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021 そりゃ愛がなかったからね

 上原の死体はあっという間に処理された。

 まるでエサに飛びつくハイエナのように、男共が群がったのだ。

 穴を掘る者、絞首台を掃除する者、誰もががむしゃらに働く。


「おい、死体を拭くのは俺がやるっつってんだろ! よこせ!」


「うるせぇ! 騎士長だからって高ポイントの仕事にありつけると思うなよ!」


 死体の奪い合いだ。


 一方、女子の反応は様々だ。

 4人中2人は家の中に消えていった。

 残り2人――友加里と桃井芹那(ももいせりな)はその場に残っている。


 芹那は毛先がグネグネしたミディアムヘアの女だ。

 桃井という苗字に反して、髪の色は茶色である。

 モデル体型で化粧気が強く、大我とは恋人関係にあった。

 大我が死んだことで不利益を被った数少ない人間といえるだろう。


「あら、鷹野君、宮内さん」


 友加里が俺たちに気づいて振り返る。

 隣に立っている芹那もこちらに顔を向けた。


「死刑制度は継続しているのか」


「相応の罪を与えるのが私のやり方なので」


「聞いている限りでは、上原に対して死刑は重すぎると思うが。別に人を殺したわけではあるまい」


「悪いけど、部外者の貴方と議論する気はないわ」


 要するに「黙ってろ」と言うことだ。

 俺は「それもそうだな」と流した。


「申し訳ないけど、そろそろ下賜(かし)の時間なので家に戻らせてもらうわ」


 友加里はスタスタと自分の家に消えていく。

 その際、芹那にも早く戻るよう言っていた。


「死刑はやり過ぎだよねぇ」


 芹那が話しかけてくる。

 頭の後ろで手を組み、軽い調子で言い放つ。


 俺は「まぁな」と頷き、それから尋ねた。


「友加里についてどう思う?」


「なになに引き抜きの話?」


「いや、そうじゃない。大我を殺した糸原は彼女の刺客だ。つまり、実質的には友加里が大我を殺したようなものだろう。芹那にとっては仇のような存在じゃないのか? それなのに一緒にいるから気になったんだ」


「あーね」


 納得したらしい。


「友加里のことは好きか嫌いかで言えば嫌いだよ」


 あっさりと言い放つ。

 声を潜める様子がないあたり、聞かれても問題ないようだ。


「私にとっちゃ大我と一緒のほうが楽だったからねー」


「それもそうだけど、何より大我は彼氏だったろ? 俺が気になるのはそこだ」


「たしかに付き合ってたけど、実際は恋人っていうより大人の関係ってやつよ。別に好きだったわけじゃないし。死んだからって何も思わないっていうか、そりゃあれだけ威張ってた奴が大怪我を負ったら殺されても当然って感じ」


 大我の死に対して、本当にどうでもいいようだ。


「冷たいものだな」


「そりゃ愛がなかったからね。知ってる? 大我って瀬奈のことが好きだったんだよ」


「そうなのか?」


 視線を里依に向ける。


 里依は申し訳なさそうな顔で頷いた。

 どうやら知っていたらしい。


「私と一緒にいる時も瀬奈の話ばっかだったしねー。私を含めて、色々な女と形だけの恋人関係になったのだって瀬奈を振り向かせるためだもん。だせぇ男だよ」


「よく分かった。でも、それだったら、どうして友加里のことが嫌いなんだ? 聞いている限り、大我のことは好きじゃなかったんだろ? なら友加里を嫌う理由もないはずだが」


「だってさー、大我の時より今のほうが面倒なんだもん。大我が生きていたら今より楽に過ごせてたわけだし。だから嫌いなんよ。性格的にも合わないしね。私は見ての通りだらだらしてるけど、友加里はきっちり派だから」


「なるほど」


 芹那の思考回路は極めて単純だった。

 自分が楽に過ごせるかどうか、それだけが大事なのだ。


「ここよりも俺たちの村のほうが楽に過ごせるぜ……と言ったらどうする?」


「そりゃすぐに引っ越すよ。で、楽なの?」


「いや、言っただけだ」


「なんだよそれー、期待させんなよー」


 心の底から落胆している。

 しかし次の瞬間、芹那の表情がハッとした。

 何か閃いたようだ。


「あんたのチームって、あんたが仕切ってるんでしょ?」


「そうだよ」


「じゃあさ、あんたに取り入れば楽できるんじゃないの?」


「へっ?」


「ここのAランク報酬……いや、なんだったらその上をいくようなことをしてあげるよ。だからさ、一日中、好きなようにぬぼーっと過ごさせてよ」


「Aランクよりも上の報酬……」


 ごくりと唾を飲み込む。


「だ、ダメだよ、風斗君」


 里依が服を引っ張ってきた。


「そ、そうだな、ダメだ、よくない。リーダーが私利私欲のために動くと、組織は瞬く間に崩壊してしまう」


「はぁー、友加里と同じ考えかよー」


 芹那は「めんどくさ」と背中を向け、スタスタと家に帰っていった。


(不思議な奴だ)


 芹那の後ろ姿を見ながら思った。

 楽したいなら二階堂のチームに移籍するのがいいだろう。

 彼女は可愛いから、諸手を挙げて歓迎してもらえるはずだ。

 加えて、二階堂チームなら労働を放棄しても怒られない。

 多少のご奉仕は要求されるだろうが、それはここでも同じこと。


(どうして二階堂のところへ行かないのだろう)


 リア充ならではのドロドロした何かがあるのだろうか。

 それとも、ただ単純に二階堂の方針を知らないのか。


「ま、なんでもいいか。帰ろう」


「うん!」


 俺と里依はスタート村を出て、ポテチ村に戻った。


お読みくださりありがとうございます。


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