戦の爪痕(五)
「私よりも、そなたらのほうがいたわられるべきかと思うが」
「私たち……ですか?」
「うむ。そなたら影の者は、三つ四つの頃から修行を始めると聞いたぞ。我が家に仕えるため、幼い内から過酷な修行に耐えると」
「えぇ、まぁ……そうですね」
小助は苦笑した。修行の内容を思い浮かべたと見える。
「さすれば、安穏と過ごして参った私よりもよほど、そなたのほうがいたわられるべきだろう」
「若様が安穏と過ごしていらっしゃるところなど、拝見したことがありませんけどね」
「いや、つい先日まで、世情のことなどろくに知らなかったのだ。〝次期長の嫡男〟として、これほど安穏なことがあろうか」
「世のご嫡男も、よほどの事情がない限りは童らしく過ごされているようですが」
「左様か」
さりとて、これが私だ。今さら奔放にふるまうことは難しかろう。家柄や世襲とは無縁の家に産まれていたら、気ままに過ごしていたやもしれぬが。
「ともかく、そなたの心遣いはありがたく思うが、これが私と諦めてくれ」
「承知しました。これからも勝手に案じさせていただきます」
飾らぬやりとりに心地良さを覚えた……のもつかの間。
「……さて」
小助は表情を改め、姿勢を正した。
「私に、お訊きになりたいことがあるのではありませんか?」
口調は穏やかながら、目には悲哀の色が浮かんでいる。
「何……?」
反射的に返した私の声は、平静を装うどころか動揺を露わにしていた。
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次回更新は、8月3日23:00頃を予定しております。
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