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024 この島とおさらばする時だ

「仮に誰かが補充していたとして、どうしてそんなことをする?」


 村に戻る道すがら、吉井が尋ねてきた。

 小屋に漁具が補充されていた件について、彼は超常現象説を支持している。

 陰謀論以上に馬鹿げたものなので、当然ながら俺は支持しない。


「そこは気にするところじゃないだろ」


「なぜだ?」


「そもそも、俺たちを島に閉じ込めた連中の思惑なんざ理解できないからだ。なにかの実験ではないかというお前の考えには賛同するが、そうだとしても実験内容が不明だ。そんな状況で、物を補充する理由なんて考えても意味がない」


「たしかに……」


「それより明日のことを考えようぜ。上手くいけば肉にありつけるぞ」


 ポテチ村に到着したので話を切り上げた。


 ◇


 次の日。

 朝食を済ませるなり、俺たちは森に向かった。

 6人全員でスネアトラップの結果を確認していく。


「なかなか引っかかってないねー!」


 若葉が不満をこぼす。


「罠ってのはそういうものさ」


 と、その時だった。


「見ろ! 獲物が掛かってるぞ!」


 スネアトラップに掛かった獣を発見した。

 それは俺たちが狙っていたシカ――ではない。


「ブオォォ! ブオォォォ!」


 威嚇の咆哮を放つイノシシだ。

 前肢がロープに吊り上げられている。


「イノシシの肉はシカより脂がたっぷりで甘いぞ! 大当たりだ!」


 俺は石包丁を取りだし、その場でイノシシを殺した。

 動画サイトで学んだ解体テクニックで血抜きと解体を行う。

 動画を投稿した猟師が「早い内に捌け」と言っていたからだ。


「風斗、なんだかすごく手慣れてない?」


 瀬奈が驚いている。

 他の連中も愕然としているようだ。


「シカやイノシシの解体動画はたくさん観たからな」


「風斗君、それ、ちょっと怖いんだけど……」


「勘違いするなよ、俺は動物を殺す動画が好きなんじゃない。サバイバル系の動画を観るのが好きなんだ。シカやイノシシの解体は定番だから、サバイバル動画ではよく扱われるってだけだからな」


 実際に解体をするのは初めてのことだった。

 だが、動画のおかげなのか、大して苦労しなかった。


 とはいえ、苦労しなかったことと結果の質はイコールではない。

 動画のような鮮やかさはなく、骨には肉がつきまくりだった。


「とりあえず食える肉はこんなものか」


 里依の背負っている竹の籠に肉塊を詰め込んだ。


「里依、肉の保存は任せる」


「任されましたー! 瀬奈、行こ!」


 里依と瀬奈が村に向かっていく。

 それを見送ったら、残りの罠を確認する。


「うお!」


 思わず声がこぼれる。

 イノシシに続いてシカも罠に掛かっていたのだ。

 それも大きな個体だ。


「イノシシとシカの肉か……さすがに食い切れないな」


「燻製ないしは干し肉にすれば問題ないだろう!」


 吉井が眼鏡をクイッとさせる。


 俺は「そうだな」と頷いた。

 もとからそのつもりだった。


「これでよし」


 シカの解体もその場で済ませる。

 近くにある川で綺麗に洗ってから、俺の背負う竹の籠に詰めた。


「罠の確認は終わったし戻るとしよう」


 俺たちの顔からは自然と笑みがこぼれる。


「肉だー! 肉を食うぞー!」


 若葉が嬉しそうに叫んだ。


 ◇


 戻るなり肉を食った。

 大して腹が減っていたわけではない。

 だが、肉を見ていると我慢できなかった。


 各部位を食べて、食べて、食べまくった。

 その感想は――。


「やっぱり肉ってサイコー!」


「「「「「サイコー!」」」」」


 涎の分泌が止まらないほどに美味かった。

 噛むほどにエネルギーが漲ってくる。

 これまでの食事にはない暴力的な味だった。


「里依、他所にやるための肉はどこだ?」


「吉井君の家の冷蔵庫にあるよー!」


「オーケー、取ってくる」


「私もついていくね!」


 肉は滅多にありつけない食材だ。

 だからこそ、他のチームにお裾分けする。

 共存共栄が可能なら、それにこしたことはない。


「思ったより多いな」


 吉井の家の冷蔵庫を見て驚いた。

 想像の倍に匹敵する量の肉があったのだ。


「一人6きれ分くらいのつもりだけど……多かったかな?」


「そんなにもいらないさ。所詮はお裾分けだ。一人3きれでいい」


 冷蔵庫の肉を半分だけ取り出した。

 小分けにして綺麗に保存されているので出しやすい。

 里依の性格がよく表れていた。


「里依、クーラーボックスは?」


「あるよー! ここに!」


「サンキュ!」


 里依からクーラーボックスを受け取る。

 森の中にある小屋から回収してきたものだ。

 今まで出番がなかった代物がここで役に立つ。


「これでよし」


 肉をクーラーボックスに詰めたら準備完了だ。


「よし、行ってくるぜ」


 クーラーボックスの紐を肩に掛ける。


「気をつけてね、風斗君!」


 里依が頬にキスしてきた。


「口にも! 口にも!」


 唇を伸ばす俺。


 里依が「ぎょぇえ!?」と驚く。

 無理もない。

 普段の俺は絶対にそんなことしないからだ。


「もちろん冗談だ」


 俺は笑いながら言った。

 すると次の瞬間、里依が口にキスしてくれた。


「風斗君が冗談でも、私は本気だよっ!」


「ははは、ありがとう」


 予想外のキスに恥ずかしくなる。


 何故か里依も恥ずかしそうに頬を赤らめていた。


「じゃ、またあとで!」


 俺は里依の頭を撫でて、吉井の家を出た。


 ◇


 スタート村を経由して、学校村にやってきた。

 広場に集まった二階堂チームの諸君に肉を見せる。


「うおおおおおおおお! 肉! 肉ぅううううう!」


「マジで肉だああああ! やっべぇぇぇ!」


 二階堂たちの反応は、友加里ところの男子と大差なかった。

 まるで宝石を見るかのように肉を眺めて、目をキラキラさせている。

 大して可愛くない女子たちも涎を垂らしていた。


「サンキューな、鷹野! 肉を食えるなんて信じられないぜ!」


「いいってことよ」


 二階堂が肩を組んでくる。


「それに来てくれたのも助かったぜ」


「と言うと?」


「実はこちらから出向こうと思っていたんだ」


「何か用事があったのか」


「明日の昼、みんなでこの村に来てくれ」


 それが二階堂の用件だった。


「みんなで学校村に? なんでだ」


「見せたいものがある」


「ひっそり作り続けていたものか」


「そうだ!」


 二階堂たちは何かを作っている。

 それが何かは分からない。

 大量の丸太を使うことはたしかだ。


 最初の頃は村に丸太を集めていた。

 その丸太も、今はどこかへ消えている。

 別のところで作業をしているのだ。


「友加里のチームにも声をかけた。全員で来るってよ。遠くてだるいとはおもうが、鷹野たちも来てくれ。すっげー大事なことなんだ」


 二階堂の顔は真剣だった。

 彼の性格や言い方から察するに敵意はない。

 強烈な罠が待ち構えている……ということはないだろう。


「分かった。明日の昼にここへ来ればいいんだな?」


「おうよ! きっとぶったまげるぜ!」


「期待しておこう」


 いったい何を見せてくれるのだろうか。

 俺は滅多なことではぶったまげない。

 期待外れでないことを祈ろう。


 ◇


 次の日。

 俺たちは全員で学校村にやってきた。

 村の広場には、友加里チームも勢揃いだ。


「よく来てくれた!」


 二階堂が大きな声で言う。

 その隣には、彼らが秘密裏にこしらえていた物があった。

 かなりの大きさをしている。


「コイツが皆に集まってもらった理由だ!」


 二階堂が誇らしげな顔で隣にあるそれを指す。

 そして、さらにこう続けた。


「ついにこの島とおさらばする時だ!」


 彼の横にあったのはイカダだった。

 全員で乗れる大きさのご立派なイカダだ。


「こいつはすげぇや」


 さすがの俺もぶったまげずにはいられなかった。

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