013 第一章エピローグ:新しい時代の幕開けだ
大我にとって、俺との戦いは死活問題だ。
暴力による支配において必要なのは、絶対的な力である。
戦いに負けるということは力不足であることを意味する。
しかも、相手が戦力差の著しい俺たちともなれば尚更だ。
支配力を維持する為に敗北は許されない。絶対に。
だから、大我は日が暮れる頃に攻めてくると睨んでいた。
それまで大人しく拠点で過ごし、時が来たら一斉に動き出す。
この予想が当たるかは半々というところだった。
外れても問題なかったが、幸いなことに的中した。
「鷹野、大我が、大我が動き出した! おそらく1時間もしない内に攻めてくるはずだ!」
吉井が駆け足で戻ってきた。
彼は俺の指示によって、昼前からスタート村を見張っていた。
勝敗を決めるのに必要なのは情報だ。
敵が攻めてくる時間が分かるだけでも大きく違った。
「準備するぞ」
俺、瀬奈、里依は、ポケットの中を小石で満たす。
「吉井、お前も一緒に戦うぞ」
それから、昼に作っておいたスリングショットを吉井に渡した。
「こ、これが……武器?」
「スリングショットだ。使い方は分かるな?」
「分かるが、これで大丈夫なのか? というか、僕に教えてよかったのか?」
「お前は偵察任務を立派にこなした。もう疑っていないよ。そして、この武器はお前が思っているよりも遥かに強烈だ。信じろ」
スリングショットの弾丸となる小石を吉井に渡す。
「よし、森に行こう」
皆で村を出る。
「森に!? 何しに行くんだ?」
「決まっているだろ、待ち伏せだ」
「待ち伏せ……!?」
「今回、大我は二つの条件を満たすことで完全勝利となる。一つは俺やお前をぶっ倒すこと。そしてもう一つは、自身が無傷でいることだ」
「無傷で?」
「擦り傷程度の怪我ならいいが、重傷は望ましくない」
「そうか! 怪我をすると暴力で支配するのが難しくなる!」
「その通りだ。よって、大我は必ず安全策に打って出る。兵隊を突撃させて、自分は後方に待機するはずだ」
「たしかに」
「森に待ち伏せしている俺たちは、そこを突く。まずはスリングショットで大我を負傷させ、それから他の連中に反撃する。スリングショットなら逃げながら攻撃できるから、もし追われることになったら、森の中で散開しながら応戦だ」
「そこまで考えているとは……!」
吉井が感嘆する中、いよいよその時はやってきた。
「吉井の情報通りだ」
大我たちがやってきた。
待ち伏せされているとは知らず、馬鹿正直に道を歩いている。
「声が聞こえるとまずい。俺が合図するまで黙っていろよ」
三人が頷いた。
大我たちがポテチ村に近づいていく。
それはつまり、俺たちにも近づいているということ。
俺たちがいるのは、村から約50メートルの距離にある森だから。
「行け!」
大我の指示で、角材を持った連中が村に突っ込む。
幸いなことに、大我は自分の傍に護衛を残さなかった。
「俺たちも行くぞ!」
約20人の男子が村に駆け込むのと同時に、俺たちは森から飛び出した。
「なっ! どうして森から!?」
突如として現れた俺たちに驚く大我。
「戦力に差があるからって油断したな。お前の考えることなどお見通しだ!」
俺たちは一斉に小石を放った。
スリングショットのゴムを極限まで引っ張った一撃だ。
「ぐぁぁぁ!」
4つの小石が大我に命中する。
腕、膝、胴体――そして、目に当たった。
強烈だったのは目に対する攻撃だ。
かすったのではなく、真正面から直撃した。
「目! 俺の右目がぁああああああ!」
大我が右目を押さえながら崩落する。
指と指の間から血がドバドバ溢れていた。
やり過ぎたかな、と思ってしまうほどだ。
おそらく右は完全に破壊された。
「「「大我様!」」」
大我の悲鳴が聞こえたのか、他の連中が戻ってきた。
どういうわけか、彼らは大我のことを様付けで呼んでいる。
おそらく主従関係を分からせるためにそうしたのだろう。
「来たぞ! 応戦しろ!」
俺たちは弾丸を装填し、小石の雨を浴びせる。
「なんだ、石が――ギャアアアア!」
「こ、こんなの、近づけねぇ!」
スリングショットの強さは、俺たちの想像を超えていた。
その場に棒立ちの状態で連射していても問題ない。
相手は怯んで距離を詰められないでいるのだ。
森の中で散開して逃げ撃ち……などという策は必要なかった。
「どうだ! まだやるか! オラァ!」
俺は追加の一撃を大我にぶちこんだ。
左目を狙ったが、少し逸れて、目の下の頬骨に当たる。
「左目までやられたら何も見えなくなるぞ! それでもいいのか!?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
それは、大我らしからぬ恐怖に駆られた声だった。
「逃げるぞ! 逃げろ! 逃げるんだ!」
大我は俺たちに背を向けて走り出す。
それによって、他の連中も角材を投げ捨てて逃げていった。
「本当に勝っちゃった……!」
逃げゆく大我たちを眺めながら、里依が呟く。
「これほどあっさり……! 信じられん……!」
吉井は口を半開きにして固まっている。
「流石だね、風斗」
瀬奈が俺に向かって微笑んだ。
「完全に終わったとは言い切れないが、これでしばらくは平和だろう」
俺は笑みを浮かべ、そして、勝ち鬨を上げた。
☆★☆★☆
「目が、目がぁ……!」
家に戻った大我は、寝間でもがき苦しんでいた。
潰れた右目の眼球を押さえ、激痛に顔を歪める。
左目からは涙がとめどなく流れていた。
かれこれ2時間はそうしている。
もはや他の人間に指示を出す余裕などなかった。
当然ながら癒やし隊も機能していない。
「大我様、大丈夫っすか?」
そこへ、糸原がやってきた。
「だ、大丈夫なものかよ! 見たら分かるだろ! アホが!」
大我は渾身の力で怒鳴る。
だが、その言葉は弱々しかった。
糸原はビビる様子もなく、ニヤニヤと笑う。
「安心してください、大我様」
糸原は大我に馬乗りになった。
「糸原、お前、何を」
驚く大我の声を無視して、糸原が両手を伸ばす。
彼の手は大我の首を捉えた。
次の瞬間、全力で締め付け、全身の体重を乗せる。
「ガッ……ガガッ……」
大我は声を出せない。
弱っていることもあり、振り払うこともできなかった。
「俺、二組の佐竹が嫌いって言ったじゃないすか?」
苦しむ大我に向かって、糸原は下卑た笑みを浮かべる。
「あんたや深瀬のことはもっと嫌いだったんだよ。それでもあんたらにペコペコしていたのは女にありつけるからだ。残飯処理と言われようとも、あんたらの捨てる女は上玉ばかりだからな。だが、それすら無理になったあんたに価値はねぇ」
「ガハァ………………」
大我の手から力が消える。
糸原の手首を掴んでいた手が、たらりと床に落ちた。
それでもしばらくの間、糸原は首を絞め続けていた。
万が一にでも大我が生きていると困るからだ。
「はぁ……はぁ……これで……大丈夫だろう……!」
大我の死を確信してから、糸原は立ち上がる。
「新しい時代の幕開けだ」
そう言って、糸原は大我の家をあとにした。
これにて第一章終了です
第二章は11日金曜日からスタート!
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