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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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戦の爪痕(五)




「私よりも、そなたらのほうがいたわられるべきかと思うが」

「私たち……ですか?」

「うむ。そなたら影の者は、三つ四つの頃から修行を始めると聞いたぞ。我が家に仕えるため、幼い内から過酷な修行に耐えると」

「えぇ、まぁ……そうですね」


 小助は苦笑した。修行の内容を思い浮かべたと見える。


「さすれば、安穏と過ごして参った私よりもよほど、そなたのほうがいたわられるべきだろう」

「若様が安穏と過ごしていらっしゃるところなど、拝見したことがありませんけどね」

「いや、つい先日まで、世情のことなどろくに知らなかったのだ。〝次期長の嫡男〟として、これほど安穏なことがあろうか」

「世のご嫡男も、よほどの事情がない限りは童らしく過ごされているようですが」

「左様か」


 さりとて、これが私だ。今さら奔放にふるまうことは難しかろう。家柄や世襲とは無縁の家に産まれていたら、気ままに過ごしていたやもしれぬが。


「ともかく、そなたの心遣いはありがたく思うが、これが私と諦めてくれ」

「承知しました。これからも勝手に案じさせていただきます」


 飾らぬやりとりに心地良さを覚えた……のもつかの間。


「……さて」


 小助は表情を改め、姿勢を正した。


「私に、お訊きになりたいことがあるのではありませんか?」


 口調は穏やかながら、目には悲哀の色が浮かんでいる。


「何……?」


 反射的に返した私の声は、平静を装うどころか動揺を(あら)わにしていた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月3日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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