表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

025 これはまずいことになったな

「このイカダを使って、全員でこの島を脱出しよう!」


 二階堂が力強い口調で言った。


 この場にいる人間の合計は34人。

 人数的には、彼らの作ったイカダに搭乗することが可能だ。


 それほどまでに彼らのイカダは大きい。

 よくもこれだけの代物を隠し通せたものだ。


 というか、イカダと表現していいものだろうか。

 とてつもなく大きな帆があるし、船と言うべきかもしれない。


「質問しても?」


 友加里が手を挙げる。


「バンバン頼む!」


 二階堂の顔は自信に満ちていた。


「仮にこのイカダで島を出るとして、どこを目指すのかしら?」


 誰もが感じていたことだ。


 この島が世界のどこにあるか分からない。

 おそらく日本のどこかだろう、というのが共通認識だ。

 これでは目的地を決められない。


「ひたすらに西を目指す! 正確には西北西だ! コンパスも用意した!」


 二階堂は迷うことなく答え、お手製のコンパスを掲げた。

 友加里の質問は想定していたのだろう。

 イカダを作ろうとなった時点で、誰かが質問したに違いない。


「どうして西に?」


「ここが日本のどこであったとしても、西に進めば島に着くからだ。

 本州や四国・九州に着けば最高だが、沖縄のどこかに着く可能性もある。

 だが、何よりも大きいのは、さらに西へ進むと大陸があることだ。

 西北西に向かって進む限り、必ずどこかに辿り着ける。

 それに、そこまで行かなくても、海を彷徨っていれば海保や海自が見つけてくれる可能性もある。

 分の悪い賭けじゃないさ」


 なるほどな、と思った。

 友加里も「たしかに」と納得している。


「たぶん次はこれだけの巨大イカダが動くかどうかを心配するだろうな!」


 二階堂が質問を先読みする。

 たしかにそれも気になるところだった。


「安心してほしい! この大きな帆があるから、手漕ぎより遥かに速いスピードで海を進める! そのことはウチの開発担当である入江のお墨付きだ!」


 入江は変わった経歴を持つ男だ。

 バスケ部ながら、バスケ以上に物作りを得意としている。

 夢にエンジニアを掲げるほどの、言うなればガチ勢だ。


 彼の作る物は学生の範疇を超えている。

 この前は既製品に頼ることなく自動車を作っていた。

 エンジンやタイヤすら自分で作り上げたのだ。


 もちろん、市販の自動車とは比較にならない雑魚だ。

 速度も出ないし、耐久性も低い。

 それでも、人を乗せて走れるほどの性能はあった。


 そんな入江のお墨付きとなれば、頼もしさは半端ない。

 多くの生徒が「おお!」と目を輝かせた。


「他にも質問を受け付けるぞ!」


 誰も挙手しない。


 二階堂は「よし!」と満足そうに頷く。


「これほど大がかりな脱出計画は二度とないだろう。救助要請なんて不可能なことは分かっているはずだし、俺にとってはこれがかつての日常を取り戻すラストチャンスだと思っている」


 二階堂はそこで呼吸を整えた。


「強制はしない。参加したい奴は挙手してくれ。希望者だけでこの島を出よう!」


 二階堂チームは、全員が迷うことなく手を挙げた。


 友加里チームは、男子と女子が3人ずつ手を挙げる。

 男子は大我の取り巻きだった連中ばかりだが、糸原は含まれていない。

 いわゆる「陰キャ」は漏れなく手を挙げなかった。

 女子で手を挙げているのは、友加里を除く3人。


 そして、我がチームからは――。


「鷹野のチームは誰も参加しないのか?」


「どうやらそのようだ」


 ――0人だった。


「参加しなくていいのか?」


 俺は仲間たちに尋ねた。


「僕は鷹野に従うよ。それが一番だと考える」


 吉井が言う。

 その言葉に、女子たちが同意した。


「すげぇ信頼されてるんだな、鷹野」


「そのようだ」


 嬉しかった。

 人に信頼されることが。

 これほど嬉しいこととは思わなかった。


「なら俺たち14人と友加里ところの6人を加えた20人で決行しよう。イカダに乗らない人も、イカダを海に運ぶのは手伝ってくれないか?」


 拒む理由がないので承諾する。

 生存している全生徒、計34人でイカダを海まで運ぶ。


「上手いこと帰還できたら救助を要請してやるからな!」


 大量の食糧をイカダに積むと、二階堂たちは島から出ていった。


 ◇


「これはまずいことになったな」


 ポテチ村に戻った瞬間、俺は顔を歪めた。

 それまでは必死に平静を装っていた。


「何がまずいの?」


 瀬奈が尋ねる。

 他の連中も分かっていないようだ。


「友加里チームと戦争になる可能性が急激に上がったんだよ」


「えっ」


 吉井が「なぜだ?」と訊いてきた。


「友加里チームが体裁を保てているのは下賜制度のおかげだ。しかし、二階堂の脱出計画によって、この制度が揺らいでいる」


「もっと分かりやすく言ってよー!」と若葉。


「褒美を与える側――つまり女子が足りないってことだ。今までは男子10人に対して女子4人だった。つまり、女子は1人で2~3人の男子に褒美を与えていたんだ。それが今回の一件により、男子7人の女子1人になった」


「友加里が1人で7人の男子を相手しないといけないわけね」


 瀬奈の言葉に「そういうこと」と頷く。


「これまでよりも負担が増えるし、何より女子が1人だと制度を維持するのが困難だ。友加里としては、男子を減らすか女子を増やす必要がある」


「それで私たちを攻めてくるかもしれない、と」


「相手が男子主体に対し、こちらは女子主体だしな。大我の時と違ってスリングショットのことも知られている。友加里は絶対に、まともにぶつかったら勝てるだろう、と考えるぞ」


「それって超まずいじゃん!」


 若葉が両手を挙げて仰け反る。


「だから今から備えるとしよう。備えあれば憂いなしだ」


 二階堂の脱出計画によって、一気に島の緊張感が高まった。

 絶妙なバランスで保たれていた平和が、音を立てて崩れていく。

お読みくださりありがとうございます。


【評価】【ブックマーク】で応援していただけると励みになります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ