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001 ざまぁ! 圧倒的にざまぁ!

 最後の記憶は、勉強合宿の合宿先へ向かうバスの中だった。

 大学受験を約半年後に控えた9月半ばのことだ。


「うっ……なんだ……」


 気がつくと、俺はどこかの砂浜に倒れていた。

 いや、『俺は』ではなく『俺たちは』だ。

 俺の他にも、同じクラスの全生徒が一緒だった。


「何が起きているのよ」


「なんなんだよ、マジで」


 次々に目を覚ましていき、そして、混乱する。

 俺にも何が何やら分からなかった。


 そんな中、眼鏡の男が手を叩いた。

 見た目に反して微妙な成績の吉井だ

 皆の視線が彼に集まった。


「とりあえず救助を求めようか」


 吉井は眼鏡をクイッとしたあと、ある方向を指した。

 綺麗な海を背にして左手だ。


「ここがどこで、我々がどういう状況なのかは分からない。しかし、不幸中の幸いと言うべきか、あそこに集落が見える」


 そこには木造の民家が並んでいた。

 遠目にも古くさい感じがよく分かる。


「あそこに行けば救助を要請できるだろう」


 誰もが納得した。


「では行こうか」


 歩きだす吉井。

 眼鏡をクイッとすることも忘れない。


 俺たちは、吉井の後ろにぞろぞろと続いた。

 誰の顔を見渡しても不安そうだ。

 俺も例外ではない。


 40人もいるのに、現状を説明できる者は1人もいなかった。


 ◇


 集落が近づいてきた時点から薄々と感じていた。

 だが、確信したのは到着したあとだ。


「おいおい、廃村じゃねぇか」


 チャラ男の深瀬が言う。

 弱い者イジメが好きなくせにモテる……いけ好かない奴だ。


「これは想定外」


 吉井は苦悶の表情を浮かべる。


「すみませーん、誰かいませんかー?」


 見るからに廃村だが、念のために手分けして声を掛ける。

 見ての通り廃村なので、民家の中は静まり返ったままだった。


「おっ、扉が開いてるぜ?」


 男子の一人が民家の引き戸を開ける。

 さらに、そのまま中へ入っていく。


「勝手に入ったらまずくない?」


「やめたほうがいいよ」


 女子を中心に制止する声が上がる。

 しかし、その声に何の効力もなかった。


 結局、全員が手分けして各民家を物色する。

 最初の一人が入ると、あとはもう止まらなかった。

 赤信号も皆で渡れば怖くない。


 家の中は、江戸時代にありそうな雰囲気だった。

 土間から始まり、居間を経由して、寝間に至る。


 土間とは、玄関とキッチンを合わせたような空間のこと。

 調理用のかまどや調理器具、それに山積みの食糧があった。

 具体的には、米俵やペットボトルの水だ。


 また、居間から浴室やトイレに行くこともできる。

 トイレはまさかの洋式だった。


「不思議な場所だな……」


 いくつかの民家を見て回った俺の感想だ。


「どう不思議なの?」


 銀のミディアムが特徴的な西川(にしかわ)瀬奈(せな)が尋ねてきた。

 独り言のつもりだったが、聞こえていたようだ。


 この家には俺しかいないと思ったので驚いた。

 いつから隣に立っていたのだろうか。

 それはそれとして、俺は質問に答えた。


「全てだよ。例えば、どの民家も間取りや内装が同じという点。それに加えて、生活感がまるでないし、電話が置いていないのも気味が悪い」


「たしかに。他には?」


「無人なのに埃がそれほど積もっていない。まるで最近まで人が住んでいたかのようだ」


「そうだね」


「人が住んでいたといえば、インフラが生きている点も引っかかる。電気、ガス、水道……3点とも問題なく使える。それも全ての家でだ」


 キッチンに行って蛇口を捻る。

 綺麗な水道水が勢いよく出てきた。


「それで不思議な場所に感じたわけだ? 鷹野風斗(たかのかざと)は」


「そういうことになる――って、なんでフルネームで呼ぶんだ?」


「苗字か下の名前、どっちで呼べばいいか分からなくて」


「風斗でいいよ」


「なら私のことも瀬奈って呼んでね」


 俺と瀬奈は家を出た。


「集まってくれ」


 吉井は、広場らしきスペースに全員を集めた。


「ここからは4つのグループに分かれて行動しよう」


「どうしてだ?」


 俺が尋ねると、吉井は眼鏡をクイッとした。


「速やかな救助が望めない以上、今は少しでも情報を集めるべきと判断する。しかし、40人で一緒に動いていては非効率的だ。そこで10人単位のグループに分ける。これなら効率的に動けるし、リーダーを決めておけば統率もとりやすいだろう」


「なるほど」


 異論はない。

 他の連中からも不満の声は上がらなかった。


「ではリーダーを決めよう。1つは僕が担当する」


 吉井は真っ先にリーダー宣言。


「俺もやろう」


「俺も」


「任せろ」


 クラスの中でもカースト上位の男子連中がそれに続く。

 あっという間に4人のリーダーが決まった。

 俺のような口数の少ない人間には、立候補する権利がない。


「ではメンバーを決めよう。ウチのクラスは男子24人の女子16人からなるので、各グループ6:4の比率で構成しよう」


 これにも異論は出ない。

 テンポよくメンバーが決まっていく。


「次は俺の番だなぁー、西川、ゲーット!」


 4人のリーダーが、順番に1人ずつメンバーを指定していく。

 分かりやすくカースト上位の者から選ばれていった。

 で、残りのメンバーが俺のような底辺層だけになると――。


「あとはテキトーでいいっしょ?」


 などと深瀬が言い出し、適当ということになった。


「ただし海老沢、お前は俺のグループな」


 深瀬に指名されて、海老沢は複雑な表情を浮かべた。

 無理もない。

 海老沢は深瀬にイジメられているのだ。


 深瀬は面倒な作業を押し付ける奴隷として海老沢を選んだのだろう。

 それは誰の目にも明らかだった。


(まさか俺まで同じグループになるとは……)


 俺は深瀬のグループに入ることとなった。

 吉井のグループに入れればと思っていたが叶わなかった。


「また一緒になれたね」


 瀬奈がすまし顔で言う。

 彼女は1巡目で指名されていた。

 ドラフト1位だ。


「グループ単位で行動するとしよう。2時間ほどでここへ戻るように!」


 吉井の合図で各グループが動き出した。


 ◇


 周辺を散策することで、有益な情報を得られた。

 同じような廃村だったり廃校だったりがあるのだ。

 森の中に小屋が点在していることも確認した。


「海老沢、便利な物を見つけたな。さっきの小屋にあったのか?」


 俺は海老沢の持っている木の棒に注目した。

 細長い角杭で、彼は尖っている方を地面に突き刺しながら歩いている。

 杖の代わりになって歩きやすそうだ。


「うん」


 海老沢の返事はそれだけだった。


「おっ、また小屋があるぞ」


 先頭を歩く深瀬が前方を指す。


「さて、今度は何があるかな?」


 俺は小屋の中を見るのが楽しみになっていた。

 小屋には色々なお宝が眠っているのだ。

 先ほどは、釣り竿をはじめとする釣り具を手に入れた。


「来い、ゲーム! ブレステ5!」


 深瀬が勢いよく扉を開く。

 中には大量のロープと角材があった。

 最も多いタイプだ。


「ハズレかよ、つまんねー」


 深瀬が小屋の中を見ながら不満を口にする。

 ――その時だった。


「お前の墓場に相応しいよなぁ!」


 海老沢は駆け出し、躊躇することなく角杭で深瀬の胸を貫いた。


 誰もが「えっ」と驚く。


「なん……だ……」


 口の端から血を流して振り返る深瀬。


「ざまぁ! 圧倒的にざまぁ!」


 海老沢は角杭を引っこ抜くと、再び深瀬を刺した。

 深瀬が大の字に倒れても、彼は執拗に刺し続けた。

 その顔は驚くほど嬉しそうだった。


お読みくださりありがとうございます。


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