戦の爪痕(二)
夜。私室にて、灯明皿に揺らめく火を見つめていた。
……他に、良い手立てはあったのではなかろうか。お祖父様を救うために……
あれから毎晩考えているが、答えはいまだ見つからぬ。遠くから、急かすように蝉が鳴く。
「……若様」
御簾の向こうから、小助の強張った声がした。
「いかがした? とりあえず入って参れ」
「……失礼いたします」
いつもの位置に片膝をつきながらも、小助の表情は硬い。
「何があった?」
「……若様……どうぞ、心を無にして、お聞きください」
そう申す小助の手は、きつく握り締められていた。
「……相わかった」
私は姿勢を正し、そう返すことしかできなかった。
「ご報告……申し上げます──」
──戦当日。
陣中見舞いにお越しになったのは、実能卿のみ。後白河方だが頼長卿の親類ということもあり、ご子息とともに此度の件から一線を引いていらしたとのこと。
乱の発端だったはずの公卿どもや腰巾着の貴族どもは、鳥羽法皇陛下の服喪を口実に出仕すらしなかった。
それから十日ほど後。
事後処理に追われる大内裏には、疲労の色が濃く出ていた。そのような中を、発端の者どもは肌艶の良い状態で悠々と出てきた。
御殿(清涼殿)にて御上に出仕のご挨拶を申し上げ、すぐに業務に入るかと思えば、そのまま御殿に居座った。
『御上のことが気にかかっておりましたが……』
『荒事と耳にするだけで、足がすくんでしまう身にござりますれば……』
『今まで駆けつけることができず、申し訳なく思うておりまする』
『出仕するまで、身の細る思いをしておりましたが……』
『こうして御上の無事を確認し、我々はようやく安堵の息をつけまする』
身の細るという発言をした者は、忠通卿の二倍はあるかという脂の乗った体躯だった。
お読みいただきありがとうございます。
またブックマークや評価などにも感謝いたします。
次回更新は、7月29日23:00頃を予定しております。
誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。




