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023 体が求めて止まない……!

 後に知ったことだが、吉井は若葉に気があるそうだ。

 二人で行動した際に、若葉の明るさに惚れてしまったという。


 しかしながら、若葉のほうは、吉井をそういう風には見ていなかった。

 そんなわけで、吉井はあえなく撃沈した。


 そして月日はほんの少しだけ流れ、12日目に突入する。


 ◇


「そろそろ体が求めて止まない……!」


 朝食後、俺は広場に皆を集めて言った。


「やるか、シカ狩り……! 肉の調達だ!」


 皆が「おお」と感嘆する。


 前々から肉を食いたいとは思っていた。

 トラップを仕掛けてシカを捕まえよう、と。

 だが、ずっと後回しになっていた。


 その理由は想像以上に平和だからだ。

 上原が処刑されて以降、死者は一人も出ていない。


 物々交換の名目で友加里や二階堂のチームを何度か偵察した。

 しかし、いつ、どのタイミングで行っても、平和そのものだ。


 だから、俺たちは探索を重視した。

 二人一組の班を三つ作り、その内の二つを探索に回す。

 残りの一班は漁や調理、それに家事などを担当した。


 こうして探索し続けた結果、周辺の状況は把握した。

 片道2時間圏内の地理は完全に知り尽くしている。

 これほどのんびり探索できるのは嬉しい誤算だった。


 一方で、探索の結果は残念と言わざるを得なかった。

 ハイテクなヤギ牧場以外、パッとする発見はなかったのだ。

 外部との連絡手段はもちろんのこと、面白い施設も見当たらない。

 あるのは同じような村と小屋だけだった。


「皆にもやってもらうからマスターしてもらうぜ」


 瀬奈、里依、若葉を連れて、森の中へやってきた。

 残りの二人――吉井と裕美は漁やら何やらの担当だ。


「頑張るけどさー、私らに作れるの!? トラップとか!」


 若葉の言葉に「問題ない」と断言する。


「トラップは簡単に作れるからな」


 シカを捕まえるために作るのは〈スネアトラップ〉と呼ばれる罠だ。

 地面に設置したロープの輪っかを踏むと、そのロープが一気に吊り上がる。

 それによって対象は逆さ吊りにされる……という仕組みだ。


「スネアトラップを作るのに必要なのは、よくしなる木とロープ、あとは適当な小枝くらいだ」


 俺は近くの木の枝にロープを括り付ける。

 それからロープをピンッと伸ばし、枝を限界までしならせる。

 その状態で、輪っかを適当に固定すれば完了だ。

 今回は地面に突き刺した木材と小枝を使って固定した。


「これでロープに引っかかったら逆さ吊りになるぜ」


「ほんとー? 試していい?」


 若葉がとんでもないことを言い出した。


「怪我をするかもしれないぞ」


「その時はその時っしょ!」


「この島で怪我をしたら死にかねないのだが」


「でも好奇心には勝てない!」


 そう言って、彼女は俺の作ったスネアトラップに掛かる。


 ズサーッ!


 小枝の固定が外れ、若葉が吊り上げられる。

 スカートが裏返り、パンツが剥き出しになった。


「あわわわわ! やっば! なにこれ! やっば!」


「これがスネアトラップだ。とにかく無事で何よりだ」


 若葉のパンツに向かって話す。

 可愛らしい熊さんのマークが入った白のパンツだ。


「怪我はないけど無事じゃなーい! 助けてー!」


 若葉は完全に宙づりの状態で、自分では何もできない。

 これならシカにも通用しそうだ。


「ふぅ、ありがと!」


「あんまり無理するなよ」


 罠を解除して若葉を立たせる。


「シカの通りそうな場所に、この罠を大量に設置していこう」


「「「おー!」」」


 俺たちは手分けして森の中に罠を張り巡らせるのだった。


 ◇


 夕方まで罠を仕掛け続けた。

 主材となるロープがそこらの小屋にあるので、村に戻る必要がなかった。


「ちゃんと俺たちが通らない場所に罠を仕掛けただろうな?」


「もちのろん! ろんろん!」


「私たちが掛かったら笑えないからね」


「風斗君の言う通りにしたよー!」


「オーケー」


 俺たちは森を抜け、村に戻った。


「やっと帰ってきたか! 遅いじゃないか!」


 戻るなり吉井が絡んできた。

 眼鏡がズレているのにクイッとしない。

 これはよほど大変なことが起きているようだ。

 緊張感が走った。


「どうした? 友加里チームが攻めてきたのか?」


「ううん、そういうことじゃないの」


 吉井の隣に立っている裕美が答えた。


「不思議なことが起きたのよ」


「不思議なこと?」


「見てもらえれば分かると思う」


 そう言って裕美は歩き始めた。

 俺たちはそのあとに続く。


 裕美が向かっているのは森だ。

 ただし、進入するポイントが先ほどの俺たちとは違う。


「罠を作るのにロープをたくさん使うだろうって吉井君が言ったから、暇な時間にロープを補充しようとしたの」


「ほう」


「その途中でこの小屋を通ったんだけど、ここ、覚えているかな?」


 裕美が一軒の小屋の前で止まる。


「覚えているぜ。漁具やウェットスーツがあった小屋だろ?」


「そうそう」


 この小屋は当たりだった。

 おかげさまで、毎日美味しい魚にありつけている。


「この小屋には何もないだろ。俺たちが全部持って帰ったわけだし」


「でしょ? ところがね」


 裕美が小屋の引き戸を開けた。

 すると――。


「この有様なのよ」


「なん……だと……!?」


 ――小屋の中には色々な物があった。


 ウェットスーツ、ゴーグル、たも網、エトセトラ。

 かつて俺たちが回収した物が綺麗に揃っている。


「これ、村から持ってきたんじゃないのか?」


「そんなことするわけないでしょ」


「それもそうか」


「誰かが補充したんだ」


 後ろから吉井が言った。

 振り返ると、彼は眼鏡をクイッとした。


「――というのは冗談で、どうやらこの島は超常的な力に支配されているようだ」


「超常的だと?」


 吉井は「そうだ」と頷き、またしても眼鏡に触れる。


「常識的に考えれば誰かが補充したわけだが、それはありえないだろう。だって補充したその誰かからすると、小屋の物を僕たちに盗まれたことになるのだから。わざわざもう1度盗んでくださいと補充する馬鹿はいない。よって、これは超常的な現象と考える」


 皆が「たしかに」と頷く。


 しかし、俺は首を振った。


「いいや、それこそありえない」


「なに!? なら鷹野、君はどう説明するんだ?」


「最初にお前が言った通り誰かが補充したんだよ。そう考えるのが自然だ」


「何を言っている。この島はこれまでにも理解不能なことばかりじゃないか。起きたら島にいたし、村や学校には人がいないし、学校には僕らのロッカーがあった。どれも常識では考えられない」


「たしかに常識では考えられないが、それらはその気になればできなくもないことだ。ロッカーは買えば済むし、俺たちが島にいるのだって、何らかの手段で寝かせてから運べば済む。だが、物が勝手に補充される……というのはありえない」


 吉井が食い下がろうとする。

 俺はそれを制止し、続けざまに言った。


「俺は前に『この島には俺たち以外にも人間がいる』と言ったよな」


「覚えている。大我たちの強引な夜這いを対策するための嘘だったのだろ? 仲間に加わってから聞いたぞ」


「そうだ。しかし、どうやらあれは嘘ではなく真実だったようだ」


 俺は断言する。


「この島には俺たち以外にも人間がいる。おそらく、いや、間違いなく、俺たちをこの島に連れてきた組織の人間だ」


 今回の発見は大きい。

 この島の核心に一歩近づいたような気がした。


お読みくださりありがとうございます。


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