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020 男は姓の奴隷って話さ

 友加里と同じく、二階堂も快く受け入れてくれた。

 この村のメンバーは14人で、内訳は男女共に7人。


「干物サンキューな、鷹野! 久々に魚が食えるぜ!」


 リーダーの二階堂が俺たちを案内してくれた。

 サッカー部のキャプテンを務める金髪のイケメンだ。


「俺がリーダーってことになってるけど、ぶっちゃけ形だけだ」


 その言葉に偽りはない。

 彼の村では、各々が好きなように活動していた。

 指揮者不在のわりには機能している。


 友加里の村に比べると、ここの男子はレベルが高い。

 運動部ならではの爽やかさと身体能力を持っている。


 一方で、女子のレベルは総じて低い。

 可愛い女子は一人としていなかった。


 これは俺の持論だが、女子の優秀さは容姿に比例しがちだ。

 論拠なき偏見ではあるけど、経験則では完全にそうだった。


 実際、この偏見は此処でも正しかった。


「新庄くーん、この丸太、重くて運べないよぉ、腕がいたーい」


 お世辞にも可愛いとは言えない女子が怠けた動きをしている。

 バスケ部の新庄と二人で丸太を運んでいるが、真面目に持っていない。

 容姿のいい女子――例えば里依なら、もっとしゃかりきに働く。


「りょー、無理しなくていいよ」


 新庄は軽く受け流す。

 表情は笑っているが、目は笑っていなかった。


 ここが学校なら、彼が相手にするような女子ではないからだ。

 陰キャの男子が「俺でもいけるかも」と思えるような相手は。


「男子と女子で作業内容が変わらない点は俺たちと同じだな」


「ま、ここの女子は男みたいなもんだしな」


 二階堂が笑いながら答えた。


「二階堂君、ひどーい!」


 先ほどの女子が大きな声で言う。

 どうやら二階堂の言葉が聞こえていたようだ。

 しかし怒ってはおらず、なぜか笑みを浮かべている。


「ははは、冗談だってー! 丸太運び、助かってるぜ!」


 冗談と言っているが、おそらく本気だろう。

 そう思ったが、そのことには触れないでおく。


「そういえば、どうして丸太を集めているんだ?」


 学校村の広場には丸太が積まれている。

 既に7本あるが、まだまだ増やすつもりのようだ。


「まぁ、色々とな」


 教えたくないらしい。


「そっか。よく分からないが、上手くいくといいな」


 俺は大して興味を示さなかった。

 彼らの丸太が俺たちの脅威になることはあり得ないからだ。

 争いになるとしたら、相手は友加里だろう。


「じゃ、俺たちは帰るよ」


「待ってくれ、お礼にニワトリの卵をやるよ」


「いや、今は遠慮しておこう。実は昨日、友加里から5パック貰ったんだ」


「おー、そうだったか」


「また必要になったら貰いに来るよ。その時に頼む」


「りょー! 途中まで送るよ! 丸太運びサボリたいし!」


「聞こえてるぞー、サボんじゃねぇー!」


 新庄が広場から叫ぶ。

 二階堂は「役得だー、悪く思うなー」と笑って返す。


「行こうぜ! 鷹野」


「おう」


 俺と里依、二階堂の3人は、スタート村へ向かう。


(コイツ……何が目的だ?)


 歩き始めてすぐに、俺は疑問を抱いた。


 二階堂が無言なのだ。

 てっきり雑談でもしたいのかと思った。


 俺たちから話しかけてくるのを待っているのだろうか?


 いや、それはありえない。

 俺と里依は、学校だと物静かなタイプだ。

 この場で自分から話しかけると思うはずがない。


 だったら、何故?


 そんなことを考えていると、二階堂が足を止めた。


「この辺でいいかな」


 周囲をキョロキョロと見渡し、付近に人がいないことを確認している。

 いよいよ何か切り出すつもりのようだ。


「すまん、鷹野と二人で話をさせてもらってもいいかな?」


「え? それは……」


 里依が俺のほうを見る。

 判断をこちらに委ねるつもりのようだ。


 だから、代わりに俺が答えた。


「かまわないよ。里依、海のほうに行っておいてくれ」


「分かった!」


 里依が小走りで離れていく。

 聞こえない距離に達したのを確認すると、二階堂は言った。


「こっちの女子2人とそっちの女子1人で交換しないか?」


「は?」


 予想だにしない提案だった。


「そっちの女子は可愛いけど、こっちはほら、ブスばっかだろ?」


 女子がいなくなった途端、二階堂が本音で話す。


「表向きは提携とかなんとか理由をつけたらなんとかなると思うんだ。鷹野はこの島で長く活動するつもりなんだろ? なら人手がいるはずだ。2対1のトレードだから人手が増えて嬉しいんじゃないか?」


「いや、そういう問題じゃない。そもそもどういうつもりだ?」


 二階堂は「分かるだろぉ」とため息をついた。


「俺たちだって可愛い女がいいんだよ。裕美と若葉が来ると思ったから友加里のところから脱退したのにさ、あいつらそっちに行っただろ。ついてきたのはブスばっかりだ。あんなブス共じゃ満足できねぇよ」


 二階堂チームの女子が聞いたら発狂しそうなセリフだ。


「鷹野だってムラムラすることあるだろ? そんな時、ウチの女どもは役に立つぞ。ブスだからな。ちょっとおだてりゃ、いくらでも言うことを聞いてくれる」


 二階堂の目には鬼気迫るものがあった。

 モテ男の彼にとって、学校村の女子は落第点なのだろう。


「なんだったら3対1でもいい。そっちが1人でこっちが3人だ。だから頼む! 交換してくれ!」


 深々と頭を下げてくる。


 俺の答えは決まっていた。


「悪いけど断る」


「選ばしてやるぞ。それでも駄目か?」


「そういう問題じゃない。たしかに人手不足で困っているけど、だからといって仲間をトレーディングカードのようには扱えない。こう見えて人権は尊重しているんだ、俺」


「どうしても駄目か?」


「すまんな」


「かぁー! 残念! ならしょうがない!」


 二階堂はあっさり引き下がった。

 おそらく駄目で元々の精神で臨んでいたのだろう。


「俺は村に戻るよ。またいつでも来てくれ」


「おう」


「今度はもっと女子を連れてきてくれよな。目の保養をしたい」


「考えておこう」


 学校村には二度と女子を近づけないでおこう。

 そう心に固く誓いながら、去りゆく二階堂を見送った。


「何の話をしていたの?」


 二階堂と入れ替わりで里依が戻ってくる。


「男は性の奴隷って話さ」


「えー、なにそれ! 詳しく教えてよ」


「女子にする話じゃないさ。男同士の話だ」


「気になるなぁ」


 と言いつつ、里依はそれ以上食い下がらなかった。


 俺たちは移動を再開する。

 そして、スタート村が近づいてきたところで足を止めた。


「ん? なんだ?」


 友加里チームのメンバーが広場に集まっている。


「なんだか重々しい雰囲気?」


 里依が不安そうに俺を見る。


「寄ってみるか」


「大丈夫かな?」


「問題ないさ」


 俺たちはスタート村に入り、広場に近づく。

 広場にある絞首台の上で、友加里が力強い口調で話していた。


「この男――上原は禁忌を犯した! Cランク相当の働きしかしていないのにBランクの報酬を要求し、強引に享受しようとしたのだ!」


 友加里の隣には、後ろ手に縛られた男子・上原の姿があった。

 糸原と同じく、大我や深瀬の取り巻きだった軟弱なチャラ男だ。

 彼は椅子の上に立たされ、首には縄が掛かっている。

 口には猿ぐつわとしてタオルが詰め込まれていた。


「ここでは女のほうが上だと最初に言ったはずだ! それを忘れた者に容赦はしない! ルールに則り、上原を死刑に処す!」


 友加里の視線が上原の後ろに向かう。

 よく見ると、そこには糸原が立っていた。


「やりなさい、糸原」


 友加里が指示を出す。


 糸原は躊躇うことなく椅子を蹴飛ばした。


 上原の体がストンと落ち、左右にゆらゆらと揺れる。


「嗚呼……」


 自然と言葉が漏れる。


 死人が、出てしまった。

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