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010 大我は必ず襲撃してくる

 ポテチを堪能したので行動開始だ。


「今の俺たちがするべきことは、大きく分けて3つある」


 話しながら、村にある田畑へ向かう。


「1つ目はインフラが停止した時に対しての備えを充実させることだ」


「具体的には?」


 俺の右を歩く瀬奈が訊いてくる。


「火熾しの練習や水源・食料の確保だな。優先度は火、水、メシの順になる」


「水より火のほうが大事なんだ?」


「俺はそう思うが、ぶっちゃけ、その2つはどちらも同じくらいだ」


 まずは全ての家の裏にある畑を見て回る。

 家庭菜園用の小規模な畑で、作物は家によって異なっていた。


「メシに関しては、田畑を維持できれば問題ないと思うが……」


 ここで問題が発生した。


「畑の質がよく分からないな」


 俺は農家ではないので、畑を見てもそれほど情報を得られない。

 プロの農家だと、土を握っただけでその畑の質が分かるそうだ。


「どの畑もすごくいい感じだよ!」


 力強い口調でそう言い放つのは里依だ。


「分かるのか?」


 里依は「うん!」と大きく頷いた。


「私、家が農家なの! それに自分でも家庭菜園をやってる!」


「それはすごいな。これらの畑や田んぼを維持するのは楽か?」


「人手があれば苦労しないと思う。必要な物は一通り揃っているから。しっかり手入れしてあげたら、長く使えるよ!」


「人手か……」


 俺たちの欠点が頭数だ。

 安定的に今の環境を持続させるなら、最低でも数十人は欲しい。

 欲を言えば100人くらい同志がいると助かる。


 だが、実際には3人しかいない。

 これでは休みなく働いたとしても、田畑の維持は難しい。

 このままだと、いくつかの畑を放棄することになる。


「ま、メシに関してはどうにでもなりそうだな」


 仮に田畑が維持できなくても問題ない。

 森にいけばいくらでも栄養価の高い食べ物があるからだ。


 その代表格がバナナである。

 バナナは殖やすのも容易だし、絶えることは考えられない。


「そうなったら、あとは火熾しと水源の確保だが……それらは後回しだ」


「え、後回しでいいの?」


 瀬奈が驚く。


「火熾しの練習は夜でもできるからな。水源についても、1~2ヶ月は困らないはずだ。全ての家に大量の水が備蓄されているからな」


 各家庭の土間に、2リットルのペットボトル飲料水が備蓄されている。

 数は1軒の家につき約100本、ダンボールの箱で山積みだ。

 仮に水道が死んでも、この水を使えばどうにかなるだろう。


「次に、するべきことの2つ目だが、それは周辺の探索だ」


 島の全容を把握することで、事態が好転する可能性もある。

 例えば、俺たちは島の南側にいるが、北側はどうなっているのか。

 もしかしたら、この島を脱出するための船が手に入るかもしれない。


 仮に何もなかったとしても、何もなかったという情報は得られる。

 周辺を探索して島の資源や設備を把握することの意味は大きい。


「――が、これも後回しでいいだろう」


 島の探索は時間がかかる。

 それに、効率を求めるなら人手が必要だ。

 人手の足りていない俺たちが優先的に取り組むようなことではない。


「そこでするべきことの3つ目、戦闘力の強化だ。これを最優先で行う」


 瀬奈と里依の顔に驚きの色は見られない。

 分かっていたのだろう。

 それでも俺は説明しておいた。


「大我は必ず襲撃してくる。おそらく出張ってくるのは男だけだ。となると、敵の兵力は最大で20人程度。対するこちらは3人。単純計算で約7倍の差となる。いくら俺たちに石包丁があるからといって、太刀打ちできる戦力差ではない」


 真っ向勝負の戦いになった場合、石包丁は武器として不適格だ。

 最大の欠点はリーチが短いこと。

 短剣よりもさらに短いので、攻撃するには密着する必要がある。


「石包丁のことは知られてしまったから、大我も対策してくるだろう」


「対策って?」と瀬奈。


「リーチの長い武器を使ってくる」


「槍とか?」


「そうだ。今のところ、包丁や剣といった直接的な武器は見つかっていないが、それでも武器は転がっているからな。例えば森の小屋にあるような角材や角杭だ。ああいうのは武器として使えるだろう」


「対抗する術はあるの……?」


 瀬奈の顔が青くなっていくのが分かる。


 俺は「ある」と断言して、彼女を安心させた。


「その為の武器を今から作る」


 こうして俺は、村の中にある材料で武器を作り始めた。

 俺だけでなく、女子でも安心して使える優秀な武器を。


「よし、できたぞ!」


 微調整も含めて、2時間で完成した。


「これが大我に対抗するための武器――」


 その名は。


「――スリングショットだ!」


 それは、Y字の木にゴム紐を張った物。


 使い方は簡単だ。

 弾をゴム紐に掛けて、思いっきり引っ張り、離せば飛ぶ。

 大きささえ合えば、どんな物でも手軽に弾として飛ばせる。


 パチンコとも呼ばれるこの武器は、見かけに反して強力だ。

 威力を高めた物であれば、一撃で相手の息の根を止めることもできる。


「この武器の利点は扱いやすいことだ」


 二人と共に、スリングショットを持って近くの森へ。

 手頃なサイズの石塊を弾丸に見立てて、前方の木に向かって放った。


 ガッ!


 小気味よい音と共に、木の表面が軽く抉れた。

 同じ威力を人間に食らわせたら、それなりのダメージは確実だ。


「二人もやってみるといい」


「うん」


「分かった!」


 瀬奈と里依もスリングショットで石を跳ばす。

 そして、笑えない威力に「おー」と感嘆した。


「これで近づかれる前に数を減らせる。あとは接近戦に対する備えだな」


 俺は二人と共に村へ戻り、それから新たな武器を作る。


「できれば使いたくないが、これもなかなか強烈だぜ」


 俺は作りたての武器――石斧を掲げる。

 石包丁と同じ要領で作った磨製石器を、木の柄に括り付けた物。


「柄がある分、石包丁よりリーチが長い。それに使い勝手も向上している」


 ぶんぶん、と石斧を振り回す。

 思っていたよりもずっしりした重さが感じられる。


「やっぱり斧は重いね」


「私は石包丁のほうが使いやすいかも……風斗君、ごめん」


「いや、問題ないさ。非常用の武器だし」


 石斧を使うのは最終手段だ。

 できればスリングショットで戦いを終わらせたい。


「なんだかんだしていると日が暮れてきたな」


 いつの間にか夕暮れ時になっていた。


「私、ご飯を作るよ!」


 里依が調理当番に立候補する。


「私も手伝うね」


 それに瀬奈が続いた。


「じゃあ俺も」


 と言ったところ、二人に止められた。


「風斗はゆっくりしていて」


「働き過ぎはダメだよ、風斗君」


「はいよ。じゃあ、警備がてら村の中を散歩しておくよ」


 二人を土間に残し、俺は家を出た。


(大我との戦闘に備えて罠を張るべきか)


 そんなことを考えながら、村の西側をウロウロ。

 すると、スタート村の方から誰かやってきた。


「もう攻めてきたのか!?」


 ポケットに忍ばせていたスリングショットを取り出す。

 素早く地面を見渡し、弾丸になりそうな石コロを確保。


「来るなら来い!」


 と思ったが、やってきたのは敵ではなかった。


「鷹野……僕だ……敵意はない……」


 吉井だ。

 木の棒を杖代わりにして、フラフラしながら近づいてくる。

 ロッカーに予備が入っていたらしく、眼鏡は新品になっていた。


「たか……の……」


 村まで残り20メートルの距離で、吉井は倒れた。

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