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【4月7日より】ありあけの月 暁編【改稿中】  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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戦の爪痕(二)




 夜。私室にて、灯明皿に揺らめく火を見つめていた。

 ……他に、良い手立てはあったのではなかろうか。お祖父様を救うために……

 あれから毎晩考えているが、答えはいまだ見つからぬ。遠くから、急かすように蝉が鳴く。


「……若様」


 御簾の向こうから、小助の強張った声がした。


「いかがした? とりあえず入って参れ」

「……失礼いたします」


 いつもの位置に片膝をつきながらも、小助の表情は硬い。


「何があった?」

「……若様……どうぞ、心を無にして、お聞きください」


 そう申す小助の手は、きつく握り締められていた。


「……相わかった」


 私は姿勢を正し、そう返すことしかできなかった。


「ご報告……申し上げます──」


 ──戦当日。

 陣中見舞いにお越しになったのは、実能卿のみ。後白河方だが頼長卿の親類ということもあり、ご子息とともに此度の件から一線を引いていらしたとのこと。

 乱の発端だったはずの公卿どもや腰巾着の貴族どもは、鳥羽法皇陛下の服喪を口実に出仕すらしなかった。


 それから十日ほど後。

 事後処理に追われる大内裏には、疲労の色が濃く出ていた。そのような中を、発端の者どもは肌艶の良い状態で悠々と出てきた。

 御殿(清涼殿)にて御上に出仕のご挨拶を申し上げ、すぐに業務に入るかと思えば、そのまま御殿に居座った。


『御上のことが気にかかっておりましたが……』

『荒事と耳にするだけで、足がすくんでしまう身にござりますれば……』

『今まで駆けつけることができず、申し訳なく思うておりまする』

『出仕するまで、身の細る思いをしておりましたが……』

『こうして御上の無事を確認し、我々はようやく安堵の息をつけまする』


 身の細るという発言をした者は、忠通卿の二倍はあるかという脂の乗った体躯だった。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月29日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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