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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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戦の爪痕(三)




 御上へのご機嫌取りの言葉を並べ立てた後、発端の者どもは膝を突き合わせ、


『荒事とは、まことに恐ろしゅうござりまするなぁ』

『怖や、怖や』

『京の都にて刀を抜くなど』

『我らのような出自には、思いつきもしないことにござりまする』

『まことに野蛮なことにござりまするなぁ』

『『『あぁ、怖や、怖や』』』


 と嘲笑っていた──


 私は報告を耳にしながら。小助自身も報告を口にしながら。それぞれに、握り締めた手が震えていた。


「……許せぬな……」

「……はい……」


 小助は頷きつつ、居たたまれぬような顔をした。戦当日、報告の中から今の話を外したことを、後ろめたく思っているのやもしれぬ。


「そなたが、そのような顔をすることはない。おそらく父上や親衡殿から止められたのだろう? 童である私に、一度に多大なる刺激を与えてはならぬ、と」


 私が家臣であったとしても、口をつぐんでいただろう。祖父を喪った悲しみに暮れる童に、さらなる衝撃を与えようとは思わぬ。

 

「……そのとおりです。……若様は、ずいぶんと大人びた考え方をなさいますね。そのお年頃ならば、もっと癇癪を起こしてもおかしくはないのに」


 小助は苦笑した。


「それは、御帳台から飛び出した時のことを申しているのか?」


 あの時は、お祖父様のことで頭がいっぱいだったゆえな。


「揶揄しているわけではありませんよ。若様はいつでも、おひとりで立とうとなさるから心配なんです」

「自立心があるのは良いことだろう」

「たしかにそうですね。でも、若様はまだ童なんです。いついかなる時も〝次期長の嫡男〟であろうとしなくていいんですよ」

「小助……」

「出過ぎたことを申し上げているのは、わかっています。ですが……おひとりで、すべてを背負わないでください」


 小助の目は真剣だった。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月1日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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