012 ☆大我陣営
風斗たちが村を出てから約半日が経過した、夕暮れ時のこと。
「大我さん、角材の調達が完了しました!」
クラスの中でも冴えない男子が、一軒の家に駆け込んだ。
彼は靴を脱がず、上半身だけ居間に乗り上げ、そっと寝室に目を向ける。
そして、小さくニヤリと笑う。
そこには、数名の女子を侍らす大我の姿があった。
「そうか、よくやった」
大我は立ち上がり、服を着ると、居間に向かった。
そして、報告に来た男子の顔面に蹴りを食らわす。
「ど……どうして……」
「どうしてだぁ!? そんなの決まってるだろ! お前が俺のことをさん付けで呼んだからだ。俺、言ったよな? 俺のことは『大我様』と呼べって」
風斗たちが村を出てすぐに、大我はある方針を打ち出していた。
癒やし隊制度と並ぶその方針は、敬称を付けて敬語を使わせること。
上下関係を明確にするためのものだ。
この『様付け絶対ルール』は、破ると鉄拳制裁に処される。
それは、糸原などの取り巻きにも適用された。
「す、すみません……大我様……」
「それでいい」
大我は男子の顔に唾を吐き、靴を履いて外に出る。
広場の近くに、手頃な太さの角材が山積みになっている。
中には、海老沢が用いた物と同じ大きさの角杭もあった。
「これだけあれば今すぐにでも鷹野のことぶっ殺せるぜ」
大我は風斗に対し、明確な殺意を抱いていた。
風斗を殺すことによって、自分の力をさらに誇示したい考えだ。
「だが、決行は明日だな……」
既に日が暮れている。
今から風斗がいるであろう村に乗り込むのは大変だった。
到着するまでに夜が訪れてしまう。
それに、男子の大半が角材の調達などで疲れ果てていた。
癒やし隊を出動させる頃合いでもある。
総合的に勘案すると、決行は最短でも明日が望ましかった。
「いや、いやぁぁ!」
「離してぇ! やだぁ!」
そこら中から女子の悲鳴が聞こえてきた。
本日の癒やし隊に選ばれた5人の女子が抵抗している。
「働きもしねぇで癒やすのも嫌とかふざけんなよ!」
糸原が女子の腕を引っ張り、自分の家に連れ込もうとする。
彼は風斗との戦いぶりを評価されて、癒やされる権利を獲得していた。
「やだぁ! だれか、助けてぇ!」
女子が必死の抵抗を見せる。
他の癒やし隊は、抵抗虚しく、家の中へ連れ込まれた。
糸原が苦戦しているのは、利き腕を負傷しているからだろう。
女子を引っ張るたびに、彼の顔は痛そうに歪んでいた。
「よせ、糸原」
「た、大我! ……様!」
大我が割って入った。
女子は怯えた様子で大我を見る。
「お前、この女に癒やされたいのか? 他じゃダメなのか?」
「は、はい! だってコイツ、二組の佐竹と付き合ってるんだ。知ってますよね!? 俺、アイツのこと大嫌いなんですよ! だから、ここでアイツの女を侍らしてやりたいんです!」
「なるほど」
大我の視線が女子に向かう。
「お前は癒やし隊として働くのが嫌なのか?」
「は、はい、嫌です。お願いします、何か別の仕事を……」
「よかろう」
「大我様!」
突っかかる糸原。
「まぁまぁ」
大我はそれだけ言って、女子の背中に手を当てた。
「ついてこい」
女子を連れて歩き出す大我。
他の生徒たちは、遠巻きに様子を見守る。
「た、大我様……? なにを……?」
やってきたのは絞首台だった。
「吊れ」
「えっ……!」
「俺は癒やし隊になることを強制していない。男がローテーションを組んで行う危険な作業に参加するなら癒やし隊の仕事を免除すると言っている。にもかかわらず、お前はこのザマだ。癒やし隊にならないなら、首を吊ってもらう」
「そんな……!」
「女だから甘えられると思ったか? ちょっと顔がいいから好き放題にできると思ったか? 甘えるなよ。俺の王国では美女もブスもイケメンもブサメンも全て平等だ」
「「「大我様ぁ! 流石でございます!」」」
かつて「陰キャ」と呼ばれた連中が拍手する。
その中には、先ほど大我に唾をかけられた男もいた。
「さぁどうする? 癒やし隊の仕事をするか? それとも死ぬか?」
皆が見守る中、女子は答えを出した。
「癒やし隊として働きます……」
「よかろう」
大我は女子と共に絞首台から降り、糸原のもとへ向かう。
「これで解決だ」
「あ、ありがとうございます、大我様!」
「おう。癒やされてこいよ」
「はい!」
糸原は下卑た笑みを浮かべ、女子の肩に腕を回す。
「さぁたっぷり癒やしてもらうからな、ヒヒヒ」
「うぅ……うぅぅぅ……」
女子は呻き、涙を流すが、抵抗はしなかった。
(いい感じだ)
大我はこうして求心力の向上に努めていた。
クーデターが起きないよう、全ての男子に配慮する。
「待っていろ、鷹野。瀬奈は俺のモノだ……!」
1年の頃から、大我は瀬奈のことが好きだった。
他の誰よりも可愛くて、クールな感じなのがたまらない。
見た目通り肉食系の彼は、過去に何度も瀬奈にアタックしていた。
他の女を取っ替え引っ替えしながら、影で執拗に迫っていたのだ。
しかし、1度たりとも上手くいかなかった。
付き合う以前の問題で、デートすら断られる始末だ。
それが余計に彼を燃え上がらせていた。
そこに現れたのが風斗だ。
万里子を慰み者にしたあの夜のことを、大我はよく覚えている。
風斗と手を繋ぐ瀬奈を見て、彼は心の底から絶望した。
それと同時に、嫉妬の気持ちが爆発した。
「ここでは俺が王だ。欲しい物を全て手に入れる権利が、俺にはある」
自分にそう言い聞かせて、大我は家に戻った。
◇
大我陣営の4日目はスロースタートだった。
村の外へ出ることは禁じ、行動は最小限に留めさせる。
日が暮れる手前まで体力を温存させるのが狙いだ。
これは風斗との戦いで勝つための策だ。
作業を終えて疲れている風斗に対し、大我陣営は元気十分。
加えて、数の力とリーチのある角材による攻撃。
十重二十重に組み上げた勝利の方程式だ。
「そろそろいいだろう」
16時過ぎ、大我が動き出す。
男子19人を率いて、彼はポテチ村を目指した。
「お前ら、気を抜くなよ。俺たちが攻め込むことはおそらくバレている」
行軍中も油断しない大我。
「どうしてバレてるんすか?」と糸原。
「インテリ野郎がいつの間にか抜けてやがったからな」
吉井のことだ。
「あいつはきっと鷹野のところへ行っている。俺たちの考えを話しているに違いない」
「だったら、連中は逃げているんじゃないですか? 角材のことも分かってるならビビって戦えないですよ」
「それならそれでいいさ。奴等の村を燃やし尽くしてやるのみだ」
「そこまでしますか。流石は大我様っす」
「ふふふ」
ほどなくして、大我たちの視界にポテチ村が映る。
時刻は17時過ぎ。
夕暮れが訪れようとしている、そんな頃。
「男は殺して女は連れ帰るぞ! 最も頑張った奴には、里依で癒やされる権利を与える!」
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
男子の多くが歓声を上げる。
里依は瀬奈よりも話しやすいことから、瀬奈以上に人気が高い。
「行け! 鷹野と吉井の首を取ってこい!」
大我の号令により、戦争が始まった。
19人の男子が意気揚々とポテチ村に突撃していく。
そして、その号令が戦争終了の合図にもなるのであった――。
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