走り回る中、友加里は居間で仮眠をとる。
彼女がヘトヘトになるまで働くのは日が暮れたあとのことだから。
◇
次の日。
朝の4時に、友加里は皆を叩き起こし、広場に集めた。
「糸原、絶対に成功させてよ」
「鷹野を殺して女子を確保。吉井はどうでもいいんだよな」
「うん」
今回、ポテチ村に攻め込むのは男子だけだ。
友加里は家で大人しく待っている。
リーダーを狙い撃ちにする風斗の作戦に備えた。
大我の二の舞にはならない。
「任せておけ! 皆、行くぞ!」
「「「おおー!」」」
糸原たちは意気揚々と歩きだす。
全員が1メートル程の木の盾を持っている。
さらに、反対側の手には角材も。
「これに失敗したら私の人生は終わりね」
友加里は小さく笑い、そして、かつて風斗が使っていた家に向かう。
自分の家にいると奇襲を受けかねないので、別の家で過ごすわけだ。
彼女はどこまでも徹底していた。
◇
「やはり早朝から動いてきたか」
風斗は森の中から友加里の動向を監視していた。
故に、友加里がかつて自分が使っていた家に入ったことも知っている。
だが、奇襲を仕掛ける気はなかった。
「あの様子だとポテチ村までしばらくかかるな」
糸原たちの背中を見ながら呟く。
「この勝負、俺たちの勝ちだな」
風斗はニヤリと笑い、森の中を駆けてポテチ村に戻った。
全ては風斗の想定通りだった。
友加里が翌日には動くことも。
スリングショット対策をしてくることも。
攻めてくるのが男子だけであることも。
◇
ポテチ村に糸原たちが迫ってきた。
「来たぞ。作戦通りにやろう」
風斗は仲間と共にスリングショットを持って村を出る。
「こちらの思惑に気づいていたのか、鷹野」
糸原は風斗たちを見て驚いた。
「そんなこったろうと思ったからな」
「そのわりに逃げなかったんだな」
「俺たちにはコレがあるんでね」
スリングショットを掲げる風斗。
「馬鹿め。俺たちにだってコイツがある!」
糸原が盾を掲げる。
「試してみるか? 知らないぞ」
「上等だ! お前を殺して全てを終わらせてやる!」
糸原を筆頭に、友加里チームの男子たちが突撃を開始する。
「迎え撃て!」
風斗たちは森に向かって走りながらスリングショットを放つ。
スリングショットのいいところは、動きながら攻撃できる点だ。
だが、しかし――。
「ふははははは! 効かんぞ! 効かん効かん!」
小石は木の盾に弾かれてしまった。
当然ながらノーダメージである。
行軍がいささか遅れる程度だ。
「こ、こりゃいかん! 逃げるぞ! B地点で合流だ!」
「「「了解!」」」
風斗は撤退を指示。
散開して、森の中に逃げていく。
「負け戦に備えていたか、流石は鷹野だ! お前ら、女子を捕らえろ! 俺は鷹野を追う!」
「「「おう!」」」
糸原のチームも統率がとれている。
今回の戦いにおけるご褒美ポイントが、労働内容に問わず同じだからだ。
勝利すればAランクの報酬にありつける。全員が。
仲間内で競う必要がなかった。
「待てや鷹野ォ!」
糸原が男子二人を引き連れて風斗に迫る。
「やばい! このままじゃ捕まっちまう!」
風斗は進路を変えた。
真っ直ぐ走るのをやめて、直角に曲がる。
「馬鹿め!」
糸原は斜めに進む。
ショートカットして風斗に迫ろうという考えだ。
それを見た風斗はニヤリと笑った。
「馬鹿はお前だ」
「なっ!?」
次の瞬間、糸原と二人の仲間の体が宙に浮く。
スネアトラップが発動したのだ。
風斗たちは昨日1日で森の中をトラップだらけにしていた。
自分たちが日常的に使っている道以外、もれなくスネアトラップがある。
スネアトラップを見破ることは難しくない。
ロープがたらりと垂れているからだ。
落ち着いてみれば容易に対処できるだろう。
だが、素人が走りながら回避するのは無理があった。
「うわああああああああ!」
「な、なんだこれはぁああああああ」
そこら中で男子の悲鳴が響く。
あっという間に、友加里チームの全男子がトラップに掛かった。
「鷹野、お前、最初からこれを狙って……!」
糸原が顔を歪ませる。
風斗は逃げるのをやめて、彼に近づいた。
「B地点など存在しないし、負け戦にも備えていない。なぜなら勝つからだ。負けたらおしまいなのは俺たちだって同じこと」
風斗たちの完勝だった。
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