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014 今の気持ちを忘れないでいてほしい

第二章は週1更新でお送りします。

次の更新は12月18日金曜日の0時!

 大我との戦いに完全勝利した。

 明日からは、かつての日常を取り戻すために全力を尽くせるだろう。


 夜、俺は高揚感から眠れずにいた。

 勝利の余韻に浸っているのだ。


 一方で、多少の恐怖を抱いている。

 高揚感の源が、右目を失った大我だからだ。


 大我のことが怖いのではなく、自分のことが怖い。

 人を傷付けて喜ぶなんて、今まで考えられなかった。

 自分が自分でなくなっていくような気がした。


「うぅぅぅ」


 右の方から呻くような声が聞こえる。

 だが、声の主は、右隣の瀬奈ではない。


 里依だ。

 瀬奈の右隣で横になっている。


「ぐすん……ぐすん……!」


 泣いているようだ。


「大丈夫か?」


 俺は体を起こした。


「お、起こしちゃったかな……?」


「いや、俺も眠れなかった」


「そっか……」


 里依からは元気が感じられない。


「外、散歩しようか」


 寝間で話していると瀬奈が起きかねない。


「いいの?」


「もちろん、付き合うよ」


「ありがとう」


 俺は瀬奈の頭を撫でてから立ち上がり、里依と共に家を出た。


 外は静まり返っていた。

 スタート村と違い、家から灯りが漏れていることもない。


 里依と並んで歩く。


「夜風が少し肌寒いけど平気か?」


「うん、大丈夫――ヘクシッ!」


「大丈夫じゃないようだな」


「ご、ごめん」


「いいさ。適当な家に入ろう。エアコンがあるし」


「うん!」


 すぐ近くにあった空き家に入る。


「で、どうして泣いていたんだ?」


 小さなちゃぶ台を二人で囲む。


「えっと、それは……」


「言いたくないなら別に言わなくてもいいよ」


「ううん」


 里依は首を振り、それから話し始めた。


「大我君のことで泣いていたの」


「大我の? あいつに何かされたのか?」


「違うの、私がやっちゃった」


「どういうことだ? 二人は付き合っていたのか?」


 里依が「そんなまさかぁ」と笑う。


「そういうことじゃなくて、大我君の目のこと」


「スリングショットで撃ち抜いた右目か」


「そう。あれは私の石が当たったの」


「そうだったのか」


 一斉攻撃だったから、誰の攻撃か分からなかった。


「ナイス攻撃だったな、おかげで大勝利だぞ」


「そうだけど……あの右目、もう治らないよね……」


「無理だろうな」


 きっぱり断言する。

 できれば「そんなことないよ」と言いたかった。

 しかし、そのセリフは見え見えの嘘になるから言えない。


 大我の右目は完全に潰れていたのだ。

 眼球があったはずの場所に石が収まっていた。


「私……人の目を……壊しちゃった……!」


 里依が泣き出す。

 よほどショッキングだったのだろう。


 俺は里依の傍に移動し、彼女を抱きしめた。

 背中に左手を回し、右手で後頭部を撫でる。

 正座の女子を抱きしめるのは、これが初めてのことだった。


「風斗君は『気にするな』って言いたいんでしょ? 相手は敵だし、攻めてきたのは向こうだし、何もしなかったら私たちがやられていたから、気にすることなんかなにもないって、そう言いたいんでしょ?」


「…………」


 何も答えない。

 俺自身の考えとしては、里依の言い分で正解だ。

 ただ、俺が里依に言おうとしたセリフは違っていた。


「でも、私は、そう割り切れないの。私のやったことが間違いだったとは思っていないよ。それでも、右目から大量の血を流す大我君の姿が頭から離れない。なんてことをしてしまったんだって思いが強いの」


 しばらくの間、里依は泣きじゃくっていた。


 俺は黙って頭を撫で続ける。


「ごめん……迷惑かけちゃって……」


 ようやく落ち着いてきた。


「迷惑なんかじゃないさ」


 俺は撫で終えると、里依の目を見て言う。


「俺は『気にするな』なんて言う気はないよ」


「えっ」


「今の気持ちを忘れないでいてほしい……俺はそう言いたい」


「風斗君……」


「戦いに勝ったことは喜ぶべきだが、人を傷付けたことは悲しむべきだ。だから俺は、里依の感覚は正常だと思うよ」


「ありがとう、風斗君。すごく、すごく楽になった」


 里依のほうから抱きついてくる。

 その勢いは思ったより強くて、俺は押し倒されてしまった。


「あっ、ごめ……!」


 俺に跨がった状態で、里依は言った。

 彼女の手は、俺の顔の左右に突いている。

 頬は紅潮していて、熱い吐息が俺の顔にかかった。


「大丈夫だよ」


 そう俺が言っても、里依は離れない。

 それどころか、おもむろに唇を近づけてきた。

 互いの唇が重なる。


「ご、ごめん、本当にごめん!」


 里依は慌てて体を起こした。


「謝らなくていい」


 今度は俺が里依を押し倒す。

 体を重ね、こちらからキスした。


 里依の頬が尚更に赤くなる。

 舌を絡めると、その赤みは最高潮に達した。


「何もかも、俺が忘れさせてやる」


「うん……」


 里依は目を瞑り、俺に身を委ねた。


 ◇


 翌日。


「あのさぁ」


 という、瀬奈の呆れた声で目を覚ました。

 隣で眠っていた里依も、同じタイミングで起きる。


「これは、つまり、そういうことだな!? 鷹野!」


 瀬奈の横で、吉井が眼鏡をクイクイしまくりだ。


「えーっと……その……」


 上半身を起こしたところで思い出す。

 瀬奈の寝ている家に戻らず、そのまま寝てしまったのだと。

 寝間でちょいと一休みするつもりが、気づくと今になっていた。


「ど、どういうことかな!? 俺には分からん!」


「私も! その、これは、違うからね!? 瀬奈!」


 俺たちは慌てて服を着て、逃げるように家を飛び出した。


 ◇


 遅めの朝食が済み、昼過ぎから本日の作業へ。


「それで、里依とも深い仲のお友達になった鷹野風斗は、私たちをどう導いてくれるのかしら?」


 皮肉たっぷりの言葉と共に、瀬奈が睨みつけてくる。


「だから悪かったって!」


 と言いつつ、俺は今日の活動内容を考える。

 考えがまとまり、それを説明しようとした時、吉井が気づいた。


「誰かが近づいてくるぞ」


 スタート村の方角から二人の女子が歩いてくる。

 紺色のミディアムが特徴的な松本裕美(ゆみ)と、茶色いポニーテールの須藤若葉(わかば)だ。

 いつも二人で連んでいる、クラスでも有名な百合コンビ。

 瀬奈や里依と同じく、可愛いのに男っ気がないことで知られている。


「やっほい、鷹野っち!」


 若葉が馴れ馴れしい態度で手を挙げる。

 ちなみに、俺と若葉が話したのは今回で2度目だ。

 決して「鷹野っち」と呼ばれる間柄ではなかった。


「こんなところに来てどうしたんだ?」


 村の手前で、俺は二人に尋ねた。


「私たちも混ぜてもらえないかな?」


 裕美が答えた。


「俺の指示に従ってくれるなら歓迎するよ」


「問題なーし!」と若葉が快諾。


 裕美も「もちろん」と承諾し、二人の加入が決まった。


「ところで、大我はどうした? 脱退を認めてはくれないだろ」


「あー、そっか、鷹野っちは知らないんだよね」


 ここで若葉の顔から笑みが消える。

 そして、彼女は冷たさのある口調で言った。


「大我っちなら死んだよ」


「「「「えっ」」」」


 固まる俺たち。


「死んだのって、目を怪我したから……?」


 里依が涙目で尋ねる。


 若葉は「んーん」と首を振った。


「糸原っちが殺したの」


「まじかよ」


 信じられなかった。

 糸原は人を殺してまで上に立つ男ではない。

 常に誰かの下について動くタイプだ。


「大我を殺して、糸原が仕切り始めたわけか」


「ちょいと違うかなぁ」


 またしても首を振る若葉。


「新しく仕切ってるのは友加里(ゆかり)だよ。東雲(しののめ)友加里」


「なんだって!?」


 東雲友加里は、黒髪ロングの可愛い女だ。

 学校では物静かな清楚系として知られていた。

 争いとは無縁の……図書委員が似合うタイプだ。


 俺たちはひどく困惑した。

お読みくださりありがとうございます。


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