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011 長期戦になるぞ、島での暮らしは

お読みくださりありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

 倒れた吉井を担いで家に連れて行こう。

 だがその前に、周囲の確認をしておかなくては。

 吉井を囮に攻めてきている可能性がある。


「と思ったが、問題なさそうだな」


 大我の手先が攻めてくる気配はない。

 海沿いの道と北にそびえる森、どちらも安全だ。


「吉井君!?」


「大丈夫なの?」


 里依と瀬奈は、気を失った吉井を見て驚く。


「問題ないとは思うが、まだ回復しきっていないようだ」


 とりあえず、吉井を居間に寝かせた。

 その際、彼の懐やポケットを漁っておく。

 実は大我の手先……という可能性もあるからだ。


「何も隠し持っていないな」


 吉井の荷物はバックパックと杖代わりの棒だけだ。

 バックパックの中は着替えと予備の眼鏡しか入っていない。


「怪我の影響なのか熱があるぞ」


 吉井の体は明らかに熱かった。


「タンスの中に救急箱があるはず」と瀬奈。


「そうなのか」


 知らなかった。

 早速、救急箱を調べる。


 救急箱の中には少量の薬や包帯が入っていた。

 本当に昔ながらの救急箱といった感じだ。

 祖母の家で同じような物を見たことがある。


「解熱剤があるな」


「解熱剤はあまり使わないほうがいいらしいよ」


 瀬奈の言葉に「だな」と同意する。


 発熱はウイルスや細菌から体を守るために起こるものだ。

 解熱剤はそれを妨げることになるので、使用は望ましくない。


「熱のせいでメシや水分の補給に難があるなら使う感じでいいだろう」


「そうだね」


 細かいことは吉井が起きてからだ。


「メシでも食って気長に待つとしよう」


 俺たちは小さなちゃぶ台を囲み、テレビを観ながらご飯を食べ始めた。


 ◇


 吉井が目を覚ましたのは食事のすぐあとだ。

 おもむろに体を起こし、「ここは……」とキョロキョロ。


「俺たちの家だよ」


 背後から声を掛けたからか、吉井は驚いて跳びはねた。

 それから俺を見て安堵の表情を浮かべる。


「体調は大丈夫か?」


「だいぶマシになった」


「ならよかった。メシは食うよな? お前の分も作っておいたぞ」


 浴室へ目を向けて、「里依と瀬奈がな」と付け加える。


「あ、ありがとう。だが、その前に話を聞いてくれ」


「いいだろう」


 吉井の前にお茶の入ったコップを置く。

 そのあと、ちゃぶ台を挟んで向かいに座った。


 吉井は礼を言ってからお茶を飲み、そして話し始める。


「まず最初の用件だが、僕は敵じゃない。仲間にしてほしくて来たんだ」


「分かってるよ。で、お前の加入は歓迎する」


「そんなにあっさり……いいのか?」


「人手が必要だし、お前はよく頑張っていたからな。ただし、ここでは俺がリーダーだ。ここで活動するなら俺の方針に従ってもらう」


「問題ない」


「で、他には?」


「大我は明日にでも攻めてくる。別の場所に逃げたほうがいい」


「それも想定の範囲内だが、逃げるつもりはない」


「正気か!? 数の差がありすぎる!」


「俺たちは戦いに備えているからな」


「聞いたよ、石包丁だろ? 僕が気を失っている間に、それで糸原の腕を切り裂いたそうだな。だが、石包丁では敵わないぞ。大我はリーチのある武器で戦えば楽勝だと豪語している。多くの男子が周辺の小屋から角材を調達させられていた」


「それもまた想定通りだ」


「そ、そこまで読んでいるのか!?」


「容易に考えられることだし、驚くほどじゃない」


「信じられん……!」


 吉井は愕然としていた。

 まるで切断マジックを見た子供のような顔だ。


「ど、どうやって戦うつもりなんだ?」


「それは――」


 言おうとしたが、先の言葉が出なかった。


 迷いが生じたのだ。

 もしかしたら吉井はスパイかもしれない。

 その疑惑を払拭しきれなかった。


「僕がスパイかもしれないと疑っているわけか」


 心を読まれた。

 素直に「まぁな」と認めておく。


「なら内緒のままでかまわない。僕が君の立場でもそうするだろう」


「そんなわけで逃げる気はないが、それでも問題ないかな?」


「大丈夫だ。こちらのことを信じてもらうためにも、僕は君の判断を信じる」


 吉井が握手を促してくるので、俺はそれに応じた。


「まだ本調子とはいかないが、明日からは僕も作業に加わるよ」


「いや、明日からではなく、今からお願いしよう。メシはそれからだ」


「今からだって? 流石にまだ体がきついのだが……」


「大丈夫、これからやるのは火熾しだから」


 俺は立ち上がり、吉井を連れて外に向かう。


「この辺りでいいか」


 周囲に引火しそうな物がないことを確認して、地べたに座り込む。

 吉井は俺の約3メートル前方に腰を下ろした。


「これを使って火を熾す訓練だ」


 俺は火熾し道具を取り出した。

 道具は二つあって、一つは切れ込みの入った長方形の木の板だ。


 もう1つは横に長い取っ手のついた木の棒だ。

 取っ手の両端からは、棒の先端に向かって紐が伸びていた。

 この紐によって、取っ手を上下に動かすと、棒が素早く回転する。

 取っ手の下に付いている円盤のような板が、回転を安定させる。


 俗に「まいぎり式」と呼ばれる方法だ。


「火の熾し方はいたって簡単だ。板の切れ込みに棒を突き刺し、素早く回転させるだけでいい。それで火種を作ったら、枯れ草なんかに移して、息を吹き込めば火が点く」


「本で見た記憶があるな」


「思っている以上に簡単だから、実際にやってみると驚くぞ」


 俺や瀬奈、それに里依は既に火熾しを成功させている。

 3人とも作業開始から2~3分で完了した。


「やってみよう」


 吉井がまいぎり式の道具を手に持って挑戦する。

 案の定、ものの数分で火種を作ることに成功した。


「あとはその火種を火口(ほくち)――枯れ草などの最初に燃やす、燃えやすい物――に移して酸素を送れば終わりだが、今は火口を用意していないのでここまでだ」


「たしかに簡単だ」


 今にも消えそうな燻る火種を見つめて、吉井は満足げな表情を浮かべる。

 彼の気持ちは理解できた。

 俺たちも火種を作った時は同じような表情を浮かべたものだ。

 慣れない原始的な作業には、妙な特別感があった。


「これで訓練は終わりだ。お疲れ様、吉井。あとは適当な家で休んでくれ。一人にさせて悪いが、我が家は既に手狭でな」


「問題ないさ」


 吉井は火熾し道具を俺に渡して立ち上がる。


「質問だが、どうして火熾しの練習をしているんだ? それにこの火熾し道具、わざわざ作ったものだろ? これも大我との戦いに関係があるのか?」


「いや、これは関係ないよ」


 俺も立ち上がる。


「俺はインフラが停止した時に備えて行動している」


「インフラが停止だと……?」


「ああ、その可能性がないとは言い切れない。もしかしたら明日にでも止まるかもしれないからな。にもかかわらず、俺たちはこの島で長期的な生活を送ることになる。備えあれば憂いなしだ」


「待て待て、長期的な生活を送るってどういうことだ?」


「そのままさ」


 俺は空を見上げながら言う。


「どういう意図かは不明だが、俺たちをこの島に連れてきた連中は、何が何でもこの島で生活させたいようだからな。そのための準備をかなり周到にしている。それはロッカーを見ても分かる通りだ。で、そんな奴等が外部との連絡手段を完全に排除してきている」


 そこで言葉を句切り、さらに続けた。


「だから断言できる――長期戦になるぞ、島での暮らしは」


「既にそこまで考えて動いていたのか……! 大我の襲撃を予測していることといい、君の読みの深さは一体どうなっているんだ……!」


 吉井は口をポカンと開いて驚いていた。


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